第29話 乙女は鍵を複製します。【ジャスミン視点】


 部屋に集まって女子会をしようとミディアちゃんに誘われた時のことでした。


「そういえば、ミディアちゃんっていつからエイド君と寝てるんですか?」


「え、入学してからずっと? なんか、癖になっちゃってずっと一緒に寝てる」


「えぇ、あの時からなんですね……」


「うん…………もしかして、一緒に寝たい?」


「えっ、いや! そんなことは!!」


「え、すごく寝たそうな顔してたけど……?」


「あっ、いや、その……エイド君と……寝たい、かもしれない……です」


「あっ、エイド? なんであのバカと?」


 ミディアちゃんが馬鹿と言えるのかな、なんて思いながら口を開く。


「いや、その……す、す……じゃなくて、なんとなく?」


「へぇー」


 にやけるわけでもなく、驚くわけでもなく、ただただ無表情のミディアちゃん。その端正な顔をして何を考えているのだろうか、私にはいつもさっぱりわからない。


「いいと思うよ? エイドもそんなに断らないだろうし」


「そ、そうですかっ! あ、でも、エイド君に一緒に寝ることを伝えるときは、あくまで私はミディアちゃんと寝たかったことにしたいんですけど……いいですか?」


「うんわかったー!」


 本当にわかっているのか一瞬心配になったが、きっと大丈夫だろう。さすが……うん。


「あ、そういえばミディアちゃん。土の中級魔法使えるようになったんだよね?」


 そういえばと、この女子会の目的を思い出した。私が中級魔法を使えるようになったという事のお祝いだったんだ。


「あ、はい。まぁ、土ですけどね……はは」


 土は七属性ある中で、一番の不遇属性の扱いの属性で、そのおかげか、他の魔法よりも難易度が低い。だから、土を持っている魔法使いは早く伸びると言われているが、それから上手く土属性を扱いきれず、あまりよくない成績になってしまうらしい。


「それでもすごいよー。一つのぞくせいがつかえれば、他のぞくせいの中級魔法も使えるようになるらしいしー。それによっつももってるしー、いいなぁ」


「いえいえ、そんなことないですよ。それにミディアちゃんだってもうすぐで中級魔法を使えるようになるじゃないですか」


「まぁ、そうだけどー」


 ミディアちゃんは平民の生まれ。それに、土属性でもない。それなのに私とほぼ同時期に使えるようになろうとしてる。これは異常なことなのだ。さすがにフールドには負けるかもしれないけれど、それでも『天才』の域だ。実際、他の生徒は今の時期に初級魔法がやっと形になってきたくらいなのだ。


 まぁ、エイド君は例外として。


「あ、ミディア、いいこと思いついたんだけど」


「え……? 急にどうしました?」


 さっきまでとは比べ物にならないほどのニヤリとした表情を浮かべるミディアちゃん。


「土の中級魔法って、なんだっけ?」


「え、土を固められる……だけど」


「で、初級魔法はなんだっけ?」


「砂を出す……ですけど……」


「ちょっとやってみたいことがあるんだぁ」


 悪そうな笑みを浮かべるミディアちゃん。私はパジャマに着替えてミディアちゃんのいう通り部屋を出た。




「……ちょ、ちょっと、これって犯罪じゃない? いや、犯罪だよ?」


「大丈夫大丈夫。エイドだから」


 そんな理由がまかり通るの? なんて思いながらミディアちゃんのいう通り、鍵穴に砂を流し込んでいく私。ミディアちゃんの作戦はこうだった。


 私の土の初級魔法『土』で、土を鍵穴に流し込み、中級魔法『固形』で固めて、鍵を作るという作戦だ。あまりに無謀すぎる。それに失敗して鍵穴が使えなくなったらどうしてしまうんだ、と言いたいところだけど、私もこの作戦にのってしまっているからどうにも言えない。


 それにこれが成功したら、いつでもエイド君の部屋に出入りし放題に……へへ。


 あぁ、危ない。なんか出てた。


「おっとっと」


 土が鍵穴からあふれる前に中級魔法を発動させる。


「大いなる大地よ。大いなる我が神よ。天と大地の神力をこの私に。中級魔法『固形化』」


 徐々に固まってゆく砂。そして、固まったことを確認して、あらかじめ刺しておいた棒を持つ。しっかりと固まっている。


「……ミディアちゃん」


「うん!」


 ウキウキわくわくしているのがミディアちゃんから伝わってくる。そして、棒をミディアちゃんに譲る。


「行くよ……そいっ」


 ガコッ。ガコッガコッ。


 開かない。


「……どうしよか、ジャスミンちゃん……」


 不安そうな表情を浮かべるジャスミン。でも……。


「……ちょっと貸して?」


 私は棒を持ち、右に回す。


 ガチャッ。


「…………その、入ろうか」


「……うん」


 どこか、しょんぼりとしているミディアちゃんを先頭に、エイド君の部屋へと入っていった。




 で、なぜか、エイド君の隣で寝ることになっちゃったんですけど……。


 色々ミディアちゃんがポロって漏らしちゃってめちゃくちゃ焦ったり、文字通り漏らしそうになっちゃって、気づいたら、本当に気づいたこうなってた。


 無意識的意識? 深層意識? わからない……。


「……ミディアはまだしも、ジャスミンさんはミディアと寝に来たんじゃないの?」


 ですよね……そうなりますよね……。


「あ、いや、なんか、し、自然にこうなっちゃってましたし、動くのも面倒くさいのでこのままでいいんじゃないでしょうか?」


 もはや何言ってるのか自分でも理解できない。何? 何その暴論本当に。


「ミディアもこのままでいいのか……って、寝てるし」


 ちらりとミディアちゃんの方を見る。すると、長年使っている抱き枕を抱いているような感じでエイド君にくっついているではないか。


「いつもこんな感じなんですか?」


「え、ま、まぁ?」


 えっ、まっしぐらじゃない。近親相〇に。


「へ、へぇー。そ、そうなんですね……やっぱり郷に入れば郷に従えって言いますしね」


 私はエイド君の腕にミディアちゃんのように抱きつく。


 あぁ、もうダメみたい。脳みそと口は今、きっと別の生物なんだ。ついでに口と体は仲間みたいだし。


「ちょ、ちょっとジャスミンさん? おーい!?」


「ねっ、寝ましたっ! ジャスミンは寝ましたっ!」


 それは無理があるよぉ。私。でも、仕方がない。やるしかないの!!


「すぅー。すぅー」


 我ながらにへっくそな寝たふりだが、エイド君も諦めてくれたのか、そのまま寝ようとしている。


 ……エイド君、いい匂い。


 自然と落ち着く、その匂いで睡魔が襲い掛かってくる。


 しかし、耐えきれるわけもなく、私は意識を保つことを諦めた。




追記。


 朝、なぜか頭を撫でられていてすごく恥ずかしかったです……。




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