第25話 ねぇ、はなそ?
「ねぇ、はなそ?」
そう言ったミディアは小悪魔のような表情を浮かべていた。
「……寝るの邪魔しないって言わなかったっけ?」
「……いつのこと? それ?」
にやけるのを隠しきれていないミディア。これでも本人はちゃんと隠し通せているようつもりなのだろう。こういうところがあるから責めきれない。
「……はぁ、また寝れないの?」
「うーん。ねれないっていうか、ちょっと今日は話したい気分?」
「何だそれ」
「だって、いろいろあったじゃん。今日」
「へぇ、ミディアもそう思うんだ」
相変わらず見つめあう状態のままミディアは先ほどまでではないが、ぷくりと頬を膨らます。
「そりゃ思うよ! ごはんがおいしいし、なんか勉強難しいし……勉強のこと考えたら頭痛くなってきたかも」
うぅ、と嘆きながら頭を押さえ始めたので仕方なく頭を撫でてやる。ブロンドの髪は思った数倍さらさらしていて、まるで上質な絹糸のようだった。
だが、当のミディアはいつの間にか頭を押さえていた手をどこかへやり、ぽかんとした様子で俺を見つめる。
なんだか、恥ずい。
しばらくミディアは俺のことを見つめていたが、やり始めたからには中々撫でる手を止められなかった。
そして、鼻腔がミディアのいい匂いに慣れた頃。満足げな表情を浮かべたミディア。
これはきっと終わってもいいってことだろう。そう思った俺は、少し冷え始めた手を布団の中に戻そうとした、が。
がっしりと掴まれる手首。満足げな表情は気づかぬうちに小悪魔のような笑みに変わっている。
「じゃあ、今日はこうして寝よ?」
そういって手首を強引に引っ張られ、ただでさえ近い距離を埋めるようにミディアが俺を抱き寄せてくる。必死に抵抗はしたが、力ではかなわなかった。
「ちょ、ちょちょっと!」
「ミディアもう寝るからぁー。ふぁーあ。おやすみー」
そういって俺をハグする力を強め、瞳を閉じるミディア。どうにもこうにも抜け出せない。
それに、ミディアの体温が伝わってきたり、慣れたと思ったミディアの匂いが至近距離にいることによってさらに強く香る。
「あぁ、もう」
俺は抵抗することをやめ、段々と心地よくなっている感覚に身を任せた——。
※
「……また、ですか…………」
俺だけだったらジャスミンと運命を感じていたのかもしれない。しかし、もちろん今は寝起きでミディアを部屋に送っている途中。二日連続朝帰りを見せてしまうのはなんだか気まずい。
まぁ、ただ寝ただけなんだけど。
「まぁ、兄妹だからこういうこともあるよジャスミンさん。きっと」
「えぇ、そうなんですか……? というか、それって近親相か——」
「ゴホンッゴホンッ。まずいよ? ジャスミンさん、それはまずいよ?? てかなんで知ってるのそんなこと??」
「えっ、あっ、ご、ごめんなさい」
焦りながら口を押えるジャスミン。本当にどこで知ったんだそんな単語。貴族の英才教育にそんな教育事項があるのだろうか。
「……『きんしんそうか』って、なに?」
「「ミディア(ちゃん)は知らなくていい」」
「えぇ! なんで!? ミディアだけ仲間はずれじゃん!!」
こればっかりはどうしようもないんだミディア。今回ばかりはダメなんだ……。
とりあえず、どうにかして話題を変えよう。ミディアの不満げな顔は治らなかったが、執拗に聞いてくることもなかった。
「……あ、それと、ジャスミンさん。ミディアの制服着せるの今日も手伝ってくれませんか? 多分、ミディア着れないから」
はっ! と俺の方を瞬時に向きながら目を見開くミディア。
「なっ、何言ってるのエイド! 私だって制服の一つくらい着れるもん!」
「いや、できないでしょ? ミディア。できないことは正直に言っても恥ずかしくないんだよ?」
「んんんんむぅぅぅぅーー!!!!!」
顔をお猿さんのように真っ赤にして睨みを利かせるが、今回だけは全く怖くない。
「見てなさいよ! 制服なんて簡単に着れるんだから!!!!」
そういって強引に俺たちの間を抜け出して、ミディアは部屋に入っていく。
しかし、数分後に先住民族の姫(改)の状態になりながら涙目で部屋を出てきたのは言うまでもないだろう。
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