第9話 遭遇

 マンダルの町に着いた。この次の町が伝説の武器探しの拠点となる目的地だが、移動時間を考えて、まだ日没には結構あったが、今日の宿はこの町となった。

 この町止まりのもう一つの理由は、到着前に、シノとレイ姉妹のスタート地点の町だと知ったから。お世話になった人がいるという。

 2人で挨拶に行く為に、二手に分かれた。

 残りの3人には初めての町、規模は中の小、自警団はあるが、実質1人の保安官によって町の治安は守られている。裏道や東のハーレム地区に入らなければ安全、西側は活気があってそれなりに栄えている……と姉妹から聞いて、西側の商店街へ向かったアイ達だったが、

 ……ハーレム地区と間違えた?

 閑散として人通りもない、西部劇のゴーストタウンの雰囲気だ。

「買い物、どうする?」

 迷っている所へ、血相を変えたレイが、息を切らして走って来た。

「お姉ちゃんを助けて!!」


 アイはもう、遥か先を走っている。

 シノが、ハーレム地区のギャンギーノファミリーに殴り込みに向かったと聞き、簡単な場所を聞いて即座に駆け出した。

 その後を、告げに来たレイがすぐ追おうとしたが、セインが止めた。そして今、事情を説明しつつ、カナと3人で、ジョギング程度の速度で走っている。余力を残す為、このあと戦闘になるかも知れないのだ。


 この[世界]に来た初日に、シノとレイは襲われている。

 偶然なのか故意なのか、同じ日に同じ町の同じ場所でスタートとなった。顔が現実と似てたので、お互いすぐに解った。

 さっそく2人でマンダルの町を散策した。東のハーレム地区は危ないと言われたので、行っていない。行ってはいないが、東との境に近い狭い路地で、2人は集団に襲われた。

 東を仕切るギャンギーノファミリーのチンピラ達。10人は居たはずの通行人は、逃げ去り、建物に隠れ、あっという間にいなくなった。相手は6人、カナを1人が羽交い締めにし、暴れるシノを5人がかりで押さえ込む。現実なら5対1でも何とかなるかも知れないが、この[世界]のシノに空手のスキルは無い。そして更に悲しい事に、襲って来た一味は、半数がNPC、残り半数はプレイヤーだった。

 プレイヤー同士の余計な争いを防ぐために、基本的に、プレイヤーはプレイヤーを攻撃できない(稀に出来る者もいる。シノもその1人、レイをバシバシ叩いている)。双方の同意で[バトル]が出来るが、これは襲うとは違う。

「NPCに混ざれば、女を襲えるらしいぜ」という

どこかのバカが広めた噂を、実行しているバカが居たのだ。

 ナイフが飛んで来た!

 鼻先、指の間、股関、etc……チンピラ共のスレスレを無数のナイフが通過した。髪の毛をバリカンのように削り取って、壁に刺さった物もあった。

「次は当てるぞ」

 ガラガラ声に、チンピラ達は青ざめて消えた。

 しわくちゃ顔の小柄なおっさん。拳銃は無いがハットとブーツのガンマンスタイル、胸に輝く流星マーク……じゃなかった、星型の金バッジ。

 この町の保安官[ブロッソン]との出会いだった。

 暴漢撃退アイテム[乙女の守り]を、姉妹に教えてくれたのも、このブロッソンだった。

 シノの初期ナイフスキルは『Aー』、これは接近戦のナイフ格闘の方で、ナイフは破壊力は低いが、序盤のフィールドのザコ魔物なら簡単に倒せる。それでもシノはナイフ投げにこだわった。シノの投射スキルは『C』、それでも投射だけで魔物を倒した。サンエルノに[乙女の守り]を取りに行くまで数日余分に掛かったが、現在の投射『A』になったのは、このブロッソンへのリスペクトだ。

 ただひたすら投げ、戦闘はほぼ姉が担い、時には数十本ものナイフを使用し、戦後に毎回レイが回収を命じられた(妹も頑張った)。

 そのブロッソンに久々に会いに行くと……居なかった……ギャンギーノの用心棒、ゴルゴガルゾに殺されたと、住人に聞かされた。


 シノは東地区に入ってすぐに、ギャングと遭遇していた。東地区の広場、そこに一味がたむろっていた。本来なら、冒険者の出会いの場にもなるはずの場所、隣接する児童公園も合わせると、草野球が余裕で出来そうな広さがある。山型のコンクリの滑り台、ボルダリングの壁、砂場……解るのはそれくらい、あとは元が何だったのかも解らないくらい壊れている。お決まりの噴水もここには無い。広場と公園の残骸。人影もなく、ギャング一味と……シノしかいない。

「ギャンギーノファミリーね」

 シノの方から近づいて行く。顔は怒りに満ちている。黒服のチンピラが6人と、2mのプロレスラーの様なマッチョマンが1人。

「ギャンギーノ?」

 マッチョマンが不気味に笑った。顔もデカく、人間離れしていた。失敗した福笑いの様な顔だ。

「……ああ、ギャンギーノ、あいつか。威張りくさってたから、絞めちまったよ。どっかその辺に埋まっている。」

 また不気味に笑った。性格も人間離れしているようだ。

「ゴルゴガルゾファミリーと呼びな。」

 この不気味なマッチョマンが、ブロッソンの仇で間違いない!

 シノの怒りのボルテージが上がった。

 さらに怒りが増す要因が……全員胸に、金色に光る星型のバッジを付けている。

「ファミリーの印、特注品だ。死んじまった保安官に代わって、この町を仕切るって意味だ。」

 シノがブチ切れた!マッチョマン目掛けて突っ込む!

 手下が次々飛びかかって来たが、一瞬で撃退!

倒したのは[乙女の守り]。暴漢が近づくとスタンガンのように、相手に電流を流す。うーん、便利だ。一家に一台欲しい。

「ボ、ボスは硬気功の使い手だ!刃物だって効かねえぞ!」

 仲間が一瞬でやられ、ちょっとビビりながらチンピラ……すでに3人やられてるから、チンピラDが叫んだ。まさに虎の威を借るって奴だ。このチンピラには見覚えがあった。隣のチンピラEとFにも……初日に襲ってきた奴、しかも全員プレイヤーの方。

 そのチンピラDの背中をボスが押した。

「お前もやられて来い」そういう意味だ。どちらが怖いかは歴然。残り3人も、破れかぶれ故に、何の工夫もなく突っ込んで来て倒された。意識はあるが痺れて動けないチンピラが、6人転がっている。残りはマッチョマン1人。

 そしてコイツも、工夫もなくシノに近づいて来た。

 シノがナイフを放つ!避けもせずに眉間に命中、しかし無傷だ。金属音のような音を立ててナイフは弾け飛んだ。次に[乙女の守り]の電撃攻撃!

……が、これもマッチョマンに効いていない!

「電撃は大好物なんだよ。」

 不気味に笑うマッチョマンの目が、赤く光った。

 電撃にビクともしないどころか、吸収しているようにも見える。そして、マッチョマン、

[ゴルゴガルゾ]の体が膨張し始めた。

 アメフトのプロテクターの形に似た、更に肉厚で強靭なボディ、腕の長さは余り変わっていないが、掌は2倍の大きさ、野球のグラブよりもデカい。脚も倍以上の太さになり、顔は、首から上は胴体に吸収されて、右目は右肩の側、左目は心臓の下辺り、口は大きく広がってヘソの位置に、1/4切れのスイカがそのまま体の中心にある感じになった。

 肌はグレーに変化した。完全に魔物の姿、正体を現した。

『あらら、戻っちまった。でもまあ、この町の結界への免疫が完全についたってことだな。これで存分に暴れられる。』

 更に野太くなった声で不気味に笑った。

「そ、そんな……ボスが……魔物……」

 チンピラ達は青ざめている。

 シノはある程度、予想はしていた。してはいたが、予想以上の大物が出た!

 距離を取ろうと下がるシノに、魔物の突き出した右掌から発した、ハンドボール大の電撃球が直撃する!

「ぐっ!」

 全身が痺れ、その場にかがみ込む。

 痺れが取れて動けるようになったチンピラが、隙をみて逃げ出そうとしたが、胸の金バッジから突如電撃が発して再び麻痺する。

 悲鳴を上げながらチンピラ共の体が黒ずんでいき、丸くなり、バランスボール大の黒い丸石と化した。6個の黒丸石が、殺風景の公園に増えた。

『特注品だって言ったろう。』

 またもや不気味に笑う。

『俺様は、大魔王[ヴァグディーナ]様が配下、魔王四天王の[ゴルゴガルゾ]様よ』


 遂に、魔王の名を口にする敵に遭遇した。

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