第5話 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「本契約、仮契約、どちらでもいいよ」

 アイさんに言われ、私は本契約……レイは、

……仮契約を選んだ。……ちょっと意外だった。


 [本契約]は1パーティとのみ(人数制限があるかは未定……試した人がいないから)

 追加参加にはメンバーの過半数の賛成が必要、脱退・追放はリーダーと脱退者の双方の合意が必要となる。

 [仮契約]は、あちこちに複数在席も可能、追放はリーダーが勝手に行え、抜ける側も相談なく独断で脱退できる。

 この[世界]を普通のゲームに例えると、本契約は知人同士で始めた攻略パーティ、仮契約は予定が合わずに仲間がログインできない時の臨時の仲間集め……て感じだろうか。


 リーダー[アイ]は戦士。格好を例えるなら、遭難者(ボロマントと作業服)。

 [カナ]は召喚士。格好は小柄なベリーダンサー(ヘソ出し)。

 [レイ]は商人。格好は残念なサンバガール(細紐ブラ&ふんどし)。

 見た目は異端、中身は真面目攻略のパーティが誕生した。


 さっそく新パーティ最初のクエスト。カナの目的だったクエスト、親子に薬代7千Gを届けた。

 感謝された。(モラルも上がった)。

 お金に困っていたNPC親子は、何もお礼が出来ないと言いつつも、亡くなった夫(父親)の使っていた[レザーアーマー]を使って欲しいと出してきた。

 想い出の品だからと遠慮したが、そこはイベント、カンダタを許さないと先へ進めない例もあるので、古代中国の礼法にならった訳ではないが、2回遠慮して3回目に受け取った。

(もっとも、アイさんは解らないが、私とレイは最初から貰う気でいた。)

 7000Gとレザーアーマーだと赤字になるけど、母の薬代に喜ぶ娘、感謝の言葉、達成感etc…満足だった。

 レザーアーマーはアイさんが装備した。古くても、他人のでも、臭いや不快感が全くない。この[世界]の便利な非現実的要素だ。サイズの違いも自動調整される。

 作業服(風の装備)の上から装着出来た。プロテクターに近い感じ。少しだが守備力と戦闘力が上がり、アイさんも満足。

 印象も「遭難者」から「放浪戦士」に格上げ?になり、私達も満足……リーダーだから見た目も大事だ。

(ちなみにアイは、初期設定でワイルドさをリクエストしたら、放浪サバイバル感が強くなってしまった……当人は覚えてないけど。)


 第2の出来事もすぐ起きた。

 窃盗犯が捕まった知らせと盗まれた7000Gを、NPCの兵士が同時に持ってきてくれた。現実もこのくらい単純ならいいのに。

 建前上は、アイさんのマントを売って用意した薬代(買い戻した事はまだ話せてない)、アイさんに渡そうとしたが、レザーアーマーを受け取ったのでと拒否された。相談しようとレイを見ると

(ニタリ)……イヤラしさ満開の笑顔でこちらを見ていた。

 真実は、この妖しい笑顔女が薬代を用意した。武器屋からの示談金+建替え金2000、

「これで貸し借り無しよ」7000全部渡した。こいつには借りを作りたくない。

 金額で言うなら、隠れ身マントを持ってるカナが、実は一番得してるのだが、彼女にとって、そのマントは財ではない。

『絶望』が『希望』に変わった象徴、お金には変えられない大切なもの。


 馬車移動なんて初めてだった。

 臨時収入を得たレイは、馬車を手配した。

「町移動も経験値稼ぎの好機」が信条のアイさんも、一回くらいは体験した方がいいよと説得された。

 レイの「自分は役に立ちます」アピールは波状攻撃だった。

 まずは[乙女の守り]。小さな十字架のついた銀のネックレス。暴漢から身を守る女性用のアイテム。この先のサンエルアの町で、女の子なら無料で貰える。

 私が持ってない(パラスコープで私を見たな!こいつ!)ので貰いに行こうと提案し、アイさんに即採用された。

 サイトでも誰かが薦めてた。対NPCにも効果あるらしい。欲しいとは思っていた。

 馬車も興味はあった。他県へわざわざタクシー移動するより高い。相場は2万円以上?だとか…(しかもお一人様)。完全貸切で、値段のイメージとしてはチャーターヘリ?(ヘリの値段知らないけど)

 サイトでは、貴族の乗り物なんていわれてる。

 ……て、もしもし?

 ……

 レイが手配したのは、客馬車ではなく荷馬車だった。幌付きの荷台に乗せられ、外の景色も見れない。値段も大分違うらしい。

(まあ、興味があるからいいけど……)

 貸切と違って時間は向こうの都合、荷物が積み終わる集合時間まで暇を潰し、約束の時間の10分前に行くと、運転手…じゃなくて御者はもう、運転席…じゃなくて……えっと何だ??……前に座って待っていた。

 幌に隠れて右腕しか見えなかったが、親指で幌を指して「乗れ」の合図をされた。

(サイドミラーとか無いのに見えてるの……なんて深く考えちゃダメよね…)

「ホイール・オブ・フォーチュン」

 一言いって、まずレイが後ろから荷台に乗り込んだ。私には何を言ったか解らなかったが、アイさんは解ったようだった。

 3人乗り込むと、馬車は動き出した。

(バックミラーとか無いのに……)

 有っても幌が邪魔で何も見えない。前からもテントの入口のように幌を割って入れるが、今はピッタリ閉まっている。

(NPC恐るべし)見えてる設定、深く考えてはいけない。

 ……なんて1人考えてたら、レイの役に立ちますアピールの続きが、またまた始まっていた。


 荷台の広さは3畳くらい、荷物は木箱の大3個と中6個、大箱は進行方向左に横並びに積まれ、家庭用冷蔵庫を倒したくらいの感じ、中を繋げれば大人も入れそう。引っ越しダンボールサイズの中箱は後ろに積まれ、乗る時はちょっと邪魔だったが今は3人ゆったり座れる。後ろの幌が完全に閉まってないので光も入る(でも、景色を見ようとしても道路しか見えない)。

 小石混じりの土のデコボコ道。本当ならお尻が痛くなりそうだが、揺れも少なく、不快感もほとんどない。荷物が崩れる心配も無さそうだ。

(ゲーム仕様、バンザイ……)

 ウトウトしそうになった時に、

「魔法石の魔法発動率って、実は100%だって知ってた?」

 これは興味深い!

 [魔法石]。レベル2程度の炎や氷の魔法が、あらかじめ込められて売っている石。サイトでは発動確率6割程度と言われ、値段が高いので利用者、特にリピーターが少ない。1個100Gくらい、1000円出して4割ハズレは痛い。消費者庁に通報ものだ。

「ただの石が混ざって売られてるの。」

 お店側も、知らずに売ってる事の方が多いらしい。卸業者か製造元がわざと混ぜている。

「鑑定スキルがあれば見抜ける」それが一番言いたかったようだ。でもそれが本当なら、私も初期の魔法使い並の安定した戦力に!!……お金は掛かるけど。

「次に取り出しましたるはー」とは言ってなかったけど、書道の半紙を縦に半分にしたくらいの白い紙……の束をレイが見せた。

「!」

 知っている!

 サイトで「日めくりカレンダー」とか「白い掛け軸」とか呼ばれているアイテム[魔法紙]だ。

 白い部分に文字を書くと魔法が発動する、魔法が使えない人には垂涎の品。付箋紙のように体に貼り付けると、約1秒で魔法が発動、攻撃魔法は使えないので自分か仲間に貼るのだが、解毒、回復、攻撃増強、守り強化……色んな応用が利く。

 ただし高い。『白い諭吉』なんて揶揄する人もいて利用者も少ない(『白い栄一』と呼ぶ人はまだいない)。

 1枚ずつくれた。指でなぞっても書け、漢字でも仮名で書いても、該当する魔法を見つけて発動するスグレモノ!これは嬉しい!


 ……その後は雑談に変わった。漫画の話らしいが、知らない私は仲間に入れなかった。

 差をつけられた気がした。私だけ本契約じゃなかったら、物凄く焦っていたかもしれない。

 雑談のきっかけは、レイが荷台に乗る前に言った言葉「ホイール・オブ・フォーチュン」

「私、4部も好き」と、レイ

「4部も5部もいいよね 」と、アイさん

 その時ゆっくりと馬車が止まった。町に着いた訳ではなさそうだった。

 2人も気づき、運転席……御者席の方を見た。指が4本見えた。これから幌を開こうとする状態かな?左手の指が4本だけ

「じゃああれは?」

 レイがその指を指指して……(全部漢字にするとややこしい!)

「ああゆう場合、『ゴゴゴゴゴ…』派?『ドドドドド…』派?」

 ……お喋りの時間はそこで終わった。

 4本の指は幌を開くでもなく動かない。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 ……そう、筆者はゴゴゴゴ派だ。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 何かが投げ込まれ、3人の中間に落ちた。

 テニスボールくらいの黒い玉だ。

 こういう時は、『発光弾』派?『催涙弾』派?

……などと考えてる余裕もなく、

 玉から、白い煙が溢れ出した。

……そう、こういう時の定番は、白い睡眠ガスだ


……3人は、その場に倒れ込んでしまった……


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


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