第7話 オグリキャップ、恐るべし!

「え、ええっーー?!」

 聖堂へ向かうカナの足が一瞬止まった。

「は、裸になるの?!!」

「そう。乙女だと確認してから渡されるの。」

「大丈夫だって!周りみんな女性だから。」

 行くのを渋りだすカナを、絶対必要だからと強引に連れていく姉妹。

 その一方で、


 1階の入口側の一面が全てガラス張りで、中が見渡せる建物。入口は1人ならゆったり通れるくらいの幅、左右に武装した衛兵が立っている。

 アイが中へ入ろうとする。

 止められる……かと思いきや、何もなく普通に通れた。

 いきなり小ホールくらいの広さの部屋、天井は2階、いや3階分くらいの高さで、柱もなく、外から見るよりずっと広く感じる。

 その壁一面が全て本棚、ガラス面以外は、どこを見ても「本」「本」「本」

 人は30人くらいいるだろうか。立ち読みをする者、中央に多数置かれたソファに座って読む者、目当ての本を探す者、リフトで上の方を探す者、みんな教会関係者とわかる服装、アイ以外は全て神父か修道士だ。

 アイの目が輝いている。

「宝の山だ……」

 思わず口に出る。

 と、少し離れた場所にいたシスターが、その声を気に留めた。

 アイを見て、近づいてくる。

 白一色の修道服に金髪、二十歳前後の文句ない美女。文句ない美女は初登場だ。

「本がお好きなの?」と聞こうとした彼女だが、アイの姿を見て別の事に興味を持った。

「ちょっといいですか?」

彼女はいきなり、手のひらをアイに向けてきた。

「はい。」

 ついこの間、同様の事をしたばかりである。アイは額をその綺麗な手のひらに近づけた。

「あらあら」

 彼女がちょっと驚いた。

 すぐに笑顔に変わる。

「そちらも手のひらを出して下さる?」と言おうとした言葉を飲み込み、アイの額に手を当てた。

「あらまあ」

 今度はさっきより驚いたが

「ありがとう。ところで、本はお好き?」

……それから2人は話を弾ませた。


 アイは別に、ステータスを見せびらかしたい訳ではない。怪しくない事には素直に動く、それが結局は近道となる。今までの経験に基づく行動なのだ。……そしてまた、新たな出会いを生んだ。


「騙したわね!」

 護身のネックレス[乙女の守り]を貰った帰り道、カナは不機嫌、シノ&レイ姉妹は大笑い。

 裸になどなる必要もなく、すんなり貰えた。

「飛行機に乗る時は靴を脱ぐのは知ってる?」

 またまた姉妹で大笑いする。

(いつか見てろよ!)というカナの怒りは、その一瞬でどこかへ消えた。

 待ち合わせ場所、ガラスの向こうで、ソファーに座って楽しそうに話す、アイと美人……いや、超美人?!

「誰よ、あのシスター?!」

 姉妹も気づいた。

 慌てて中に入ろうとすると、入口の衛兵にブロックされた。

「ここは、教会関係者か徳の高い方以外は、入場禁止だ!」

 ……アイが入れたのはモラルが高かったから。

 多分そうだとさっき予想した謎の美人シスターが、ステータスを確認に近づき、手のひらではなく額を出されて「あらあら」

 予想よりステータスが遥かに高く「あれまあ」


「知り合いが中に」と言っても、

「ちょっと呼ぶだけ」と言っても、衛兵は全く取り合わない。

 アイの方が3人に気づいた。入口へ……美人と一緒にやって来る。

「彼女[セイン]さん、仲間に誘ったんだけどいいかな?」

(な、何ですとぉぉぉお??!!)


 知識が豊富だという。10万3000冊は優にありそうなこの図書館の本を、この[世界]の情報が書かれた物を中心に、セインはかなり読み込んでいるという。それでアイと話が弾み、アイの方からスカウトした。

 ……カナとレイは不機嫌である。

 多分日本人なのにセイン(名前変更自由)、日本人なのに金髪(初期設定で選択可能)、黒や紺がベースの一般的な修道服ではない純白の修道服(聖教会の神父もほぼそうなので不可抗力)、おまけに超美人(多分、現実でも美人)。

 ちょっと見ただけでわかった物腰の柔らかさ、ちょっと話しただけでわかる慎ましさとしとやかさ。理想のシスターを絵に描いたような、

 まるで、

 短距離から長距離までを得意とし、ダートも芝も両方OKの万能馬、オグリキャップのようであった。

「本当によろしいのでしょうか?」

 オグリキャップが皆に視線を向ける。全員、頼んで仲間に加えてもらった身、リーダーへの反対票は無かった。


 [シスター]が仲間に加わった!


「挨拶代わりに御馳走しますね。」

 聖教会のお膝元で一番の高級レストラン、1人2000G(2万円くらい)はするという。アイが断ろうとしたが、

「シスター割引が利く」

「教会は所属しているだけで手当てがある」

 などと説得され、左右に姉妹に立たれて笑顔を向けられるという無言の圧力もあり、決まった。まだ仲間として完全に認めていないカナも、もちろん食べたかった。


 展望レストランになっていて眺めも良かった。

 サンエルノの町は山の中腹にあり、さらに上に行くと、法王の住まいもある聖教会の[大聖堂]がある。貴族や王族も訪れる場所だ。

 客層も上流階級が中心ゆえ、店内も格調高く、落ち着いている。奢りと言われなければ、ちょっと入れない。

 料理も絶品だった。そして会話を重ねるうちに、セインが割と気さくだとわかる。

 三品目を終えた後、レシートがセインの前に置かれた。

「あっ!」

 何かをひらめいた程度の「あっ!」をセインが発した。大声では無かったので、まさかその後、大事が待っているとは誰も思ってない。

「お金を持って来てなかったわ。ちょっと取ってくるね。」

 自然に席を立ち、出入口へ向かった。

(ドジっ娘要素もあるんかい?!)

……と、もう少し親しくなってたら突っ込んでいたろうが、

(ま、まさか……?!)

 不安がよぎった。

「私が行く」

 シノが席を立ち、セインを追いかけた。

 ちょっと肩で呼吸を整えて、気持ちを落ち着かせた後、

(……いや!あんたもちょっと心配!!)

 カナとレイは思ったが、もう2人は見えなくなっていた。

 何でも入って荷物にならない[万能袋]があるのに、お金を忘れるなんて、あるのだろうか?


 次の品が残っている人数分だけ運ばれてきた。

 セインとシノが戻ってくる様子はない。3人とも料理に手を付けるか迷っている中、レイが手を伸ばしたのはレシート、その金額を確認して引きつった笑顔を見せ、隣のカナにレシートを渡す。

「とりあえず皆で立て替……」

 まで言いかけたアイの言葉は、カナからレシートが回ってくると、

「とりあえず事情を話してくる……」

 笑顔を引きつらせ、違う言葉になった。

 アイが支配人っぽい人を見つけて席を離れた後「……食べた分までの金額にならないか、私のスキルで交渉してくるわ。」

 と、立ち上がろうとしたレイの腕を、

 カナがしっかりと抑えた!

 一番逃亡の可能性が高い者を、立たせる気はなかった。

 と、事件は起こった!


「金を出せ!!」

 覆面の3人組、強盗だった。剣が2人と杖1人、現実風なら刃物2人と銃1人。町の入口や要所には騎士団の兵が常設されているが、このレストランは「似つかわしくないから」と、VIP来訪時以外は兵がいない。そこを狙っての強盗だ。

「客どもはアクセサリーを外しとけ、後で回収に行く!それまで動くな!」

「動いた奴は殺す!」

 全体を威嚇した後、

「まずはレジの金だ!金庫の金も全部出せ!」

 剣を持ったリーダーらしき男が、大袋を取り出した手下2人とともに、支配人っぽい人の方へ近づいていく。

 ……そう、支配人っぽい人の所へ、

 ……

 強盗事件終了。

 3人組はアイにあっさり倒された。店の人には感謝され、客からは拍手喝采を浴びた。


 強盗が通報で駆けつけた兵士に引き取られていった後、アイは席に戻ってきた。

 すかさず、特別なデザート、

「お店からのサービス」が3人の前に運ばれてきた。

「ですから、まだお代が……」

 もうアイは話していたらしい。

 が、

「お代なんて、とんでもない!」

 店員は笑顔でレシートを回収して去った。

 レイがアイを「金の成る木」と表現したのが良くわかった。金の成る木、恐るべし!

 少しして、セインとシノが戻ってきた。寄り道をして遅くなったらしい。入口で見つけた謎の宝箱をセインに見せに行ってきたという。

 長年この町に居たセインも、その存在は知らなかったようだが、

「ヒントを見つけるまで後回し」という意見は同じだった。

 皆が金の心配をしている中、儲け話(宝箱)の事を優先させるとは、さすがは盗賊、恐るべし!

 セインの忘れ物は事実。教会からの特別報酬を、自室に別にしていただけ、単純な話であった。

 その後、強盗事件を笑い話として語り、無料のグルメを十分堪能した後、店を出ると、数組の客が待ち構えていて、再び感謝をされた。

 あの場にいた客全員が、怖い思いをさせたという店側の配慮で、食事代無料になったらしい。


 セインが近場に、もう1か所寄りたい所があるという。

 その道中で、

「セインさんの名前、本名なんですか?!」

 カナもすっかり、セインと打ち解けていた。気さくで人当たりが良く、頼りがいもありそう。(ドジっ娘要素が少しあるけど。)

「漢字だと『聖』って書くの。親がとんでも無い読み方にして、」

 キラキラネームの犠牲者だ。

「小さい頃に反抗して、聖子って呼ばないと返事しない!なんて言った事もある。」

「!」

「!!」

 後ろを歩いていた姉妹が反応した。

(今のはどっち?ただの実話?それとも…?)

 ゴゴゴゴゴゴ……

 その答えは、次の言葉にあった。

「星型のアザは無いけどね。」

 後ろの2人に、髪を上げて首筋を見せた。

 ビンゴォ!彼女との出会いは、引かれ合ったからかもしれない。


 セインが案内した場所は、防具屋。ブティックっと呼んでもいいほど洒落た店で、御馳走する金が浮いたお礼にと、アイにマントをプレゼントした。

[聖人のマント]。襟付きで、色は白に近いベージュ、今のボロマントより魔法耐久が上がる点にアイも興味津々。信者も多くが使用している、値段が手頃で実用的な物をあえて選んで受け取り易くし、さらにその先のプラスアルファが、カナ達を唸らせた。

 襟に当たるからと、アイの同意を得てから、長髪をバッサリ(店員に頼んだ)。アイが髪型にこだわりが無いとみるや、目が隠れる前髪もバッサリ、店から出た時には、戦い汚れた放浪剣士だった若者が、爽やかヘアーの青年剣士に様変わりしていた。

 やはりできる、このシスター。


 オグリキャップ、恐るべし!

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