第10話 ジュピターソード
電撃球を食らって動けないシノ、それを見て不気味に笑う魔王四天王[ゴルゴガルゾ]。
間に割って入った者がいた。
アイが間に合った!
すでに右手にジュピターソードを抜いている。
ゴルゴガルゾを剣で牽制しつつ、左手で動けぬシノを抱えて距離を取った。攻撃は無かった。
『改めて名乗ってやろう。
魔王四天王[ゴルゴガルゾ]様だ。』
体が少し強張り、表情はやや引きつったが、目に宿る闘志と対峙する構えは変わらない。
『魔王四天王と聞いて逃げ出さぬか。』
「四皇ごときに臆してられるか……」
アイが返した言葉は小さかった。ゴルゴガルゾが聞き取れたか解らないほどに。
緊張している。
余裕があったなら、
「未来に魔王を倒そうって男が、四天王ごときに臆していられるか!!」ぐらいは言えたろう。
初めて遭遇した中ボス、どのくらい強いのか?
Sレアランクの剣、このジュピターソードを頼みに対峙する。
ゴルゴガルゾが右手を伸ばした。掌から球が放たれる。電撃球とは色が違う。衝撃波の塊、衝撃弾だ!
ジュピターソードでそれを弾く。包丁の様な幅広の刀身のジュピターソード、最も重い剣とされる長く厚みのある刀身の、柄に近い部分で弾く。
ボン!………ボン!……ボン!、ボン!
連発で来る衝撃弾を左右に弾く。剣のほぼ同じ部分で。敵が同じ箇所を狙ってるからだ。アイの体の中心部分……そして、避けたら後ろのシノの頭部に当たる位置!
攻撃のテンポが少しずつ早くなっている。
試されているのか?……遊ばれているのか?
……そこへ、
セイン達が駆けつけてきた!
『もう一度だけ名乗ってやろう!
大魔王[ヴァグディーナ]様の四天王、
[ゴルゴガルゾ]様だ!』
……多分、四天王という響きを気に入ってる。
名乗りの間に、シノを3人が引き受け、後方へ運んでセインが麻痺回復の呪文を使った。
ゴルゴガルゾが攻撃方法を変える。
周囲に落ちてる黒い丸石を鷲掴みにし、衝撃波を利用して発射した。バランスボール大の黒い丸石、アイはそれが何かを知らない。
ガキィ!ドコン!
キィン!バゴーン!
カキィーン!ドカン!!
剣で弾く音と、弾かれた石が何かにぶつかる音、鈍い音が3回ずつ響き渡った後、
『いいのか?そんなに雑に扱って。』
ゴルゴガルゾが悪意に満ちた笑いを見せた。
微かなうめき声が聞こえた。
アイが横を見て、顔面蒼白になる。
弾いた石があるはずの場所に、黒ずくめの人!痛がっている者、血だらけの者、全く動かない者もいる。
4発目が来た!
剣を横にして弾かずに受けたアイは、力負けして後ろに倒れた。
起き上がったが、体が震えている。
(どうやっても、犠牲者が……出る……)
目に宿っていた闘志が消えかかっていた。
……
「私が死なせない。」
後ろから声がした。
「どんな状態でも、私が治します。」
優しい声の主はセイン、ゆっくりと、アイの方へ近づいていく。
「回復魔法と補助魔法のスペシャリストを、
スカウトした事、お忘れ?」
優しい笑顔がアイに向けられた。
セインの手が光り、アイに力がみなぎる。パワー増強の補助魔法だ。
もう一つ、みなぎって来るモノがあった。消えかかった闘志!再び火を付けたのは、彼女の言葉から読み取れる強い意志!
(セインは……この人は……)
(中ボスと戦った経験者だ!!!)
直感だが、多分当たっている。
「一旦、撤退しましょ!」と彼女が言ってたら、心が折れてたかもしれない。でも違う。
(勝てる!!)可能性はあるのだ。
「みぎゃ〜あぁぁぁ!」
変な悲鳴?の先にシノが立っていた。
彼女のレア特典の一つが[忍び装束]、跳躍アップと忍び足と変装のスキルが付いている。その[変装]は、防御力は変わらないが、帽子から靴まで自在に変化させられる便利物。その変装スキルで靴をピンヒールに変化させ……倒れていたチンピラの、右手親指の爪を踏みつけていた。
「コイツらは私を襲った連中よ。」
もう一度、足に力を込めた。
「ぎゃ~あぁぁ!」
「この通り、まだまだ元気な声が出る。」
「あぎゃぎゃ!」
「遠慮なく、ブチかましちゃえ!!」
エールを貰い、アイが走り出した。
「カナちゃん!」
続いてセインが動く。真っ直ぐ伸ばした右手と視線が、敵に向けられている。名前を呼ばれただけだったが、ポーズが物語っていた。
召喚獣の出番よ!
(当たりをお願い!!)
光り始めたランダム召喚の杖に祈りを込めた。
ゴルゴガルゾが、黒丸石を放ってきた。
走りを止め、アイはまたも剣でまともに受けた。後ろへ押される……が、倒れはしない。
セインの強化魔法が効いている!
カナの杖から召喚獣が飛び出た!
アイが走りを止めたので、彼より前、進行方向を塞ぐ形となったそれは……
……何だ???
布団???
白に近い色の、ミニバンサイズの大きな大きな布団袋??中にぎゅうぎゅうに布団を詰め込んである感じに見える。
(ハズレた……)ガクっと気落ちするカナ。
前から見たら、その召喚獣が大蛙だと解っただろう。大きな半開きの口、緊張感のない垂れた細目……
(ハズレた……)という印象は変わらなかっただろうが……
アイが再び走り出し、前方の大蛙を越えるために、ジャンプして、背中でステップ!
ボヨーーーーン!!
……
ボヨーン!はあくまでイメージ、音もなく上に跳ね上がった。棒高跳びなら余裕でオリンピック新記録になる高さ、滞空時間のある跳躍。
「バルーンフロッグ?!」
セインが叫んだ。
教会図書館の魔物図鑑に載っている。
全身が柔らかく、召喚士の指示で意図した方向に跳ねさせたら、さらに倍は飛ばす。
(ハズレじゃない!)そして(飛距離も十分!)そう思っていたのがアイ!
偶然の跳躍だったが、このまま行けば、四天王の真上に落ちる!
ゴルゴガルゾは逃げない。余裕の表情で待ち構えている。
アイが空中で、ジュピターソードを上段に振りかぶる!
「ジュピターソードは、最も重たい剣!」
セインが図鑑に載ってた文章そのままに叫ぶ!武器図鑑も彼女の愛読書だ。
重たい剣は、勢いをつけて上段から振り降ろすのが最も効果的だ!
対するゴルゴガルゾは、余裕たっぷりに両腕を上に、真剣白刃取りでもするように……しようとしたが……
(手が届かん?!!)
プロテクターのような体、特に両肩が隆起していて、長くもない腕の可動には不向きだった。玩具メーカーが可動フィギュアを作る時に困る体型だと気付き、ゴルゴガルゾは初めて焦りを覚えた。
アイの振り降ろした一撃が、
ゴルゴガルゾの脳天に、
決まった!!!
ジュピターソードがゴルゴガルゾにめり込む!
剣が光った。ネオンカラーの緑色の光。
またもやセインが、図鑑の紹介文そのままに叫んだ。
「ジュピターソードは渾身の一撃を放つ時、刀身が、緑色に輝く!!」
つまりは、
クリティカルヒット!!
……そして、
……
……そして、刀身が8割めり込んだ状態で、
……
……ジュピターソードが、
……折れた。
ゴルゴガルゾの衝撃弾が、至近距離からアイのボディを直撃した。
もう、長さにして10cm分しか刀身が残されてないジュピターソードの柄を握りしめたまま、水面を跳ねる軽石のように、地面を何度もバウンドしながら、アイは数十メートル弾き飛ばされた。
『ちょっと痛かったんでな、特大の一発をくれてやったよ。』
ゴルゴガルゾが不気味に笑った。
痛かったと言っているが、刀がモロにめり込んでいるのだが、ゴルゴガルゾの動作は以前と変わらない。……
一方で、
アイは起き上がれない。
目も開けない。
……そして、
……ジュピターソード以外に、四天王と渡り合える武器も……もう無い。
もっとも重たい剣。重さ=破壊力。[世界]に同じモノは数本しかないとされるSレア。アイの強さの象徴であった[ジュピターソード]。
その全てを否定した四天王に、勝てるのだろうか……
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