第15話 授業


 んん。なんだか周りが異様に五月蠅い。なんだ?


「——くーん。初日から居眠りですかー?」


 居眠り? 何のことだ。俺はただ突っ伏しているだけで…………あ。


 すぐさま、ぼやける脳みそをフル回転させて起き上がる。脳みそと同じように白いぼやがかった視界のせいで目の前が良く見えない。


「もー、学園長もいらしてるのに、何やってるんですか! 後でエイド君は講師待機室に集合です!」


 目が見えづらくてもグリア先生がプリプリしながら怒っているのがこれでもかと伝わってくる。しかし、今はそんなことこれっぽっちも重要ではない。


 先生は何と言った? 学園長って、言ったか? 言ったよな……多分。


 まずくないか。これは。……たぶん、すっごくまずい。


 なかなか治らないぼやけた視界のせいで教壇辺りにいるハズであろう学園長の表情も全くと言っていいほど読み取れない。というか、さっきから白い塊にしか見えない。


 しかし、学園長が来る理由はなんとなしに読み取れる、というか読み取れ過ぎる。直接言い渡しに来るなんて……それもこんなに人が多いところでっ……!


 ミディアと共にこの学園にも昨日入ったばかりのロンド寮にもお別れを告げる覚悟をしたその時。


「ごふぉん、ごふぉん。大半の生徒が儂をしらなかっただろうが、一応この学園の長に着いておる者じゃ。よろしく頼む。では、簡単な自己紹介も終わったところで、君たちに簡単に言葉をいくつか送っておく。なんせ、後四クラスもあるんじゃからな。それでは、まず、君たちは類まれなる力をもってこの学校に入学したことは自覚しておるだろう。その力は決して悪に転ずるための力ではなく、この国を、この国の民を守るための力じゃ。それをくれぐれも忘れぬように己を磨き、学友と切磋琢磨して成長していってほしい。それと、入学初日に居眠りをするような生徒にならないように頑張ってくれ。それじゃあ、儂の話は終わりじゃ。君たちの輝かしい未来に栄光あれ」


 ぼやが掛かった視界がクリアさを取り戻してきたところで学園長のお話は終わり、白髭を撫でながら廊下へと出てゆく。


 …………なんか、大丈夫だったみたい。


 しかし、一安心したのも束の間、学園長に向いていたクラスメイト達の視線はもちろん俺の方へ向くわけで。


「…………なんでミディアたちこんなにみられてるの?」


 おそらく少し考えればわかる気もするが、ミディアは基本思考を放棄しているのでこんなものだろう。まぁ、今回は俺のせいだけど。



 少しするとグリア先生が早速教科書やらなんやらを配布し始め、それと同時に周りの視線も散っていった。


 俺もやっと落ち着ける気持ちでいると、前から重そうな分厚い本が一冊、また一冊と回されてくる。その拍子を少し見ると、【魔術基礎指導書】と書いてあったり、【中級魔術大全】と書いてあったりしていた。


 本は全部で四冊になったが、二冊は魔術に関する本、そしてもう二冊は勉学に関する本だった。最後に筆記体でプリスティアと書かれたバッグを渡された。


「はい、じゃあみんないきましたかねー、それじゃあ簡単にこれからのことを説明していこうと思いまーす!」


 ざわついていた教室を一声でまとめ、視線を集める。


「まず、皆さん、入学おめでとう! この学園のことは皆さん説明しなくてもわかると思うけれど、ここは神聖国家フーリヤ唯一の魔法学園、プリスティア。皆さんは中級、高級魔術師になり、将来的には冒険者になるもよし、国の魔術師になるもよし、王級魔法、神級魔法を求めてこの学園に残るのもよし。高級魔術師にまでなってしまえばそこからは皆さんのやりたいことは大抵叶います。なので、頑張って高級魔術師になれるように頑張りましょーう!」


「「「「「はーい」」」」」


 元気な返事に満足したのか先生も満面の笑みを浮かべ、次の説明に切り替わる。


「はい、じゃあさっきの話に中級魔術師、高級魔術師と出てきたと思いますが、まずどうやったら中級魔術師になれるか、わかる人ー!」


 恥ずかしさもあるだろうが、一人も手を挙げる様子がない。まぁ、ここは結局先生が教えて——


「はい。中級魔術を使用できるようになれば中級魔術師になれます。高級魔術師も同じような感じだと思います」


 と、冷静に、まるで機械が検索結果を無感情に吐き出すように答えるジャスミン。どこか違和感を覚えながら、起こりつつあった拍手にまざり、俺も横にいるジャスミンに拍手を送る。


「そうですその通り! さすがですねジャスミンさん。この魔法学園プリスティアは完全実力主義です。中級魔術が使えるようになれば中級魔術師になれて、高級魔術が使えるようになれば高級魔術師になれます。ほかにも詳しい条件はありますが、根本はこういうことです。そして君達にはいきなり酷な話かもしれないけれど、卒業できる高級魔術師になったとして、夢は大抵叶うと言いましたがもちろんその中でも優秀な者たちの方が自分の将来を選びやすいです。当たり前ですが、確かに忘れてはいけないことなのです」


 静まり返る教室。グリア先生の真剣な温度が教室に伝わったのだろう、それを肌でひしひしと感じる。


「と、まぁ、すこーしだけ暗い話もしましたが、正直今の段階ではあんまり気にすることはないですよー! じゃあ説明の続きをしますねー!」


 そう言って先生は流暢に止まることなくこの学園についての説明をしていくのだった。

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