第17話 混合魔法


「はい、じゃあ、この授業は早速、混合魔法について教えて行こうと思いまーす! 本当はちょおっとだけ面倒だから後半にする授業なんだけど、先生、面倒くさいことは先にやっちゃいたい性格だから、もうやっておきまーす!」


 やめてくれ。きっと全員が内心で思っているだろうが、それを初日にして言い始めるものはいなかった。


「はい、じゃあ、魔術基礎の教科書124ページを開いてー。えーと、なんかめんどくさいこといっぱい書いてあるけど、めんどくさいから端折るねー。簡単に言うと、魔法混ぜたらすごい威力発揮するよーってことです! 例えば、別々の初級魔術を混合魔法として組み合わせられれば、中級魔術と同威力の魔法を使うこともできます。ただし、これを使えても中級魔術師として認められるわけでもないので注意してくださいねー! まぁ、実は中級魔術の方が混合魔法よりも簡単だったりするんですけどねー!」


 確かに魔術を組み合わせるとかなんだとか書いてあるけれども、まったく理解はできない。俺で理解できないのに、ジャスミンはともかく、ミディアは理解できる訳がない。


「……大丈夫そうか……ミディア……?」


「…………文字は……なんとか読める……」


 ……そりゃ、読めなかったら初歩的すぎる問題だもんな……。

 

「ジャスミンさんは…………まぁ、そうですよね」


 言わせるな的な雰囲気をすごく纏いながらこちらを恨めしそうに見るジャスミンさん。なんかしました? 俺。


「……なんでエイド君はそんなに余裕そうなんですか……」


「まぁ、俺はもうあきらめたし……」


 なんとなく恨めしそうにこちらを見ていた理由が分かったところで、再びざわついていた教室を先生の声が支配する。


「と、まぁ、君達には到底理解できないかもしれないけれどそれもその筈、本来なら中級魔法が使えるようになってから教える内容なので、まぁ、実戦授業をやっていけばそのうち何となくできるようになりますよ! あ、今更ですが先生は圧倒的実戦推奨派なので!!」


 最初の印象はただの元気な先生という印象だったが、今となってはただの脳筋教師だ。 


「まぁ、大体やることは説明できましたかねー。よし、少し早いですけど今回の授業は終わりでーす! 後は自分で中級魔法の教科書とか読んでてねー。それじゃ、チャイム鳴ったらお昼休みどーぞー」


 呆気なく終わった先生の脳筋授業。教室を見渡すと教科書を見ているのはごく一部。大抵の生徒は机に突っ伏すか、遠い目をしながら魂が抜けたように背もたれに寄りかかっている。これ、六歳が醸し出してい雰囲気なのか……?


 もちろんミディアは後者で、話しかけても声が届きそうになかったので声はかけなかった。しかし、ジャスミンはあきらめる事無く教科書と睨めっこしている。


「すごいですね……ジャスミンさん。そんな熱心に」


「あぁ、私は四つ属性を持っているので他の人よりも頑張らないと。四つとも使えないと宝の持ち腐れになってしまうので……」


「あ、そうなのか」


 伝説の存在にもやっぱり苦労は付き物なんだなぁ。


 なんてことを思っているとちょうどよいタイミングでチャイムが学校に鳴り響く。チャイムに魂を吹き込まれたミディアは俺とジャスミンを交互に見ながら目をキラつかせ、口を開く。


「ねぇっ! 食堂、いこ?」


 「ね? ね?」とペットが飼い主にお散歩をねだるときのような潤つかせた瞳。


「……別にそんなねだるような目をしなくても行くぞ?」


「ほんと! じゃあいこっ!!」


 そう言って左手には俺の手を、右手にはジャスミンの手を持ったミディアが勢いよく立ち上がる。俺とジャスミンはミディアに引っ張られながら食堂へ再びダッシュをするのだった。



「うーーーーん! おいちい!!!」


 やはり豪華な昼食に舌鼓するミディア。シチューが白髭のように口の周りについている。


「そんな勢いよく食べなくても誰もミディアのを食べないよ。ほら、口拭いて」


 もってきたハンカチで口周りを拭ってあげる。


「やっぱり頭を使った後はしっかり食べないと!!」


 と、おそらく一番頭を使えていないだろうミディアが言っている。きっとミディア以外の生徒が言ったのならかなり言葉に重みがあったというのに。残念だ。


 なにはともあれ雑談しながらおいしく昼食を食べていたその時。


「あ、みーっけ。ほら、これどーぞ」


 と、声を掛けられジャスミンが後ろを振り向こうとしたとき、突然現れた黒髪の少年はシチューをジャスミンの頭の上に遠慮なくぶちまけた。

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