第31話 中級魔法試験と狂人


バァンっ!!!!


 耳を劈くほどの銃声。それは中級魔法試験が始まることを告げる銃声。


 己の胸に手を置いて心を落ち着かせようとする者。深呼吸をする者。緊張に顔をこわばらせる者。


 様々なタイプの人が居るが、俺とジャスミンは特に緊張することもなく、平静を保っている。


 しかし、ミディアはどこか落ち着かない様子だ。


「大丈夫か? ミディア。緊張してるのか?」


「しっ、緊張なんてしてなっ……してる……めっちゃしてる」


「珍しい、こともないか」


 入学式の時を思い出させるミディアの様子に、どこか微笑ましさを感じる。体格や、見た目が少し変わってもミディアはミディアなのだな、と。


「それは、そうでしょ……エイドは最初っから中級魔法を使えてたし、ジャスミンちゃんもすぐ使えて、今は高級魔法の勉強をしてるし……。なんか、私だけが置いて行かれてるような気がして……」


「大丈夫だよ、ミディアちゃん」


 すかさずジャスミンがミディアの前に出る。その顔に浮かべるのは聖母のような柔らかな笑みで。


「ミディアちゃんも早くから使えていたし、それに失敗したこともないでしょ? 大丈夫。もし、不安になっても、私を思い出して。ミディアちゃんならきっとできるよ」


「う、うんっ! ありがとう!」


 幾分柔らかくなったミディアの笑み。心配はいらないみたいだな……って。


「なんだ? ミディア。そんな目をして」


「…………」


「はぁ、頑張れよ。俺も応援してるぞ」


「うんっ!!」


 その明るい笑顔は、まったくと言っても良いほど不安を感じさせなかった。





 中級魔法試験はコロッセオに一同が集まってはいるものの、試験を行うのは実のところクラス別である。


 五クラスが横並びで、試験を受ける人のすこし後ろに待機する形。俺たちは順番に並んでいる中、真ん中あたりに位置していた。


 少し先を見ると、早速もう試験は始まっていた。おじさんが椅子に座っていて、そのおじさんが中級魔法を使えているか判定するらしい。


 ちなみにこのおじさんは他クラスの担任らしい。まぁ、私情とかが入ることを考慮しているのだろう。


 スムーズに進んだり、進まなかったり。おおよそ前の人が中級魔法を発動するのにかかった時間だろう。


 ふと、隣を見ると、ジャスミンはこんな時でも分厚い教科書を持っていて勉強を。ミディアは、詠唱を小声で復唱していた。


 そんなこんなしている内に、いつの間にか順番が近くなってきた。


 後二人ほどだろう。


 ミディアもジャスミンも、やっていたことを止め、目の前で行われている試験を注視する。


 そうしているうちに、いつの間にかミディアの順番が来た。


「……行ってくるね」


「うん。かましてきな」


「がんばってくださいね」


「うんっ!」


 ひょこひょこと数メートル先に歩いて行くミディア。


 詠唱は聞こえないが、きっと今詠唱をしているのだろう。


 そして、少しすると、空に階段がに2、3個あるかのように浮くミディア。ふわりとブロンドの髪の毛は風に遊ばれている。


 これは確か、風の中級魔法『空走』だ。まだミディアは数歩程度しか行けないようだが、それでも中級魔法には変わりはない。


 中級魔法試験は、二つ以上の属性の中級魔法を使えれば、合格になるのだが、一つ属性のの中級魔法が使えてしまえば、中級魔法の感覚がつかめるため、二つ目の属性も比較的簡単に使えるのだ。


 地面に足をつけて見事に着地するミディア。すぐさまうしろを向いてガッツポーズをしていた。すぐに試験官に怒られていたようだが。


 そして、何の問題も無く、木の中級魔法を発動させ、再び俺たちの方を向いてガッツポーズをするミディア。再び、こちらに聞こえるほど怒られていた。


 魔法に関しては反省と改善がきちんとできているのだが、どうにも自分自身にはできないらしい。


 それからすこし試験官のおじさんと話した後、ミディアはこちらへ帰ってきた。


「できた! ミディアごうかくした!!!!」


「良かったな」


「良かったですね」


「うんっ!!!!」


 これほどまでにない笑顔を浮かべるミディア。さて、次はジャスミンだ。


「私も頑張ってきますね」


「うん! ファイトだよ!」


「余裕だと思うけど、油断はしないよう頑張ってね」


「はい、それじゃあ」


 冷静なジャスミンは、一呼吸おいて試験官の元へと向かう。


 そして、難なく四属性の中級魔法を使って合格していた。本来なら二属性だけで良い試験を四属性の中級魔法を使って合格したことで、周りもざわめいていた。


「ただいまです!」


 やはり先ほどまでは集中していたのだろうか、どこかほっとした様子のジャスミン。


「おつかれさま!」


「おつかれさま」


「次はエイド君の番ですね……私たちが心配する必要もないと思いますが、頑張ってくださいね!!」


 ジャスミンが両手を使いながら応援してくれているこれは頑張らねば。


「うん。ありがとう、それじゃ——」


「やぁやぁやぁやぁ。お久しぶりですね。姉様。それと下民たち」


 如何にも愉快そうな笑みを浮かべ、前とは違い数人従えてやってきた狂人。あいつ糞野郎を思い出させるその顔、その態度。


「フールド……」


 現れたのは、フールド・エスティア。ジャスミンの双子の狂人だった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る