第21話 実科授業
一度教室には戻ったものの。
『午後の授業は実科授業のため、魔法実習場』と、黒板にでかでかとした文字でそう書いていた。
俺たちは着替えをしていたこともあり、ただでさえ教室に着いたのは始業五分前。
その為、今は全力ダッシュで魔法実習場へと向かっていた。
「……はぁっ! はぁっ! 何で、ミディアさんはあんなに速いんですか……っ! 息も切れてないしっ!」
ぜぇぜぇと息を荒らげながら俺と同じように、見るも無残なフォームでダッシュしているジャスミン。魔法に優れている人は体力が雑魚雑魚なジンクスとかあるのか……?
「はぁっ! わからないっ……ですっ!」
本当に場所はわかっているのか不安になるミディアの全力ダッシュを追いかけながら、死にかける俺とジャスミンだった。
※
汗に滲む額を拭きながら顔を上げると、そこにはまるでコロッセオのような、巨大な建物が立っていた。ほかの区画にも形状は違うが、おそらく魔法実習場とみられる建物がいくつかそびえ建っていた。もちろん、どれもとてつもないほどに大きかった。
魔法実習場の区画に入り、しばらく歩くと入口らしき所にナイスバディなグリア先生と、今日あったばかりのクラスメイト達が集まっていた。
「君達ー。遅刻だよー? 早速減点されたいのー?」
「す、すいませんっ!」
俺たちは口々に謝罪の言葉の述べながら、集団に溶け込んでゆく。
「はい、じゃあみんな集まったところで、まず、午前はお疲れさまでしたー。今からここで行うことについて説明していきまーす!」
「「「はーい……」」」
なにか嫌な予感を察したのか、生徒たちは変にテンションを上げることなく、もはや悟りを開いたのかと思うほどに冷静な返事を返していた。魔法学園、おそろしい。
「はーい! 元気の良い返事をありがとうございまーす! では、午後の実科授業について説明していきます! まず、先生の授業方針はなんとなく察した人もいるかもしれませんが、体で覚えてもらうタイプです。なので、必要な情報は最低限頭に入れ込んであとはひたすら魔法を打ちまくりましょー!」
……脳筋、だ。紛う事無き脳筋だ。
他の生徒も同じようなことを思ったのか、心配を口々に漏らし合っている。それもそのはず、一年以内に中級魔法が使えないということは、中級魔術師になれないという事。そして中級魔術師になれないということは、そこらの平民と同じという事。
魔法学校に通っている平民ならまだしも、貴族で中級魔術すら使えないとなるとただの落ちこぼれだ。
だからこそ心配になるのも仕方のないことなのだ。
「なーにざわついてるんですかー? 先生が大丈夫と言ったら大丈夫なんです! では早速中へ入っていきましょう」
生徒たちの心配をよそに、どんどん中へと入ってゆくグリア先生。どれだけ脳筋でも唯一の担任。批判することは出来ても拒否することは出来ないのだ。
生徒たちは少しだけ迷った後、諦めたようにぞろぞろとコロッセオへと入ってゆく。
俺たちもそれに続いた。
※
ただでさえ巨大な闘技場のような場所に、それを囲むようにして並ぶ観客席。ほとんどが黄土色で統一された魔法実習場はなんとも言えない雰囲気を醸し出していた。
「はい、それじゃあ適当に間隔を取ってならんでくださーい。そして、初級魔術を打ちまくりましょう! 以上!」
ふぅ、と一息つきながらやり切った感を出すグリア先生。黙って従っていた生徒たちもさすがに異議の声を上げる。
「せ、先生。さ、さすがにそれはないんじゃないですか……? 初級魔法を打ちまくりましょうって、雑すぎます……!」
意を決したような一人の男子生徒が一歩前に出て、先生に向かう。それにつられるように他の生徒たちも騒ぎ始める。
しかし、ジャスミンとミディアは先ほどと変わらず、素直に先生の指示を聞こうとしていた。
「……静かに!」
グリア先生が口元に人差し指を添えながら言うと、一瞬でピシリ、と空気が割れそうなほどの緊張感が走った。
「先生は確かに雑かもしれません。でも、貴方たちが中級魔法を使用できるようになることを第一に考えています。それに、午前は中級魔法の教科書や、混合魔法について勉強しましたが、そもそも、中級魔法も、混合魔法も、難しい理論の前に魔法に触れ、体内の魔法適正という器を大きくすることが大事なのです」
「…………」
一歩前に出ていた男子生徒は呆気に取られているのか何も言わず、次の言葉を待っている。
「はい、という事なので、結局は初級魔法を打ちまくらなければいけないんです! それじゃあ始めましょう!」
パチンッ、というグリア先生の手を打った音で、異議を唱えていた生徒たちは黙り込む。そして少ししてそれぞれ散らばってゆく。それを満足げに見るグリア先生。
ところで。
少しずつ距離を取ってゆくジャスミンとミディアを見る。
「ジャスミンさんも、ミディア、なんで、焦らなかったんだ?」
俺の声に反応して二人は俺の顔に視線を引き寄せる。そして、二人はお互いに顔を合わせて、口を開く。
「私は、前々から、フールドに対するお父様の指導を見てきましたから……」
「ミディアは別に焦る必要ないし、先生の言うこと聞くしかできないから」
そう、何気なく言った後、再び距離を取り始める。
ジャスミンは言うまでもないが、もしかしたらミディアにも才能があるのかもしれない。平民が二属性使えるだでも才能は十分にあるんだが、それを超える何かがあるような気がする。
まぁ、気がするというだけで何の根拠もないんだけど。
俺は二人を尻目に、闘技場の壁を目指す。中級魔法は使えること知られたから別に今から練習をする必要もないし、それならいっそ休憩を取らせてもらおう。
壁に着くと、土でできているのかざらついた壁を背に腰を下ろす。そして、しばらく色んな人の初級魔法を見ていたのだが、段々と睡魔が襲ってきた。
まぁ、この場合俺は悪くないだろう。そう思いながら目をつぶった。
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