第20話 先住民族の姫、再び


 ジャスミンの部屋の前でもあり、ぎりぎり俺の部屋の前と言える範疇の場所に俺たち三人は立っていた。


「それじゃーエイドは外で待っててね」


 多分役に立たないであろうミディアが率先してジャスミンの部屋に入ろうとしているが、どうやら俺はここまでのようだ。


「うん。あんまりジャスミンさんに迷惑かけないようにね……」


「……どういうこと?」


 ミディアがジト目でこちらを見てくるが、本当のことを言ったまでだ。何が悪い、とは言えないんだけどね。


「あっ、あの、あきました」


 鍵を開けたジャスミンが部屋のドアを開けながらミディアを待っている。ミディアは俺にジト目を送るのを諦めたようで、開かれたジャスミンの部屋へと入ってゆく。


 そして、ジャスミンも中へ入りドアが閉まりかかった瞬間、ひょっこりとドアの隙間から顔をのぞかせるジャスミン。


「あ、あの、ありがとうございました。そ、それじゃっ」


 何故か顔を仄かに赤らめたジャスミンは逃げるように部屋のドアを閉める。さっきの『水球』のせいで風邪でも引いてしまったのか? それなら悪いことをしたなぁ。



 今更だが、隣の部屋だったんだな、なんて思いながらジャスミン、俺、ミディアの部屋の順で並んでいるドアを交互に眺める。ジャスミンも受付の時に鍵をもらっていたから、単純に渡された順に部屋が配置されているのだろう。


 ジャスミンの部屋からはしばらくドタバタと、着替えをする時になるはずのない音が廊下まで響いていたが、少しするとぱたりと照らし合わせたように鳴りやんだ。


 そして、開く扉。まずは、ミディアが出てきたのだが、笑いを耐えられないような、いつ笑いの爆発が起きても良いような表情で出てきた。なんだ?


 そして、そんな変顔もどきをしたミディアに引っ張られてジャスミンが現れた、のだが。


「…………なんで先住民族の姫コーデしてるんですか……ジャスミンさん?」



「あはっあははははっ!!」


 甲高い笑い声を響かせるのはもちろんうちのミディアバカ。ジャスミンは恥ずかしそうに手をもじもじさせている。


「……どうしたの……? それ」


「ミディアちゃんに、言われるがまま、抵抗はしたんですけど……ダメでした……」


 無念そうに顔を赤く染めてもじもじ声を発するジャスミン。


「あーほんとにおっかしー!」


 やっと甲高い笑い声を響かせるのをやめたミディアが、息継ぎをしながらそう言った。


「元はと言えばミディアがやってたコーデだろ?」


「……なにか言った?」


 途端に表情を氷点下にして睨みを利かせてくるミディア。


「……いえ。何も言ってません」


「……ふんっ」


 満足したのか、満足してないのかよくわからない返事を返し、そっぽを向く。なんだか、最近のテンプレだなぁ、これ。


 そんな中ジャスミンは、不審な様子で数度俺とミディアを見比べるように見た後、重そうにしている口を開いた。

 

「……あの……エイド……さん、よ、良かったら、良かったらでいいんですよ? その……着替え、手伝ってくれません、か……?」


「えっ、」


 ぼうっと蒸気が出そうな程に赤く染まるジャスミン。そして、そんなジャスミンと触れ合う視線。


「…………」


「…………」


 数秒の熱を持った心地よさと居心地悪さが両立するような沈黙。


 しかし、それをぶち壊したのは、言うまでもない。


「なーに言ってるのジャスミンちゃん! 私ができないのにエイドにできるわけないじゃんっ!!」


 と、ジャスミンの背中を豪快に叩きながら言う。お前が言うな。特大ブーメランだわ。


「あ……えと、やっぱり自分で着替えてきます……」


 そろりと俺たちの合間を縫って部屋へ入ってゆくジャスミン。


 そして、部屋の中へ入るとものの数分で綺麗に制服を着て、外に出てきた。さすが、うちの馬鹿ミディアとは違うね!



「それじゃあ、そろそろ行こうか」


 時刻も時刻だ。あと数分で学校に向かわないと授業に遅刻してしまう。


「う、うぅ……行きたくない……」

 

 突然頭を押さえて膝を落とし始めるミディア。


「…………わかります……マジで」


 ほう。ジャスミンの貴族っぽいお淑やかな喋り方を忘れるほどなのか。真面目に読んだことないし、もう使えるからよくわからないけど。


「エイド君はもう中級魔法使えるからいいですよね……いいですよね……」


 禍々しい、呪うような視線を送ってくるジャスミン。それに合わせるようにミディアも同じような視線を送ってくる。


「……と、とりあえず、行きましょう?」


 渋々といった様子で歩き始める二人。なんでこんな大変なことになってしまったのか。それを考える余裕は俺にはなかった。

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