第28話 中級魔法と狭くなったベット


 あれからというもの、午後の実科授業の度に話しかけてくるようになってきたグリア先生。果たして本当に教師としてこれでいいのか気になるが、グリア先生曰く、


「中級魔術師になるには、正直初級魔法打ちまくるしかないから全然大丈夫!」らしい。適当すぎではないか?


 だけど、本当に少しずつ成果は出ていて、ミディアは初級魔法の威力が上がり、ジャスミンに至っては、後一歩で中級魔法を使えるところにまで持ってこれている。


 一か月も経っていない中、ここまでできるようになるのは相当レベルが高いらしい。


 そうお姉ちゃ……グリア先生が言っていた。


「で、後どれくらいで中級魔法が使えそうなんですか? ジャスミンさん」


 サラダ口にほおばっていたジャスミンは咀嚼を速めながら飲み込む。なんだか申し訳ない。


「えぇと、感覚的には多分、一週間ってところです」


 改めて野菜をほおばるジャスミン。健康志向だなぁ。それに比べて……。


「……何? そんなに見てもミディアのお肉あげないよ?」


 相変わらずなぜか他の人よりも多いミディアのご飯。今日に至っては本来なら一枚のはずのステーキが二枚盛り付けられている。


 これを忖度とは言わず何になる。


「そうじゃなくて。ミディアは後どれくらいで中級魔法が使えるようになりそうなんだ?」


「え、うーんと、ひゃぶん、後一か月くらいあれば? でひるかな」


「……飲み込んでから喋ろう? 話しかけた俺が悪いけどさ」


「気にひない、気にひない」


 そういってステーキを食べ進めるミディア。一枚でも俺はお腹いっぱいだというのに、なんで二枚も食べれるんだ。


 やっとの思いで平らげた一枚のステーキを軽々と二枚食べ終わるミディア。


「あ、ミディアちゃん。私のステーキいる?」


「欲しい欲しい!」


 座りながらぴょんぴょん跳ねるミディア。……俺もあげればよかったかも。


「あ、その代わりと言っては何なんですが、ミディアさんの嫌いな野菜サラダ私にくれませんか?」


「え! いいの!? いいの!! ジャスミンと友達でよかったぁ!」


 深緑の瞳を輝かせながら、ジャスミンの野菜とステーキを交換するミディア。


「私もサラダがいっぱい食べれて幸せです!」


 と、ドレッシングを掛けながら言うジャスミン。その顔は、いつになく輝いていた。



「ふぅ」


 少し疲労が溜まった体を休ませるようにベットに座り込む。食事も風呂は済ませ、後はアイツを待つだけだ。


 いつも通りの時間、いつも通りのノック数、いつも通りの人形を持ってこの部屋にやってくるミディア。かれこれ入学してからずっと一緒に寝ている。


 これは気があるのでは!? なんて思ってはいけない。そんなつもりはミディアには全くないのだ。


 再び時間を見ると、そろそろ来てもおかしくない時間帯。なぜかならないノック。


 もしかして、一人で寝れるようになったのか……!?


 何だろうこの、ひな鳥が親の元を飛び去ったかのような、嬉しさと少しのもの悲しさは。


 しかし、久しぶりに一人でゆっくり眠れることがなんとも言えないほどに嬉しい。いっつもなんやかんやで抱かれながら寝ちゃってたし。高頻度でジャスミンと出くわしてあらぬ誤解を生んじゃったし。


 それらから解放されたとなると、なんだかすごくスッキ——


「やっほー。寝に来たよー」


「…………は?」


「え? どうしたの? いつも通り寝に来てあげたよ?」


 部屋から廊下につながるドアを開けたところに立つミディア。なんでそんなに堂々としているんだ。というか、


「鍵開いてたか? 締めてたよな?」


「え? うん。だけどスペアキー作ったからもう自由に出入りできるよ? いっつもわざわざノックして入るの大変だし」


 何の問題もないような風に言うミディア。反省の『は』の字も見られない。というか、セキュリティは万全って言ったやつ誰だよ。


「いや、え? その、色々言いたいことはあるけど、とりあえず犯罪だぞ?」


「だいじょぶだいじょぶ」


 大丈夫じゃないの俺なんだが?


「あ、それと今日はミディアだけじゃないからー」


「……え? それってどういう——」


「おいでー」


 ミディアがひょいひょいと手を下に振ると、ちまちまと歩きながら現れる見覚えのある黒髪。俯いているせいで顔を見えないが……。


「ジャス、ミン?」


 垂れた黒髪の間から覗かせる二つの瞳。ミディアとは対照的な蒼い瞳。


「その……えっと、エイ……ミディアちゃんと寝れるって聞いて」


「何言ってるのジャスミンちゃん? エイドと寝れるかって——ぼがごぉ!?!? むううう」


 何かを言い終わる前にミディアの口を塞ぎきるジャスミン。まぁ、女の子同士で寝たいときもあるよね……なんかうちのミディアがこんなので申し訳なくなってくる。


「まぁ、どうぞ? 三人だったらさすがに狭いと思うけど」


 ごちゃごちゃしていた二人は目を見合わせてコクリと頷き合う。


 そして、布団に入った。のだけど。


「なんで? ミディアはまだしも、ジャスミンさんはミディアと寝に来たんじゃないの?」


 何故か俺が真ん中で寝ることになり、両端にミディアとジャスミンがいる。さながら授業の時のミディアだ。


「あ、いや、なんか、し、自然にこうなっちゃってましたし、動くのも面倒くさいのでこのままでいいんじゃないでしょうか?」


 えぇ。


「ミディアもこのままでいいのか……って、寝てるし」


 いつも通りくっつき虫のようにくっついて寝ているミディア。


「いつもこんな感じなんですか?」


「え、ま、まぁ?」


「へ、へぇー。そ、そうなんですね……やっぱり郷に入れば郷に従えって言いますしね」


 そういってミディアと同じようにくっつき始めたジャスミン。なんだ。何が起こってるんだ。


「ちょ、ちょっとジャスミンさん? おーい!?」


「ねっ、寝ましたっ! ジャスミンは寝ましたっ!」


 無理があるよぉ。


「すぅー。すぅー」


 綺麗すぎる寝息。本当に寝ている時には出ないだろ……。


 力づくで剝がそうとも思ったが、ミディアと違ってジャスミンは普通の女の子。そんな子を無理やり剥がすのも……はぁ。


 俺はあきらめて枕のないベットに頭を落とす。


 二人はさすがに熱いな、なんてことを思いながらいつの間にか意識は、深い闇の底へ浸んでいった。


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