第30話 中級魔法試験に向けて
美味しいご飯を食べ、難しすぎる授業を聞き、午後は魔法をひたすらブッパしている人達を見ながら寝たり、お姉ちゃんの対応をしたり、急に現れる赤髪をぶん殴ったり(ミディア)。
そんな割と濃い生活をしていた日のとある座学の時間。
「はい。知っている人も多いとは思いますが、再来月に中級魔法試験があります。中級魔法試験は高級とは違い、中級魔法を魔法を出せれば合格です。まぁ、基本的に中級魔術師になれば、血気盛んになっていくので、クラス対抗戦や、学校対抗戦などの行事も入ってきます。なので、今は自分のことだけを考えておいていいと思いますが、これからのことも考えておくようにー!」
「「「はーい」」」
すっかり地獄の授業に慣れた様子の生徒たち。さすがにこの時期に中級魔法を大半の生徒が使えていた。残りの二割程度の生徒もあとちょっとで使える程度にまでなっている。
最初はお姉ちゃんも俺の方にかかりっきりだったけど、後半になってくると、さすがに焦りを感じたのか、真面目に実科授業のサポートをしていた。
いろいろあったけど、なんだかあっという間に感じた1年だったなぁ。まだ経ってないけど。だけど、もうすぐそこに見える未来だ。
とりあえず、俺もミディアもジャスミンも割と早い段階で中級魔法が使えるようになっていたから、そこまで焦ることなく、中級魔法をひたすららぶっぱしまくって魔法適正をあげることをしていた。
さすがに俺もそれには付き合わされたが、色々なことを試していた。
その中でも収穫があったのは詠唱についてだ。
色々な本で勉強していると、詠唱は長く丁寧にすればするほど発動する際の魔力を使わなくて済むらしい。そして、適当に、極端な例を言うと、『無詠唱』もできないことはないが、魔法本体に掛ける魔力とは別に、発動する際に使う魔力を詠唱したときに比べて大量に消費する。
やってみたこともあるが、大きな魔力を使っているという実感はなかった。でも、無詠唱はいざという時だけにしとこう。省エネは大事だからね。
と、そんなことを考えていると、相変わらず俺とジャスミンに挟まれているミディアが俺を睨む。
「ねぇ! 早く退いてよ!」
相変わらず少しキッツイミディア。それに慣れて反応もしなくなった、相変わらず真面目なジャスミン。
ジャスミンは早速もう高級魔法について学んでいるらしい。さらに分厚くなった教科書と睨めっこしている。
「はいはいわかったよ。だけど、ミディア、今更だけど結構髪の毛のびたなぁ」
入ったばかりの時は、 ブロンドの髪は肩辺りまでしかなかったが、今は肩甲骨辺りまで伸びている。
「え、なに急に? すこしきもちわるいね」
「いいじゃないか、なんとなく思い出にふけっても」
「もーいいから出てよー!」
「わかったわかった」
俺はバッグを持ちながら外側に出る。ミディアは腰を滑らせてこちらへ寄ってくる。
そして、椅子に手をついて立ち上がろうと俺の横を通ったミディア。
「エイドもおっきくなったね」
顔がすれ違う時に、ぼそりと言うミディア。なんだ、ミディアも俺と同じじゃないか。
なんだか少しの安心感を覚えつつ、ジャスミンを待つ。
少しするとジャスミンは、ふぅ、とため息をついて天井を見ながら首を回す。
「あぁ、すいません。食堂行きましょうか」
いつも通り、俺たちより少し長く勉強するジャスミンが終わったことで、食堂に向かえる。
荷物を持ったジャスミンと食堂へと向かった。
※
なんだかんだで時は過ぎ、ついに中級魔法試験を迎えた。
数日の休みを挟んだ後、Aクラス、Bクラス、Cクラス、Dクラス、そして俺たちEクラスの初級魔術師が魔法実習場に一堂に集まった。
顔は知っている、程度の人間たちがちらほらと見受けられる。が、全体的にジャスミンとミディアをめちゃくちゃ見ているような気が……。
ま、まぁ、気にしないようにしておこう。
ところでいつものコロッセオが会場になったわけだが、いつもは人の見られない観客席も、親だろうか、ちょこちょこ埋まっている。
ここで、一つ、問題が起きそうなのだが……。
「ジャスミンさん? もしかしてあの人は来るんですか……?」
「あぁ、お父様は今日は来ませんよ」
特にどんな表情を浮かべるわけでもなく、淡々と言うジャスミン。
「そっか。教えてくれてありがとうね」
思い出すだけで胸が熱くなるような、憎しみが湧いてくる。一年たっていても消えることはない。
だが、それはそれ。これはこれ。俺はひとまず目の前で行われる試験に集中することにした。
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