第19話 歪な関係
「私は、四属性使いで、あの子は、私の双子の弟フールドは三属性使いなんです」
ジャスミンはぽつりぽつりと、滴る雫を気にせずに語り始めた。
「私は、自分が恵まれているなんて思ったこともありません。でも、
「……じゃあ、なんでフールドはジャスミンちゃんにあんな事しようとしたの……?」
濡れることを気にせずジャスミンに寄り添っているミディアが問う。
「……わかりきったことは言えません。でも、私が四属性持ちで、フールドが三属性持ちだから、だと、思います。魔法の才はフールドの方があると思うんです。属性の数、というところを除いては……」
肩を落とすジャスミン。その隣でうーん、と悩んでいるミディア。なんとなくわかった気もするが、それだけの理由であんなことをするのだろうか。
「ああいう風に火炎を打たれるのは結構あるんですか……?」
「え、えぇ。なんども大やけどを負いましたけど、家には光魔法を使える高級魔術師がいたので、その方に毎回ヒールしてもらっていました……」
「!?!?」
「えっ…………?」
さすがのミディアもそれには驚いたようで俯いているジャスミンの方をじっと見ている。
「なんで…………?」
「……エスティア家は才能至上主義です。それなのに才能のない私がフールドよりも多少良く扱われている、罰、というのでしょうか。甘んじてそれを受けることが、フールドへの唯一の罪滅ぼしだと思っていた、からです」
あくまで自分が悪いような、そんな表情で俯いていた。
「ばつとか、つみとかわからないけど……それでも、おかしいよ!? あんな事されるの!!」
ジャスミンに寄り添っていたミディアは突然立ち上がり俯いていたジャスミンの手を取る。
「あんな事させちゃだめだよ!! もし次されそうになっても私が守るから! ね!?」
「あ、え、うぅ」
ミディアに押されおろおろするジャスミン。彼女なりに悩んでいたことが見て取れる。
「そうだよジャスミンさん。どんな状況でも、それがだれであっても、無抵抗の、ましてやなにもしていない人に手を挙げるのは絶対に間違ってる」
それこそ君の父のことでもある、という言葉は飲み込んで。
「だから、いつでも相談してくれ。いつでも頼ってくれ。俺とミディアにできることなら、何でもするよ」
ジャスミンの父がどんな暴君でも、ジャスミンの弟が狂人でも異常者でも、ジャスミンはジャスミンだ。今、目の前にいるジャスミンを信じたい。
「…………二人とも、ありがとう……ございます……」
「うん! じゃあ、とりあえず着替えにいこっ!」
元気を分け与えるように笑顔をジャスミンに振りまくミディア。それにつられて、ジャスミンも心なしか顔が明るくなっていた。
※
べちゃりべちゃりと、水を含んだ靴の音が道に広がる。気持ち悪さに少し顔を歪めながらジャスミンは歩いていた。
「……ところで、エイド君……。今は冷静になったからわかるんですけれど、どうして水の中級魔法、『水球』が使えたのですか……?」
「……え、あれ中級魔法だったの!? なんでなんで!?」
と、冷静なジャスミンに対してミディアはバカみたいな反応を返しているが、中級魔法を見たことがないのなら、この反応が普通なのだ。さすがエスティア家というべきか。だけど。
「……え? あれは初級魔法の『水』ですよ???? たまたま水が運よく丸くなっただけで……ええ」
「やっぱりそーだよね! エイドが中級魔法とか使えるわけないもんねぇ! 私でもまだ使えないのに!」
やっぱり中級魔法だって言おうかな。ミディアに言われるとかなりむかつくなおい。
「……そんな御託で私をだませるとでも思っていらっしゃって? まず、初級魔法の『水』はただ水が出るだけですし、それが自分から球の形に模られに行くなんてありえません」
まぁ、ですよねー。自分の魔法をひけらかすつもりは全く無かったし、それなりの時期が来たら中級魔法がやっと使えたーみたいな演技をしようと思っていたのに。
「どうなんです?」
「…………ま、まぁ、さっき中級魔法の本読んだばっかりだし? イメージしたら、なんとなくできた……みたいな?」
ミディアが立ち止まって、そんなわけない、ありえない、みたいな絶望と驚嘆が混じったような表情を浮かべているが、俺はやればできる男だぞ? お前と違って。
「……あの時のよくわからない余裕はそういう事だったんですか……理解した気になってただ澄ましているだけかと思っていましたわ……」
あら辛辣。そういうのはミディアだけでいいんですよ? 二人も居たら変な扉開いちゃいそうだし。
「……ミディア、負けた……? エイドに? うそ……でしょ?」
未だに顔芸をやめないミディア。整いすぎている顔が相まってなんとも言えない顔をしていた。
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第17話 授業②の中で中級魔術師から高級魔術師に上がるのは2、3年かかると書きましたが、3~5年に変えました。よろしくお願いします。
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