第26話 顔の良いショタは大好物


 綺麗に身支度を済ませてもらったミディアは若干不満げな顔だったが、どうすることもできないので放置だ。


 だが、今考えてみると、貴族が、それも国で一、二を争うレベルの貴族の娘がただの平民の身支度を済ませるって、いけないことなんじゃ……。


 まぁ、ミディアだし、しょうがないか!


 そう思うことにした俺は、今日も今日とて食堂へ行き、校舎内にある教室を目指す。もちろんミディア達と共に。




「はーい。今日も午前はここで終了でーす! 午後は昨日と同じ魔法実習場です! 遅れないようにねー」


 そういって、肩を回しながら部屋を出るグリア先生。昨日の醜態の鱗片はこれっぽっちも見て取れない。


 教師だからなのか、それともメンタルがおかしいのかわからないが、変な雰囲気になっていなくてよかった。


 隣に座っているミディアは、まぁ、言うまでもない。ジャスミンは相変わらず生真面目に教科書と睨めっこしている。


「ジャスミンさん、ミディア、そろそろ食堂行こうか」


「……うん……」


 まるでゾンビのうめき声のような声で返事をするミディア。


「あ、私は今日の授業で理解できないところがあったので、そこを理解できるようになってから行きますわ」


 相変わらず教科書から目を離さずいうジャスミン。やっぱりまじめだなぁ。昨日の弟の件も関係しているのだろうか。


「そっか。じゃあミディア。ジャスミンさんが終わってから行こうか」


「え゛」


「そりゃそうだろ。真面目に勉強してる友達を置いていくほど薄情者だったか? ミディアは」


「そ、そんなわけないじゃん……うぅ」


 ぐぅぅぅ。という音を隠すようにお腹を押さえるミディア。忙しいな。


「そ、そんな気にしなくても良いんですよ……?」


「いいよいいよ。俺たちがやりたくてやってる事だから。気にせず勉強してて」


「……あ、ありがとうございますわ……」


 ジャスミンと目が合う。ほんのりと顔が赤く染まっていたが、多分知恵熱か何かだろう。目が合った後ジャスミンは少し俯いて教科書に目線を移した。


「それじゃあミディア」


「……何?」


「ミディアも早く中級魔法使えるようになりたいよな?」


「それは、そうだけど……も、もしかして……」


「うん。ジャスミンさんを見習って勉強しようね!」


 閉じてバッグの中に戻していたミディアの本を取りだし、机に出す。もちろん開くページは風の中級魔法のページ。


「や、やだ、やだやだやだ!!!!」


 逃げ出そうとしているが、ミディアの席は俺とジャスミンに挟まれた真ん中の席。どちらかが席を立たないと出られないのだ。


「はい、諦めましょうねー」


 危うく何度か力負けして逃げられそうになっていたが、立たない限りは抜け出せない。


 ジャスミンが勉強を終わる20分程度、渋々といった様子でミディアも勉強をしていた。





 初級魔法、という単語が耳にこぶができるほどあちらこちらから聞こえてくる。それもその筈、午後の実科授業という名の魔法の打ちっぱなしの時間だからだ。


 相変わらず中級魔法を打てる俺は端の壁を背もたれにして座り込みながら多種多様な魔法を見ていた。まぁ、どれも使えるんだけど。


 昨日みたいに寝るのもなんだか怖いしなぁ。特に、ショタコン変態(以下略)とか。


 だから、心地よい風が吹いてはいるが、今日は我慢しよう。


 と、思っていたのだが。


「ねぇねぇエイド君。お姉ちゃんが来たよ? 来ちゃったよ??」


 にちゃにちゃしながらこちらへすり寄ってくるグリア。もう、先生って敬称もいならない気がしてきた。


「……気持ち悪いですよ? 誰にも見られていない角度だからって油断しすぎです」


「いいじゃないの! この時間と家に帰ってお宝を読んでいる時にしか私の癒しはないんだから!」


 なんとなくお宝の内容がどんなのか予想できてしまうのが怖い。すごく怖い。


「というかグリア先生。癒しが一つあるならいいじゃないですか。それで我慢してくださいよ」


「いや、我慢できんかった」


 即答……ここまでくると潔い気までしてきた。


「だって、顔の良いすこし大人びた漫画みたいなショタが居たら我慢できないでしょ?? 普通」


「そんなこと言われても……」


「あ、それと、二人っきりの時は『お姉ちゃん』だよね? 昨日約束したよね? ばらされたくないよね??」


「…………」


「えっ、ちょっと、ちゃんと反応してよ」


「……もしかしてそのためだけにここに来たんですか? 指導するべき他の生徒を置いて?」


「あ、そうだ。つい近寄ったらショタの雰囲気にのまれちゃって」


 なんだそれ。


「お姉ちゃんはいたって真面目な話をしに来たんだよ。だからとりあえずお姉ちゃん、って呼ぼうか?」


「……いやです」


「うん。それもいい。恥ずかしがって言わないのもそれはそれで良い!! でも、ちゃんと言ってくれる方がお姉ちゃんは好きかな?」


「…………」


「で、本題だけど」


 あ、この雰囲気で入るんですね。


「エイド君。エイド君はお姉ちゃん以外に自分が神の使いだってことを言ったりした?」


 ……さっきまでのテンションを維持はしているが、真面目な話をしに来たのは本当だったみたいだ。


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