第34話 ショタコンを最大限使うという事。



 ミディアが寝付けたことを確認し、部屋を出る。空を茜色に染まり始めた時間帯。


 俺はとある先生の元へ向かっていた。



 コンコンッ。子気味の良い音が廊下に響く。あまりこの部屋には来たくなかったのだが。


「はーい?」


 ドア越しで少しくぐもった声だが、確かにあの人で間違いはない。


「グリア先生。僕です」


「えっっ!? ちょっ、えっ!?!?」


 物が崩れ落ちたり、何かがつぶれる音がしたり、なんとなく中が想像できるのが怖い。


 少しすると、勢いよくガラリとドアが開く。


 眼鏡をかけた、顔と体だけを見れば完璧に近い容姿のグリア先生が出てくる。ただし、ショタコン変態脳筋クズ教師にて。


「えっ、本当になんでエイド君がっ!? もしかしてその気になってくれた!?」


「……はい」


 多分こっちの方が都合が良いだろう。多分。


「えっ、ちょっと、今日悪いことしかなかったけど、マジかっ!! 速攻で荷物整理してくるから! この後お姉ちゃんの家でいい??!」


「あ、えっと、はい」


 何故かニヤニヤしながら部屋のドアを閉めるグリア先生。そして出てきた先生と先生の家に向かったのだった。


 


 学園から少しだけ離れた大通りの脇道。重たそうな荷物を持ったグリア先生と俺は


「いやぁ、今日は散々なことしかなくてね? まず、お姉ちゃん、今の先生たちの中だと、一番若輩者だから、今回の中級魔法試験の結果を全部お姉ちゃんが書かないといけなくなって。それにエイド君がやったことの後始末とかなんだとか、このまま逃げちゃおうかなって思うくらいには追い詰められてたよね!」


 逃亡するまで追い詰められているようには思う得ない満面の笑みを浮かべながらそう話すグリア先生。


「あっ、ついたついた。ここ、今は私しか住んでないから安心してね!」


「は、はぁ」


 何を安心するのか。というか、俺としては先生の方が法に引っかかって安心で着なさそうなんだけど、めっちゃニコニコしてるからいっか。


 重たそうな荷物を下ろしながら、鍵を開ける。さすが貴族の娘というべきか、中々すごい家に住んでいた。


「はい、どーぞ」


 獲物を狙う時のような湿った吐息を吐きながら、どうぞと、手を部屋の中へと向けるグリア先生。


「お邪魔します……」


 意を決して中に入ると、意外にも綺麗な、女の子らしい部屋があった。ところどころイケなそうなポスターとかが貼ってあったが、見て見ぬふりをしておこう。


 がちゃり、と閉まると同時に背後に感じる、獲物を狙うような研ぎ澄まされた視線。


 ゴクリと唾をのみ、後ろを見ると、張られてあったイケないポスターにいるお姉さんと同じ目をしたグリア先生。


「はぁ、はぁ、エイド君、えへ、えへへ」


「……先生、落ち着きましょう。これは取引です」


「……?」


「先生はあそこに張られているポスターみたいなことが僕としたい。僕は先生……お姉ちゃんにやってもらいたいことがあるんです」


「取……引?」


「はい。どうです? 乗りますか?」


「乗るでしょそりゃあ。お姉ちゃんにできることがあったら何でもするよ? ね? ね?」


 何処か狂気すら感じるが、そう言ってくれたのは都合が良い。


「単刀直入に言います。さっき倒れていたあの一派を全員中級魔術師に上げないでほしいんです」


「……え? いいよ?」


「え?」


「ん?」


「自分から言うのも何なんですけど、そんな軽いノリでいいんですか?」


 あー、と数秒考えるグリア先生。そしてすぐにこちらへと視線を戻す。


「うん。やっぱり大丈夫。問題になっても、お姉ちゃんに押し付けた他の先生の責任になるし、それにあんなことを起こしたら資格も減ったくれもないし」


「え……でも、あんなことを起こしたのは僕で……」


「あ、あぁ、いやいや、そう言う事じゃなくって。フールド・エスティアはちょっと色々な問題行動を起こしててね。例えば権力をかざして教師を操り人形にするとか、その他もろもろ」


「えぇ」


「まぁ、主任のタロイ先生が操り人形になっていたこともあって話題にはあがらないようになっていたんだけど、今回の件でタロイ先生、無職コースだし」


 と、冷静に言い放つグリア先生。意外とできる人なんだなぁ。なんて、思いつつつも一応の為に用意していた紙を取り出す。


「じゃあ、先生。念のためこの紙にサインしてもらってもいいですか?」


 それは先ほどまでのことをまとめた誓約書。


「あ、もしかして、婚姻届けとか? お姉ちゃんと結婚したいとか、もうっ! ダメな弟ね! すぐサインしちゃう」


 そういってペンを取り出すグリア先生。


「…………婚姻届けじゃないですし、ちゃんと中身に目を通してくださいね」


「わかってるってー!!」


 絶対にわかっていないだろうけど、サインしてくれるならいっか。グリア先生は絶対目を通していないとわかるスピードでサインをした。


「よし! サインしたよ! ところで、シャワー浴びる? それとも早速?? えへへ」


「…………」


 あぁ、ポスター。


「えへ、へへ。二人っきり、邪魔する者はもうないよね、へへ」


 その端正な顔を存分に歪めながらにちゃにちゃしている。


「じゃあ、とりあえずベット……行こうか?」


 そういわれて、なすすべなく、肩に手を添えられながらベットへ向かった。





「ほら、ここ、おっきしてるよ?」


 そう言いながら、股間をさわさわしてくるグリア先生。一応、巨乳で綺麗なお姉さんにこんな事されておっきしない人はいないだろ……。だけど、このままいってしまうのはまずい。そんな気がする……。


「ねぇ、エイド」


 上から髪の毛を垂らしながら、妖艶な笑みを浮かべるグリア先生。とっくのとうにリミッターはぶっ壊れているみたいだ。


 少しづつ、確かに近づいてくるグリア先生の顔。まず、熱い吐息が顔を掠め、そして、グリア先生の艶やかな唇と俺の唇が合わさりそうになり——。


「睡眠」


 ふっ、と意識の糸がぷっつりと切れたように覆いかぶさり、余すことなく無意識にその大きな双丘を押し付けられる。


「……危ない……この歳で本当の賢者タイムなんか入ってみろ、今後の人生終わる未来しかない……ただでさえやばい存在なのに……俺」


 咄嗟に出てしまった闇の中級魔法『睡眠』のおかげで何とか襲われずに済んだ。


 でも……それと同時に思ってしまった。


「この勢いのままでも、良かった……かもなぁ」


 なんて押し付けられた大きなたわわと、横で死んだように寝ているグリア先生の顔を見て俺はそう思うのだった。



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