第8話  私も[世界]を終わらせたい!

 魔王を倒せば、この[世界]で死に、現実で意識不明になっている人々が復活する……そんな都市伝説のような噂がある。

「 I《僕》が[世界]を終わらせる!」

 アイがそう言ったのも、その噂を信じての、いや、その噂に希望を託しての思いだった。

「……私もそう信じてる。」

 次の目的地へ向かう途中、カナが噂の真偽を尋ね、セインが返した。教会図書館の書籍を読み漁ったセインが言うと心強い。

 が、文献には答えは無かったという。それでも、この[世界]がしっかりと創り込まれ、人々を楽しませる目的の空間だと書物が教えてくれたという。

「……仮に、この[世界]をゲームに例えると」

創った人とは別の誰か(ハッカー?)が、この[世界]で死ぬと意識不明になる細工をした。そのバグ(ウィルス?)を除けずにいる、というのが彼女の仮説。

 そして、魔王を倒すと治るという根拠は、

「法王様に謁見を許されたの。」

 セインはシスターとしてはそこそこ上位、都市部以外なら町の教会を任されるくらいの地位(の設定)、法王に拝謁可能ではあるが、申請した訳でもなく、イベントで何かしたでもなく、突然呼ばれたという。

 他にもそこそこの地位の数名、それも全てプレイヤーが同時に呼ばれ、

「多くの冒険者を悩ませている意図せぬ災は、魔王討伐によって祓われるでしょう。そんな神の啓示を受けました」この啓示を拡めるよう、法王様は申されたという。

『今すぐバグを取り除くのは(多分、他の不具合が起こるので)難しいが、魔王を倒してエンディングを迎えれば、改善されるアップデートを行いました。』

 呼ばれた者たちは、そう解釈した。

「うん、ある!あると思う!それ!」

 レイが叫び、皆も頷いた。希望的観測ではあるが、見えない程の小さな光が、少し大きくなった気がした。

 ……そこで次の目的地、

 魔王の居場所はおろか、名前も存在も確認出来てない……これは、まだまだ力不足だとセインは言う。

 ステータスも大事だが、装備も重要。町を3つほど越えた先に[伝説の装備]が眠ると、図書館の本の一つに記述があった。そのセインの情報を頼りに、一行は進んでいた。


「休憩にしましょう」

セインがレジャーシートとランタンを取り出す。

 まるでピクニックだ。町移動の途中に、極稀に休憩ポイントのような場所がある。魔法石をはめる灯籠のような物があり、魔法石を消費することで簡易結界を張り、10分程度の休憩ができる。

 その灯籠の代わりとなる[ランタン]を、セインは持っていた。あらかじめ魔力を込めておけば、30分程度は結界が持続する。

 ただし、聖なる魔力が必要で、使える者は限られてくる。町や都市には、長年魔道士や聖職者によって貯められた魔力を使った大結界が張られているが、原理はこのランタンと同じ。強い結界なら強大な魔物の侵入をも防ぐ。バリアと似ているが、内部に侵入してきた魔物に弱体化の効果も与えるのが結界だ。もっとも魔物に効果を発揮している間は膨大な魔力が消費される。なので小さな町や村には、結界が未設置の所も少なくない。

 狡猾な魔物もいる。人の姿に化けて結界内に侵入し、時間をかけて体を慣らし、結界内でも力を存分に発揮する魔物、街中での中ボスイベントがこれにあたる。

 すんなり入れる魔物もいる。全く敵意も邪悪さもない魔物(召喚獣など)。ただし、他人の迷惑になるし、わざわざ回復ポイントで魔力を膨大に消費する者もいないので、特別なケース以外は召喚獣を連れ歩く人はいない。

 もう一つの特別なケースは、プレイヤーが魔物(エルフなどの亜人や、呪いで魔物の姿にされた等)だった場合、結界に拒絶されない。

 セインのランタンは、大きい魔物も、実は普通の魔物も完全には防げない。でも嫌う。聖なる魔力が必要なのはこの為だ。火を起こして野生動物を遠ざける行為に近い。強力な魔物が近づくと光を放つ、探知機の役割も果たせる便利グッズでもある。

(魔物が出る場所で、こんなにリラックス出来るなんて……)

 ちょっと前にはあり得ない光景だとカナは思っていた。

 「ちょっと前」「以前」自然とそう考えるようになり、「トモちゃんと居た頃」「トモちゃんなら」という考え方はしなくなっていた。ほんの数日前まで一緒にいたのに……

 あの、トモちゃんに置き去りにされた翌日、下校時に学校の玄関先で、トモちゃんにばったり遭遇した。

 トモちゃんは顔を引きつらせたまま、その場で固まった。今、カナの無事を知ったという顔だ。休み時間に隣の教室まで確認しに行く勇気が無かったのだろう。怖くて誰にも聞けなかったのだろう。でも、

「良かったぁ。心配してたんだよぉ。」なんて笑顔で近づいて来るよりいい。だからこそ、期間にすれば数週間、同じ学校だと解ってからはもっと短かったが、一緒に居れたんだと思った。

「友川さん、さようなら」

普通の声で普通に挨拶し、くるりと背を向けて去った。これが一番いいと思ったから。

 本当に死にそうな場面では、他人を置き去りにしても罪は問われない(他人を囮にしたら、問われるかもしれないが。)

 カナは許していた。全く恨んでない訳では無かったが、新しい出会いのお陰で、過去に囚われなくなっていた。

「さようなら」=出会う以前の他人に戻りましょう。そんなメッセージを残して去った。

 アイと出会った翌日、無事に現実で目覚めた日の朝、母親が起こしに来た時に、

「あと5分だけ」

ぐずった振りをして、5分後に母が再び起こしに来るまで、ベッドの中で大泣きした。

(私が死んでたら、私より、お母さんが悲しんだよね……生きてて良かった……娘が二人も意識不明になったら、お母さん、耐えられないよね…)

 声を出さずに大泣きした。

 ……そして今、

(私も……私も[世界]を終わらせたい!………妹の為にも!!)

 そんな思いを抱きながら、仲間とピクニック?してるカナがいる。

 と、そこへ、

 カナの頭上に何かが乗った。

 いや、とまった?……本人には見えない。

「あ、鳥だ」とレイ(やっぱり)

「飛行機?」とシノ(おいおい)

「スーパーマ……は無理があるわね」とセイン。彼女にオチ担当は無理なようだ。

 皆が騒いでないので、カナは自然に振る舞うよう努め、頭に来訪者を乗せたまま、右手に取ったばかりのサンドイッチを口に運ぼうとした時、

 トン、トン、トン

 手乗り文鳥のように跳ねながら、カナの右肩、右肘、右手首へと移り、サンドイッチを突付いた。

(かわいい!)

 体の大きさならインコぐらいだが、羽が長い。少し開いた扇のように薄く真っ直ぐに後方に伸びている。全長で言うなら鳩くらい、羽のフォルムは最新鋭戦闘機のよう。嘴は鋭いが、目が大きくて愛らしい。

「かわいいね」カナが言うと

「ピィィィー!」答えるかのように鳴いた。

「ピィちゃん」

 安直に名前は決まった。

「ピィちゃん?黒ブタじゃないのに?」

「ピィちゃん?お湯をかけても変身しないのに?」

 姉妹のツッコミが入る。

「図鑑で見た通りだわ。ミサイルハヤブサ。」

 セインの一言でカナは硬直した。

「普通のハヤブサは急降下で加速するんだけど、ミサイルハヤブサは平行飛行でも加速できるの。薄い鉄板なら簡単に貫通するって、魔物図鑑には書いてあったわ。」

「へーっ」みんな感心しながら見てる。

 この[世界]にも、犬や猫のような普通の動物も多数存在する。町中にも野生にも。

 でも、

「敵意が無いと、魔物でも結界に入れるって本当だったのね。」

 ……やっぱり魔物だった。

 魔物図鑑に載ってるくらいだもんね……


 高速で飛ぶからミサイル……とりあえず、爆発しなくて良かった……

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