第47話 遊んでしまった
「遊んでしまった……かな?」
おっさんが呟いた。
顔は普通のおっさん。
普通でないのは服装。カジュアルだが、光を反射するほどの派手な黄金のスーツ。
悪趣味なおっさんと呼ぼう。
いや、進行上、名前を呼ばざるを得ない。
……コイツが[ゴドー]である。
自らを[ゴッド]と名乗っている。
……やはり、悪趣味なおっさんと呼ぶべきか?
「ゴドーではない、ゴッドと呼べ!!」
そんな風に言ってそうな勘違い野郎だ。コイツには、カリスマも威厳もない。
……しかし、恐怖と暴力で支配している点は同じだ。
闘技場のような場所。
ゴドーの相手は、目の前にボロボロになって転がっている。一方的にやられたようだ。
「がっはっは!余りにもムカついたから、遊んでしまったよ。」
悪趣味なおっさんは、笑い方も悪趣味だ。
取巻き……いや、恐怖で従わせている者たちが囲む中での、公開リンチ。
うつ伏せに倒れているボロボロの男を、足で転がして仰向けにする。
?!
これは……アイ?!
全く相手にならず、一方的にやられたようだ。
息は、ある。意識も、ある。ダメージで倒れているようだ。
「これで解ったろ、小僧!さあ、ひれ伏せ!」
自分でうつ伏せに戻し、体を起こそうとするアイ。そのまま土下座を期待するゴドー。
「……ああ、解った……お前は誰も倒せない…」
ゴドーの表情が、一瞬で曇った。
「……お前の攻撃はショボい……こんなんじゃ…誰も倒…」
言いかけのアイを、思い切り蹴り飛ばした。
10mくらい吹っ飛んで、3回転して停まった。
「死んじまったかな?」
また悪趣味な笑い声が響く。
「……言ったろう……お前は誰も倒せな」
また起き上がろうとしたアイの側に、一瞬で移動し、また蹴り飛ばした。
「ゴッド、もうその辺で……」
止めようとしたのは、取巻き、いや、服従者の一人……クロノの仲間にいたキバ?!
「ああ?」
離れた所からキバを睨むと、
一瞬でキバの前に移動し、
「そういやあ、お前の粛清の途中だったな。」
鬱陶しいくらいに顔を近づけて睨んだ。ガンを飛ばすという、チンピラ行為だ。
キバが裏切り行為で粛清されようとした時、アイが現れ……一方的に、やられた。
遠くでアイがまた、起き上がろうとしたのに気づき、一瞬で移動し、
アイの顔を、踏みつけ!踏みつけ!踏みつけ!踏みつけ!踏みつけた!
現実だったら、殺人に当たる行為だ。
「辞めなさい!!」
叫んで走って来たのはセイン。
「おっと?アルテーシアか?」
生きていたのかという反応。
「貴方にアルテーシアと言われるとゾッとするわ!外道!」
アイを膝に乗せ、介抱する。
外道がセインに暴行を加えようとした時、
「お前は『何で貴様がここに?!』と言う。」
後ろから声がしたので、殴ろうとした手が止まった。
振り向くゴドー。そして笑った。
「……また、くだらん漫画か何かの引用か?」
ゴドーは漫画やアニメを嫌っている。
「別に言わんよ。どうやって妹に見つけさせたかは気になるが、折角脱獄できたのだから、とっとと隠れれば良かったじゃないか?」
ゴドーがまた、瞬間移動して、キャスの前に来た。その距離2m。スタープラチナなら届いた。
「愚かな奴だと前々から思ってはいたが、逃げずに再び封印されに来るとはな。」
金のカジュアルと紺のカジュアルが対峙する。
「そうか……そこの小僧を助けに出てきたのか…相変らず甘い奴だ。小僧なんか見捨てて、弟を探しに行けば、勝機はあったかもな。」
下卑た笑い顔+上から目線の物言い。できることなら、今すぐブチのめしたい。
「さて、お仕置きターイムだ。」
キャスが一歩前に出た。
策はあるのだろうか?
ゴドーは1人では封印できない。兄弟2人でやるのが唯一の方法なのだが……
「また封印してやろう。今度はどこか離れた場所にしてやろう。雪山の奥の奥にするか?」
ゴドーの方は1人でやれる。ちょっと右手を動かすだけで、キャスを封印できるのだ。
肩書は監視員のトップ。部下の不祥事に対応するために、全ての監視員より強い能力を与えられている。もちろん、ゲーム内で封印拘束されたとしても、命に関わるとなど考えられていない頃の仕様。友人、知人、あるいは金で買収され、不正行為を働いた監視員を拘束する為の力だ、
一方の兄弟は、まさかの為の保険程度で用意されていた封印能力。ゲームであった頃に設定された力。ゲームじゃなくなる状況は想定外だった。
「短いシャバだったな。脱獄のご褒美に、封印後なら、少し話す時間をやってもいいぞ。」
封印されても、首から上だけは動かせる。最初のうちは普通に話せる。放置され、徐々に体力気力が失われていく。
ゴドーの右手人差し指が、ピンと伸びたら終わりだ。指でソフトタッチする仕草で、キャスはまた封印されてしまう。
「ん?」
指が、動かない?
いや……首から下が動かない??
「俺が時を止めた。」
背中側から男の声。
首から上だけ振り向けた。
「な、『何で貴様がここに?!』」
言いましたよ、ゴドーさん。
キャスと瓜二つの顔の、服の色だけ違う男が立っていた。
「わかり易くしよう。」
後ろの男、現れたばかりの男が、服をグレーから紺に変えた。そして、前からいた前にいるキャスが紺からグレーに戻す。
「俺がキャスだ」前から声。
「俺がアズだ」後ろから声。
「お前は俺たちを、服の色で区別してると思ってたよ。」
「地下牢から出てもすぐに動けなかったんでな。弟に時間稼ぎしてもらってた。」
ゴドーはずっと、この街の地下牢から逃げたアズだと思って会話していた。遠方の荒野の地下深くのキャスは、まだ見つかっていないと思って。
「やられたらやり返す。10倍返しだ!」
「生まれの不幸を呪うがいい!」
「貴様ら『謀ったなぁ!』」
アニメ嫌いのゴドーさん、ミラクルな返し!
年子の兄弟なのだが、現実でも双子と間違われるくらい似ている。普段から兄弟を間違えていたゴドー。[世界]がおかしくなり、ゴドーもおかしくなっていくのを感じていた兄弟は、ある時期から意図的に服色を固定し始めた。こんな事態に備えるために。
ホッとするセイン。
「ありがとう、時間を稼いでくれて、お陰でアズ兄も助けられた。封印も上手くいった。」
「プレイヤーを殺せないって情報が無かったら、ビビってたかも……」
アイが弱々しく笑った。
でももう大丈夫。自力で立ち上がれた。
「質問だ……兄の拳で殴るか?弟の拳で殴るか?あててみな。」
動けないゴドーの前に、並ぶ兄弟。
「ひと思いに、兄の拳でやってやろうか?」
と、アズナブル。
ゴドーは引きつっているだけだが、
「NO!NO!NO!NO!NO!」
ゴドーの背中から声がした。後ろに隠れているセインの声だ。
「弟?」
と、キャスバル。
「NO!NO!NO!NO!NO!」
「両方ですかあああー?」
「両方ですかあああー?」
と兄弟同時。
「YES!YES!YES!YES! YES!」
そこから、兄弟同時に殴りに殴りまくる、オラオララッシュが始まった。
セインは下がってアイの隣に。
「封印した今なら、ボコボコにやり返せるわよ」
言おうとしてやめた。
彼には似合わないと思ったから。
その2人の後ろ姿を見ている5人。失敗したら危険だからと、隠れさせられていた5人。
「……やっぱりいい雰囲気よね、あの2人。」
「姉弟よ姉弟。」
「そうですよね。私たちみんな、兄弟ですよね」
(いや、ミコちゃん。それはそれで困るの……)
「オラオラオラオラ!」
「オラオラオラオラ!」
封印されてた兄弟の復讐ラッシュは、3ページ半分続いた。
その後、秘密の地下牢に閉じ込め、自分たちがやられたのと同じ、ダメージが治らない魔法をかけた。ゴドーは死なないので永遠に痛む。封印されたままのゴドーは首から上しか動かせず、舌を噛んでも息を止めても、苦しいだけで死ねないので、そのうち考えるのをやめた。
to be continued→
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