【覚醒予兆】第7話 初めてのうつ病投薬治療

 昨夜も強烈なパニック障害が襲って来た。

 

 午前3時頃、やはり突然、目覚めた。


 嫌な予感がした。


 案の定、息苦しくなり、動悸が激しく鼓動し始めた。


 慌てて起き上がり、洗面所に飛んで行き、顔を洗ったが、パニック症状は全く治る感じではなかった。


 それどころか、鏡に映る被写体、俺の顔が、瞬きする度に、「カシャ、カシャ」とカメラシャッターでコマ送りするように刻んで映り始めた。


 さらに動悸は強まり、じっと立っていることも出来なく、右手は自然と拳を握り、鏡の中の俺を殴りたいとワナワナと震え出した。


「今日のパニックは尋常じゃない。」


 俺は諦めるよう呟いた。


 すると、その言葉が聞こえたのか、脳の奴が禁断の命令を下し始めた。


「苦しいか?ならば楽になれ!舌を噛み切れ!」


「ここから逃げろ!窓から飛び降りろ!」


「死ぬしかないんだ!楽になれ!」


 俺は両手で両耳を塞ぎ、脳の声を遮ろうとしたが、既に俺の心は

弱音を吐き始めていた。


「もう死ぬしか方法はないのかも…」


「楽になりたい…、舌を噛み切ろう…」と


 俺は藁にもすがる思いで、クローゼットを開き、リュックサックのポケットを探り始めた。


「薬が残ってないか…、安定剤なら一錠ぐらい、有るかもしれない。」


 そう思い、必死で探した。


 リュックサックの内ポケットに2錠、安定剤が残っていた。


 俺はそれを摘むと急いで1錠飲み込んだ。


「頼む、効いてくれ!」


 俺は嫌いな神にも祈った。


 5分、10分と時間が経過すると、あの苦しみが和らぎ始めた。


 俺は安堵し、ベットに腰を降ろした。


「くそっ、鬱の苦しみなど思い出すから、パニックが強まりやがった!」と俺は昨日の作業を後悔した。


 それと同時に改めて投薬の効果を見直した。


「そうだ。うつ病は治癒したんだ!投薬治療で間違いなく治っていたはずだ!」


 俺は、過去への次なる期待として、うつ病治療・治癒の事実を思い出し、脳の不要な動きを制御しようとした。

 

 初めての投薬治療は次のとおりであった。


『40歳6月初旬、激務によりうつ状態となった俺は心療内科の扉を叩いた。

 症状は不眠、倦怠感、絶望感、希死念慮だった。


 医者は投薬治療を開始すると言った。


 第一ステージは投薬付着の土台造りからだ。

 抗うつ剤150mg2錠を就寝前、安定剤5mg 2錠を朝、夕、そして、睡眠剤0.25mg1錠を就寝前に服用するとした。

 この期間のステージは1か月間であった。

 医者は言った。即効性は期待しないでくれと。


 服用を開始したが、案の定、的面効果はなく、不安感さえ払拭できない状況が続く。


 ただ、専門医師を受診し、治療を施しているといった安心感が付与されたことは、治療前よりプラスであった。


 この間、毎週1回病院を受診し、医師は体調の変化等を俺から聴き取った。


 なお、俺がうつ病を発症し、心療内科を受診した事実は会社には言ってない。

 この時分、悲しいかな、メンタル疾患は、まだなお、職業人としてマイナスであり、昇進等に欠格の烙印が記される時代であったことから、会社には内緒にしておいた。恐らく、俺だけではない…


 第一ステージの1か月間が過ぎた。


 明らかな改善の前兆を感じることが出来ないでいた俺は、第二ステージの始まりに、ある意味、心を躍らせるよう期待しながら、医者の一言一言に耳を傾けた。


 第二ステージの療法は、抗うつ剤250mg2錠就寝前、安定剤及び睡眠薬は変わらずであった。


 抗うつ剤250mg


 俺はこの増量に大きなる期待を抱かざるを得なかった。


 しかしだ!


 ここで、医者は俺の思う想定外の忠告を発した。


「ここからが、一番過酷な時期となります。今までの2倍は苦痛を伴います。いいですか。」と


 俺は呆気に取られ何も返答出来ずにいた。


 医者はこんな患者の反応は見慣れたものかと言わんばかりに、こう宣った。


「皆さん期待するんですよ。薬の増量にね。それが即効性があるとね。そこが落とし穴なんですよ。


 薬はね、増量しますから、必ず効くんですよ。


 ただね、飲んですぐとか、2、3日で効くとか、そんなスピードは期待したらいけません。


 1か月後の病状の変化を待ってください。


 いいですか?


 直ぐには効きません。


 それを肝に銘じてくださいね。」と


 こう言った後、医者は慌てて、一言付け足した。


「だからね、期待し過ぎると、今よりも倍以上、キツいですから…」と


 俺はその時思った。


「それを早く言えよ!もう既に期待していたよ!」と


 この後、俺は正に生き地獄の苦痛を味合うこととなる。

 

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