【悪魔の絶頂】第41話 抑圧され続けた欲求を解放する!

 501号室の小さな北窓から曙光が差し込んで来た。


 ベットにうつ伏せに横たわっている全裸の女の身体から一筋の青い筋の光が抜け出し、天井の四隅の点の中に消えて行った。


 女は意識を取り戻した。


 女は横を見遣った。


 男は角瓶を握り締め、ベットパイプの背もたれに身体を預け、目を瞑っていた。


 女は気怠くよろよろと立ち上がり、服を着た。


 女は朦朧とする中、この501号室に来てからの凄まじい淫靡な時を振り返った。


「いぃ~、あぁ~、凄い~、ま、ま、また、い、い、いく、いく、いくぅ~、いぐぅ~、いっちゃぅ~、いっちゃぅ~」


「主人が憎い!死ねばいぃ!、殺してぇ~、殺してぇ~」


 この部屋の中には、女の快楽への歓喜の声と夫への増悪の声が、未だに木霊しているかのように空気を支配していた。


 男はぐったりと心臓を撃ち抜かれ戦死した兵士のように動かなかった。


 男は、女を逝かし殺すため、女を一昼夜に及び逝かし続け、そのエネルギー源として抗うつ剤とウイスキーを大量に摂取したため、精魂尽き果てていた。


 女は服を着込むとよろよろと部屋を後にした。


 時刻は午前6時を回っていた。


 女は全身の筋肉痛に耐えながら、未だに疼く下半身の快感に余韻を感じながら、ゆっくりと自宅に向かって歩いて行った。


 女は何のために男の部屋に行ったのか、これで良かったのか、なかなか頭で整理出来なかった。


「私、彼を助けに行ったのに…、彼にこれ以上、薬の過剰摂取を止めるよう言いに行ったのに…、何も言えなかった…」


 そう弁解しながらも、女は自分の本音、男に抱かれたかったことを思い出した。


「違うわ。私、抱かれたかった。激しく、激しく、彼に抱かれたかった。


 そう、彼を助けるためではなく、私…、彼を求め…、あんなに感じてしまって…」


「私じゃないみたいに、あんな卑猥な言葉吐いて…、私、もう戻れない…、あの人なしでは、もう…」


 女は見せかけの目的より、潜在的な欲求が満たされたことを確と悟り、過去の整理よりも、今と未来の淫靡な快感に心が移行したことを了知した。


「彼を助ける…、いえ、その必要はないわ!


 私と彼を引き裂いた夫に復讐するのよ!


 夫を殺す!


 彼と一つになるため…」


 女は次第に全身に力が漲るのを感じ、自宅マンションに向かった。


 女はマンションに着くと、自室に入り、部屋に鍵を掛け、上着を脱ぎ、愛液と精液が染み込んだ黒いスキャンティーを着けたまま、ベットに潜り込んだ。


 暫くすると部屋のドアがノックされた。


「おい!何処に行っていたんだ!おい!」と


 部屋の外から医師の声が聞こえてきた。


 女は無視した。


 医師は部屋のドアが開くことはないと悟り、女にLINEを送った。


「何処にいたんだ。奴の所か。分かっているんだ。」


「まさか、奴と寝たのか?」


「いいか!離婚はしないぞ。お前の思うとおりにはいかない。」


「今日も病院には出ないんだな。」


「職員には風邪と言っておく。」


 医師は嫉妬心に満ち溢れた脈絡のない虚しいコメントを送り続けた。


 女はスマホの通知を見ながら、LINEを開くことなく、医師の情けないコメントをやり過ごした。


「彼と決めつける処は、狡賢いわ…」


「『離婚はしない』、いいわ、しなくても!


 その代わり、殺してあげるから!」


 女は「きっ」と部屋のドアを睨み付けた。


 夫がマンションを出た音がした。


 女はそっとベットから抜け出し、窓から外を見遣った。


 マンションの玄関から夫が後ろを振り返りながら、この部屋を見ながら、歩いて行くのが見えた。


 女は暫し、夫の姿が小さくなるまで、油断することなく、カーテンの隙間から外を監視した。


 そして、夫の姿が消えると、バスルームに行き、シャワーを浴びた。


 女は熱いシャワーを身体に浴びながら、やはり、この12時間以上に及び逝かされ続けた衝撃が忘れることが出来ず、どうしても、我慢できず、感じてしまった。


 自ずとシャワーの噴出口を股間に浴びせてしまった。


 自ずと下に座り込み、脚を広げてしまった。


 自ずと胸を触り、シャワーを陰部に当てがってしまった。


「あぁ~、す、凄かった~、あんなにも感じてぇ~、あんなにもいっちゃたぁ~、あぁ~」


 女は12時間の怒涛の攻撃に打ち負かされ、完膚なきまで逝かされ捲った完全的な敗北感に尚更、感じてしまった。


「私、もっと虐められたい…、もっと、もっと、彼に痛ぶられ、貶され、激しく、激しく、こ、こ、ここを掻き回わされたい!」


 女は自ずと指を滑らせていた。


 未だに充血し、敏感な突起を激しく捏ねくり回し、指を中に入れ、激しく出し入れし、


「い、い、いくぅ~、いくぅ~、いっちゃぅ~」と叫び、


 ガクガクと震えながら、浴室にへたり込んだ。


 絶頂の余韻に震える女の身体にシャワーの温水が降りかかっていた。


 暫くし、女は気怠くバスルームから抜け出し、身体を拭くこともなく、髪を乾かすこともなく、全裸のまま、水を滴らせながら、自室に行き、そして、濡れた身体のまま、ベットに潜り込んだ。


 女はそれでも寝付くどころか、


 今度はベットの上で、大きく脚を広げ、激しい自慰行為をし始めた。


 何度も何度も逝き果て、それでも自慰行為を続けるのであった。


「ほ、欲しい…、彼のお○ん○が、欲しい~!」と


 女はこれまでの、35年間の欲求を噴き上げるよう、快楽を貪り続けるのであった。


 遂に自慰行為で失神した女は、はしたなく脚を広げ、股間に指を這わせ、時折、ピクピクと小刻みに痙攣をし、深い眠りに堕ちて行った。


 そして、気絶した女の陰部の穴からは、青い筋の光が煙の様に吹き出し、女の身体の上で龍の形となった。


 死神であった。


 死神は女に取り憑いていたのだ。


 そう!


 死神は女に取り憑き、女を淫獣に仕立てあげようとしていたのである。


「女の抑圧され続けた欲求を解放させよう。欲求を『怒り』に高める。」


 死神はそう宣い、女の部屋の四隅に鎮座した。

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