第23話 天使たちは考える(ミディア&ジャスミン視点)

※ミディア視点


「——初級魔法『木』!!」


 地面に触れながらひょろりと伸びる木を見てため息をつく。


「もぉ、うまくいかないや」


 イメージするのは食堂の時のエイド。属性は違えど、目指すべき中級魔法の形は見えている。しかし。


「ぜんっぜん大きくならない……」


 魔法は初級、中級、高級と難易度によって分けられているが、魔力の込め具合によって威力や効果が違う。もちろん、ミディアの使う『木』という木を生やすだけの魔法であっても。


 現時点でミディアの出せる木の大きさは頑張って六歳児の腰に行かないくらい。


「でも……!」


 どれほど貧弱な木であっても、続けることしかできることがない。そうミディアは理解しているからこそ永遠と、授業が終わるまで、魔力が尽きかけるまでやり続ける。




「ふぅ」


 数十本、木を生やし終わったミディアは腰を下ろして辺りを見渡す。全然知らない人たちばかりだし、魔法も自分と大差のない者なので、特に面白みもない。


 しかし。


「ジャスミンちゃんはすごいなぁ」


 多彩な魔法属性を扱い、一つ一つ丁寧に初級魔法を打っている。水が出たり、火が出たり、光で明るくなったり、土が出たり。こちらは見ていて面白い。


 そうしてミディアはジャスミンを見ていると、自分の視線を突っ切るようにグリア先生が通り過ぎる。なんとなしに視線を追ってみると、エイドの方へ向かっているではないか。


「どしたんだろ」


 グリア先生の行く先を見ていると、エイド、がいたのだが。


「寝てるじゃん……あとでお仕置きだね……」


 本来なら起きて中級魔法を使えるように、初級魔法を打ちまくらないといけないのだが、エイドは中級魔法をもうすでに使えるようになっている。


(だけど授業だから起こしに行ってるのかな)


 特に何の疑問もなくグリア先生を目で追う。そしてグリア先生はエイドの前につき、起こすのかと思ったら。


 手をエイドの目の前にかざす。


「ぷっ、やっぱり起こされてるし! しかも魔法使われるみたいだし! ぷぷぷ」


 ミディアはひとしきりこの後を妄想しながら初級魔法の打ちっぱなしに戻った。




※ジャスミン視点



 次は火を——。


 って、ちょっときつくなってきたかもしれない。魔力が枯渇してきた気がする。一旦魔法を打つのやめよ。


 目の前の初級魔法だけに集中しちゃってたけど、周りも結構やってるんだなぁ——って、何でグリア先生エイド君のところに行って……エイド君、寝てる……。


 寝顔もかっこいいけど、しっかり寝てるのバレちゃってる……暇だしどうなるのかちょっと見てよ。


 先生が手を出して起こす——かと思ったら手をエイド君の目の前にかざしてるだけ……? 何やってるんだろう、魔法も出てないし……。


 しばらく眺めていると、唐突にエイド君は目をぱっちりと開けて反対を向いている先生とばっちり目が合っていた。うわぁ、気まずいだろうなぁ。


 しかし、少しすると、先生がエイド君の隣に腰を掛け始める。なぜか顔を真っ青にして。


 も、も、もしかして……エイド君に告白されたっ!? それで驚きすぎてあんな表情になってるんじゃ……だから横にも座って……うぅ。


 どうしよう。いや、どうしようもないけど。取られちゃう……でも、先生、ウエスト細いし、お胸も大きいし……私なんか立ったままつま先見えちゃうくらいだし……。


 そりゃ、スタイルの良いお姉さんがいいよね……今も先生はまだ緊張しているみたいだけど、普通に親しそうに話してるし。


 でも、私だって……でも、私みたいなエイド君にとっての新参者にはチャンスはないのかなぁ。

 

 って、グリア先生が立ち上がった。また反対を向いて表情はわからないけど、そういう事なのかな……? 


「っ!?!?」


 立ち上がったグリア先生は、同じように立ち上がったエイド君の首に腕を回し、親しげに話しているではないか。


 角度的にエイド君の顔は見えなくなったが、代わりに見えたグリア先生はどこか吹っ切れたような、そんな清々しい表情になっているではないか。


「も、もしかして……カップル、成立しちゃった……?」


 ダメダメダメダメダメー!!!!!


 ど、ど、ど、どどどどどどどどうしよう。


 い、イロジカケってやつをやらなきゃいけなくなるのかな!? 最近読み始めた恋愛の本にそんなこと書いてあった気がする……。


 あ、でも、私がイロジカケってやつしたら、私が変態、みたいになるんじゃ……彼女持ちを、奪おうとする、ヘン……タイ。


「いやいやいやいやいやぁ!」


 私は頭を振る。


「ま、まずはエイド君に聞いてみないと……それからだよね……」


 なるべく先生とエイド君を視界に入れないようにして、私は初級魔術の練習を再開した。

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