第27話 この人、危ない



「エイド君。エイド君はお姉ちゃん以外に自分が神の使いだってことを言ったりした?」


 自称がお姉ちゃんなのは少し、いやかなり気になるところだが、一応心配してくれているという事なのだろう。


「いえ、自分が神の使いだと言ったのはグリア先生だけです」


「お姉ちゃん、でしょ?」


「……お姉ちゃんだけです……」


「まぁ……!」


 目をこれまでにない位に輝かせ、ウルウルとさせるグリア先生。どういう反応なんだこれ。 


「そうよね、お姉ちゃんしか頼れる人が居なかったものね……! これからは遠慮なくお姉ちゃんに頼っていいからね!?」


「…………そういうわけでもないんですけど」


「え? なに? 何か言った?」


「……いえ」


 圧が。圧がすごいこの人。というか、心配から俺がだれに神の使いだと教えたのか聞きに来たのかと思ったら、自分だけという優越感を味わいたかっただけか。


「と、まぁ、これは後にして。神の使いは色んな人から崇められ、称えられる。それと同時に恨まれ、命を狙われる。それは知っているんでしょ?」


 声色が変わった。先ほどまでの妙に高い声ではなく、冷静な、最初に感じたグリア先生の印象に近い声色だ。その声色のおかげか、一気に場の雰囲気が変わった。唐突だけど、ただただ残念な人でなくて助かった。


「……は、はい。もちろん」


「うん。だから、気を付けていたみたいだけど、これからも神の使いって言う事来るべき以外では誰にも言わないように。もしゴリ押しされてもね?」


 昨日それをしたのは誰ですか……。


「私も、私の家も全力であなたをバックアップするわ。あ、ちなみに知ってるかわからないけれど私の家、ボルキィ家は代々神と、神の使いを崇め称えている家系だからね」


「そうなんですね」


 運が良かったのか、悪かったのかよくわからないが、まぁサポートしてくれるのだからきっと運が良かったのだろう。そう思うようにしよう。


「でも、それなら僕が神の使いだってことをばらしたらいけないんじゃ? 崇め称えているんですよね?」


「それとこれは別よ。完全に別物よ。というか何ならお姉ちゃん、家の中ではあんまり権力ない方だし」


「いい人なのか、悪い人なのかわかりませんね。グリア先生は」


「お姉ちゃん。でしょ?」


「……お姉ちゃん」


「それで良し」


 端正で、できる女風の端正な顔には似合わない、少し陰湿な笑みを浮かべるグリア先生だった。



 グリア先生はお尻についた砂を叩き落としながら口を開く。


「そういえば、さっき恨まれるって話をしたでしょう?」


「はい、しましたね。それがどうしたんですか?」


「もちろん私の家ボルキィ家のように神の使いに肯定的な貴族もいれば、逆も然り、否定的な貴族もいるの」


 それについては十分すぎるほど知っている。なぜなら俺の両親はそう思う貴族に殺されたのだから。


「そこで、一つ提案があるんだけど」


「……何ですか?」


「私の家に住むっていうの——」


「遠慮しておきます」


「でも、セキュリティも万——」


「遠慮しておきます」


「衣食住、この美人なお姉ちゃん付き——」


「遠慮しておきます」


「……むぅ。まぁ、いいわ。許してあげる。だけど、本当に気を付けてね。どこで誰がエイド君のことを神の使いだってことを知るかもわからない。困った時でも、困ってない時でもいつでもお姉ちゃんを呼んでね?」


「……ありがとうございます」


「いいえー。ところでエイド君」


「何ですか?」


「エイド君ってもう精つ——」


「遠慮しておきます」


 俺は危ない人から逃げるために全力ダッシュで逃げ去った。 

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