第46話 謎が減ったら、謎が増えた

 最後の五聖獣に会うため、大移動をしている。

 元東の王国を後にし、中立地帯を横切り、西の王国に入って……今、王都の南辺り。

 王都に寄らずに西へ進んでいる。

 このまま更に西へ行ってから、北西に進めば着くらしい。

 何もない荒野を通過中……

 ビクッ?!

 セインが何かに反応した。

 一人進路を逸れ、南に進み始める。

 慌ててみんな、セインを追いかける。

「どうしたの?」

「しーっ!」

 静かにしろと言う合図。意識も精神も正常のようだ。

 ならば従うのみ。次の指示までみんな黙る。

 足が止まった。

 相変らず何もない荒野……ここに何が?

「嵐翼様!」

 セインが叫んだ……反応はない。

 想定していたようで、次を考えている。

「サンドワームよ!」

 思いついた。そしてカナを見る。

「ごめん……召喚できる?……トラウマかな?」

 カナが首を振る。

 トラウマが100だったら、セインの大事は1万か100万に値する。考えるまでもない。

 初めてのサンドワーム召喚。

 セインがカナに手を添える。残りのみんなも、セインの背中に手を添えた。

 7人分のMPと幸運で召喚開始。

 誰も何も訊かない。理由は後でいい。セインがしたいなら、それはチームがしたい事だ。

 カナはサンドワームを思い浮かべて召喚。具体的に念じるほど成功率は上がる。

(でも悪いけど、名前は付けないわよ!)

 あの後、チームが何度も倒している。トラウマはほとんど無い。でも許した訳でもない。

 何か出た!

 形もサイズも、サンドワームにはほど遠い。

 人間くらいの大きさの、

 オットセイとモグラのハーフ?!

 早速命じると、召喚獣は勢いよく穴掘りを始めた。

 想像以上に早く、人が通れるサイズを掘っていく。これは大当たり、

 命名、[名人]。呼び名は決まった。

 種族名は……多分、なんとかモグラ?掘り終わったようだからもういいか。

 目的の方が気になる。

 自分とシノ、リアリアを選出し、先頭で入ろうとしたのをシノが制し、改めて、シノ先頭で入っていった。

 何があるのか?

 と、

 すぐ帰還!

 リアリアの脱出魔法で帰って来た。

 戻るなり、

 セインが、衰弱している無精髭の若者を介抱する。グレーのカジュアルスーツのような服を着ている。

(誰?)

(誰?)

(誰?)

 ……誰もまだ訊けない。

 数種のアイテムで回復、彼が自力で上半身を起こすのを確認して、

 セインが強く抱きしめた。

 ……涙を流している。

「助かった……」

「良かった……」

 強い抱擁は続いている。

(えっと……)

(そろそろ……)

(こういう時こそ、空気を読めない女だろ!)

 思っている中、

「もしかして、婚約者さん?」

 アイが普通の声で、質問をした。

(えっ??!!)

 みんなが驚く中、やっと我に帰るセイン。

 涙を拭って、みんなに向き直り、

「兄です。」

 明るく紹介した。

(ええっ??!!!)

 ……そろそろ、色々説明が欲しい。

 セインは、謎が1つ露見するほど、謎が増えていく女性のような……

 非常食を、かなりがっついて食べている。一応お腹が空いても平気な[世界]なのだが、やっぱり食べたくはなる。よほど食べて無かったのか?ずっと地下に居たのだろうか?

 落ち着いたところで、

「どこまで話した?何を知ってる?」

 お兄さんが妹に尋ねた。

(できたら洗いざらい。何も解りません……)

 言いたいが、話を待つ。

 ヒソヒソと兄妹で相談を始めた。

 なのでこっちから。

「セインさんて婚約者いるの?!」

「アイさん、知ってたの?!」

 単純な疑問の方から攻める。

「え、あ、うん……最初に会った時、教えてもらった……」

 最重要警戒人物が、対象外という衝撃?!

 ……だからと言って、アイさん争奪サバイバル展開にはならないけれど。

「みんな聞いてなかった?」

 はい、多分あなた以外は知りません!

 ……となると、アイの気持ちは?誰に???

「あ~」

 兄妹会議が終わったようだ。

「俺たちは、言うなれば……」

「未来人です。」

 は、はいい〜~〜???

 アイさんも驚いている。知らなかったようだ。

 道理で……セインさんは禁則事項が多い訳だ。

 ……て、本当に??

「黙っていようとも思ったが、ここを話さない事には、先が説明できない。」

 真顔なので、本当のようだ。

 そこからは、聞けば聞くほど嘘のような、本当だと言われるほど怪しく思える話だった。

 簡単に言うと、というか、複雑過ぎるので、わかり易い近いものに例えて説明された。

 この[世界]は、未来のヴァーチャルゲーム。家庭用のゲーム機を通じて、サーバーに精神がダイブして五感まるごと楽しめるゲーム。セインの兄2人と友人で会社を起ち上げ、画期的なゲームを作った……つもりでいた。

 プログラムは天才的、セキュリティ意識は凡人以下、ほぼ学生起業、人生経験と社会経験が足りなかった。

 出資企業の社員を役員にする条件で多額の融資を受け、プログラムもゲームもド素人な五堂という中年をセキュリティ部長に置いた。

 五感体感の完全ダイブゲームは前例なく話題をさらった。他社を圧倒した。楽しむだけを追求して作ったゲーム……悪意に対して脆かった。

 セキュリティはプロに任せた。しかし開発メンバーが裏切ってセキュリティ情報を流し、突破された。ウィルス、バグ……そんな言葉で済めばまだ良かったのだが、人命に関わるバグが多数出てしまった。

 殺す気のハッカー(クラッカー)もいたかも知れないが、妨害、愉快犯のウィルスからも命が奪われる事態が起きた。

 最悪だったのは「リタイア不可」のウィルス。ゲーム起動しなくても、眠ると[世界]に行ってしまう。

 そしてもう1つ「ゲームオーバーで現実死」。死亡ではなく意識不明は今と同じだが、回復手段が無いのも今と同じ。前述のウィルスと別の犯人だったが、最悪のコンボを生んでしまった。


「俺は、プログラマーであり、監視員でもあった」

 未来人?の兄が、服の色をグレーから紺に変える。さらにアイとお揃い装備、セインとお揃いの装備に。

「こんな事もできる。」

 と言ってから、グレーのカジュアルに戻した、が、紺に変更。紺の気分だったのかな?

 ただこれは、シノの[忍び装束]でもできる機能。証拠にはなってない。

「妹は、純粋なプレイヤーだ。君らを騙していた訳ではない。これだけは信じてくれ。」

 疑問が晴れない顔をみんながしているのを見て兄も力が入る。

「もちろんです。」

 即答するアイ。みんなも頷いた。

「ありがとう……」

 セイン、本日2度目の涙。

「あーそうそう……本名、キャスバルだ。」

「本名……アルテーシアです。」

 夫婦漫才?!……違った、兄妹漫才?!

 一気に胡散臭くなる。

「もう一人兄弟がいて、名前はアズナブルだ。」

 未来でも、もちろんキラキラネーム。一時期は親を恨んだと言う。

『彗星』と書いてアズナブル。字は彗星か大佐のどちらにするか、親が悩んだそうだ。

『大』と書いてキャスバル……これは、大君(ダイくん)と呼ばれるのを見越して付けられた。

 そして、『聖』と書いてアルテーシア。

『聖』と書いてセインが本名だと自己紹介したのも、完全な嘘では無かった。兄達からは「セイ」と呼ばれているそうだ。

「[キャス]と呼んでくれ」

「私は……できたら[セイン]のままでお願い」

 了解しました、セインさん。


 で、さらに詳しい話は、もう一人の兄を助けてからとなってしまった。

 本社から来た部長を監視員のリーダーにした。そいつが裏切り、キャスバルとアズナブルを封印したのだという。

 2人を封印したことで、彼らが退治して無効化したはずのバグ[レアハンター]が復活した。

 力を封印されて地下深く監禁されていた中で、ずっと出していたSOS信号を、セインが感知して助け出せた。

 もう一人の居場所は解っている。

「とっても危険な相手なの……だから、五聖獣の途中で悪いけど、別行動を取らせてもらうわ。」

 合流場所を決めようとしたセインだったが、

「あんなこと言ってますよ、リーダー。」

「忘れちゃったんですか?セインさん。」

「うちのチーム、単独行動禁止ですよ。」

 全員意見は同じだった。

「一緒に行こう、セインさん!」

 アイの言葉に、みんなの気持ちに、本日3度目の涙のセイン。


 どのみち、彼らが失敗したら[世界]は終わりだ。本社の男に牛耳られてしまう。

 彼らの話が本当ならば……


 本当に決まってるじゃないですか!

 だって、セインさんが言ってるんですよ!


 ……そんな声が聞こえて来そうだ。


「あ、俺、スーツが赤くなくてゴメンね。」

 キャス兄がみんなに言った。

 ……こちらの言うことは信用イマイチな気も

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