【覚醒】第27話 神を模倣する愚か者
女は男の正体、アイデンティティを知らなかった。
そればかりではない、鬱との結託により怪物と進化しつつある男に直面してしまった。
男に昔の面影を全く感じなかった女の感性は致し方ないものであった。
女の淡い刹那い思い出は、泡のように消えてしまった。
登録した電話番号
それも最早、呪いの数字にしか思えなかった。
逢いたい気持ちなどない。
今、女にあるのは恐怖だけであった。
男の受診日が怖くて怖くて堪らなかった。
女の恐怖が強まるのに比例し、男は怪物へと進化の道を辿っていた。
抗うつ剤「1000mg」服用を1週間続けたある日、男は夢を見た。
【ある夜、男は突然、瞼を開いた。そして、いつものように暗闇の壁、天井の一点を睨んでいた。
あの青白く、いや、前よりも灰色かかった雲の渦が巻き起こり、竜の型ちを形成した。
奴が現れた、死神が…
死神は、男の視界の中をゆっくり旋回し、四隅の一角に陣取った。
そして、こう宣い出した。
『大分、「怒り」が戻ったんじゃねぇ~か?』と
男は横目で死神を見遣り、「ちっ」と舌打ちをし、
『何の用だ!』と不機嫌に怒鳴った。
『調子が良いじゃねぇ~か!「怒り」の沸点がかなり低くなったな!
まぁ、挨拶もここまでとしておこう。』
死神は間を設け、改めて、宣い出した。
『今日の用はな、お前の偉大なる目標にアドバイスをしに来てあげたんだよ!』
『鬱の化け物にアドバイスなんか、貰いたくないわ!』と男は吐き捨てるように怒鳴った。
死神は男の苛立ちに構わず、語り始めた。
『お前ら人間は、一丁前に「鬱」を語り、「鬱」を病気と見做す。
それは大きな間違いだ。
「鬱」は、病気でも何でもない。神が施した明認方法だ。
皮膚の色、髪の色、区別があるだろう。
それと同じだ。
「鬱」は持って産まれるものなのだ。
後天性的なものではない。
先天性的なものなのだ。
生きて来て良かったと思える者も居る。
方や、産んだ親を恨む者も居る。
明と陰、光と影
分かるか?
神は印を付けるんだよ。
生前から陰と影を背負い、不幸な人生を歩む者に「鬱」を埋め込むんだ!
感情に気質に肉体に、凡ゆる箇所に「鬱」を埋め込むんだ!』
ここで、死神は一息吐き、男の反応を伺うかのように間を空けた。
男は死神の期待に応えるかのように、こう質問した。
『「鬱」が病気でないならば、「鬱病」は治らないものなのか?』と
『そうだ。』と死神は即答した。
今度は男が同感するよう、こう宣った。
『「鬱病」なんか治療のしようがないんだ!心療内科なんて薬局なんだよ!イカサマなんだよ!詐欺師と同じなんだよ!誤魔化しだ!』と
死神の眼光が稲光した。
そして、死神は地響きのような低く太い声でこう言った。
『愚かな人間は、時に、陰と影の人間をこの世から無くそうと企てる。
神の戯れを邪魔する。
神の明認を消そうとする。
戦時下のドイツ、ナチスだ!
有性保護と称して、精神異常者を隔離措置し、生殖器を取り除く。
同じく戦時下のアメリカだ!
兵士の恐怖心をモルヒネ、麻薬で払拭した!
そして、現代の精神医学だ!
ナチスと同様、強制隔離、アメリカと同様、投薬治療
治るはずのない陰と影の者を悪戯に「明」と「光」に溶かし入れ、その純度をボヤかしやがる!
自分らが神の如く!
神を模倣する愚か者が!』
死神はこう宣い、消えて行った。】
男は目を覚ました。
珍しく、夢の中身を良く覚えていた。
男は、近々に取るべき行動の標が明瞭に見えて来た気がした。
「神を模倣する愚か者か…」
男は静かにそう呟いた。
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