閑話休題 フールド・エスティア
エスティア家から逃げた姉様を。
いつもいつも弱虫な姉様を。
ただいつも通り『お仕置き』しようとしただけなのに……!
「何なんだあいつはっ!!!」
濡れた髪を拭いながらフールドは壁に手を叩きつける。痛さなど感じない。それ以上に羞恥、怒り、憎しみがフールドの心の中で満員電車のように渦巻いているのだから。
(中級魔法が使えるのは俺だけではなかったのか!? いや、俺だけのはずだ。俺は天才だ、俺みたいな天才が物心ついてから一心不乱に中級魔法を使えるように努力したんだ。それなのに、それなのにあの平民はっ!!)
(姉様のあの顔が嫌いだ。いつもいつも、まるで自分だけが
フールドに先ほどまでの憎さが胸を超えて顔にできたような表情はもうない。今は、再び優越の海に浸かっているような、そんな表情。
(あれもきっと間違いだ。食堂にいた中級魔術師が茶々を入れたんだ。そうだ、きっとそうだ)
そうやって、フールドは自分を暗示じみた方法で再び『自分』を取り戻し、圧き始めたのだった。
「次は、どうしてやろう」
この腐った性根は、エスティアの血を継ぐ者の宿命なのか、それともエスティアという家に生まれたのが運の尽きなのか。それは誰にも分らない。
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