第33話 事後と安心
目の前には無傷で、強いて言えば火傷を負っているくらいの怪我をしたタロイとフールドの一派。
炎球を当てる直前、水操で水の壁を作ったから直接炎で黒焦げにはなっていない。
その代わり、その付近は高熱になって熱失神したんだと思うけど。
すっきりした。と、共にカムバックしてくる理性。
「…………なん、ですか? 今の……」
「……エイド、もしかして人間じゃない……?」
まるで地球外生命体を見るかのような視線を送ってくる二人。
「いや、宇宙人じゃないぞ? おれ」
「……それはわかりますけど……もしかして……高級——」
「だよねっ!! すごいよエイド!! すっきりした! めっちゃくちゃ! ありがとう!」
珍しくきゃいきゃい騒ぎながらこちらへ駆け寄ってくるミディア。
ジャスミンさんが気づきそうになっていたが、あえて触れないどこ。もしかしたら見間違えだったってことに…………。
ふと、周りを見る。
どこクラスの生徒からも大量に注がれる視線。それは、まるで見てはいけないものを見てしまった時のような、そんな視線。
…………記憶を消す魔法とかあったっけ。……ないよねぇ。ないですよねぇ。
さてどうしたもの——
「どっ、どうしたの!?」
大きな大きな双丘を余すことなく揺らしながら駆け寄ってくるグリア先生。
「「あ、グリア先生!」」
「あっ、お姉ちゃん」
「「おっ、お姉ちゃん!?」」
あっ、つい出ちゃったけど、まぁ、混乱に乗じたらどうにかなるか。ごり押しだ。
「あっ、えぇっ、ちょっ、ここでなんてっ!」
いや、俺の言葉に惑わされないでくれ。
「お姉ちゃん!! なんか、いきなりこの人たちが中級魔法を使えるのに昇格させてあげないって言ってきたんだ!」
ショタのフリも慣れたもんよ。
「あっ、えっ? あぁ、そっか、エイド君そっか! えぇと、あのー、とりあえず先生がどうにかしとくから! あ、それと三人とも合格! 帰ってていいからね!」
そこはちゃんと先生なんだね。
何が何だかわかっていないジャスミンとミディアの手を引き、その場から離れる。
ぽかんとしている二人は、しばらく手を引かれ、ぽつりと言った。
「カオス」
と。
※
寮に帰宅する途中。魂が抜けているような二人。そんな中ジャスミンは口を開いた。
「何だったんですか? あれは」
「……多分、ジャスミンとミディアは夢を見たんだよ。うん」
「いやそんなわけないじゃないですか」
鋭いツッコミ。魂が抜けると同時に記憶も少しだけ抜けてくれないかなぁ。
「あれって、高級魔術です……よね?」
「いや、中級魔法」
「なわけないでしょ!? 私ももう高級魔法を勉強してるからわかりますけど、あれは明らかに中級魔法じゃなかったですよ!?」
「まぁまぁ落ち着いて。ほら、もう寮についたから部屋に戻ろう」
「えぇ……」
とりあえず自分で意識を持てているジャスミンを部屋に戻し、先ほどから魂が抜けているミディアを俺の部屋へと運ぶ。
そしてベットに座らせて、俺も備え付けの椅子に座る。
「ねえ、ミディア。大丈夫?」
「…………エイドって、もう高級魔法もう使えちゃうの?」
珍しくもの悲しそうな、哀愁漂う表情をするミディア。
「…………」
「エイドは、ミディアを、置いてく……の?」
深緑の瞳からは今にも雫が零れそうで。いつもとは違う、心配に押しつぶされそうなミディアがそこにいた。
「……そんなわけないだろ。いつまでも待つよ、ミディア。ミディアが高級魔法を使えるまでずっとね」
「……それでもいいの……? エイドは?」
「何言ってるんだミディアたちは兄妹だろ? そんなことするわけない」
椅子から立ち上がり、ベットに座っているミディアを抱きしめる。
「安心して、ミディア」
「うん……ありがと、エイド」
離れると、いつものような満面の笑みを浮かべるミディア。
「今日はもう疲れたでしょ? ミディアは寝てていいよ」
「……うん。ありがと。おやすみ」
太陽はまだ空高いところにいるけれど、今はゆっくり寝かせてあげよう。布団に潜り込んでいるミディアを見ながら、俺はそう思った。
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