第14話 入学

 

 いつ学園長に呼ばれるか。常に命綱なしで綱渡りしているような気分だ。もちろん綱渡りの場所は断崖絶壁。


 そんな俺の心情も知らずに前の二人は本校舎まで爆走している。もはや、手を引っ張られている俺はコツをつかんで息を切らさず引っ張られるようにまで成長した。もはや、プロ引っ張られヤーの領域だと思う。


 とそんなことを考えながら引っ張られていると、いつの間にか本校舎にたどり着いていた。結構距離はあったはずなのだけれど。これがプロ引っ張られヤーの力か。魔法より使えるかも。


 本校舎は相変わらず壮大で、レンガを一つ一つ数えれば何十年もかかってしまだろうというほどに大きい。


 入学の受付をしたところから校舎内へとミディアたちと入ってゆく。もちろん今は走っていないし、手も握られてはいない。


 中に入ると、一度は見たものの、やはりとんでもないほどに古いながら凝った作りに、日の光が入ってくる吹き抜け。すべてが圧巻だ。


 すこし中へ進むと、掲示板のようなものがあり、そこにクラス表が貼ってあった。クラスは全部で五つ。簡単に『A』『B』『C』『D』『E』と別れている。


 一瞬ミディアたちと別々のクラスになってしまうのでは、思ったのも杞憂だった。ミディアはもちろん、ジャスミンとも同じクラスだった。いきなりボッチは少しきつかったので助かった。


「わぁ! みんな同じクラスだね! 良かった良かった!」


 と、ミディアが相変わらずぽわぽわしたことを言っている。が、しかし今回だけは同意見だ。


「ほんとですね……よかったです」


 同じく無い胸をなでおろすジャスミン。


「俺たちは……Eクラスか。教室は——」


「教室までは私が案内するよ!」


 真横から元気よく声をかけられる。それに驚き三人全員がすぐさま横を振り向く。


「おはよう! 今日から君たちの担任になったグリア・ボルキィです! 宜しくね!」


 どこかで聞いたことのセリフを言いながら登場してきたグリア先生。前も担任って言ってたけど……まぁ、教師なら前々から把握していたのだろう。


 俺は深く考えることなく先生の言葉を信じる。ここで疑っても何の得にもならないし、普通に良い先生っぽいし。


「おはようございます先生! よろしくおねがいしますっ!!」


「あ、よ、よろしくお願いします!」


 と、各々元気に返事を返す。


「あれー? エイド君は先生への挨拶はないのかなぁー?」


 ニヤニヤしながらおれの姿を見下ろしているグリア先生。何も、そこまで変な表情をすることもないだろうに。


「おはようございます、先生。よろしくおねがいします」


 と、返すとなんだか不満げな表情だったが、一応返事を返したことに満足したのか、教室までの案内を始めだした。


「はい、じゃあまずあなたたちの教室はこの本校舎の二階ですっ! 中央にある馬鹿でっかい階段を上って左側の廊下がAクラス、Bクラス、Cクラスがあって、右側の廊下に面する教室がDクラス、そしてあなたたちの教室、Eクラスです。そしてその奥には講師室があるから、何か必要があれば基本一人は講師が在中してるから呼んでねー」


「わかりました。そういえば先生、中級魔術師の方々や、高級魔術師の方々はどこで受けられてるんですか?」


「あぁ、中級魔術師の生徒たちは三階、高級魔術師の生徒たちは四階よ。上になればなるほど正直教室には通わなくなるから、上の方が都合がいいのよ。というか、よく知ってたわねエイド君」


「あ、え、基本ですから?」


「まぁ、そーよね。最近の子は覚えがはやいものね!」


 なんて言いながら階段を上り切る先生。先生も十分若いと思うのだが、ジェネレーションギャップというのは少なからず存在するのだろう。


 階段を上り切って少し右に歩くと、【Dクラス】の看板。そしてまた先まで歩くと【Eクラス】の文字が彫られた看板が見える。その奥には【講師待機室】との文字が彫ってある看板が見える。なんだか、あまり近づきたくないな。


 普通の扉の二倍ほどありそうな大きな扉、というか、門のようなドアを開け、中に入るとそこには思ったよりも古めな教室の姿。長机が数列に渡って配置してあり、おそらく四十人ほどが座れそうな数だろう。クラス表には三十人ほどだった気がするが。


「よし、到着ね! 私はさっきの場所に戻ってるから、適当にすわっててねー。それじゃ!」


 相変わらず元気に去ってゆくグリア先生。ミディアもそれに「ばいばーい」なんて言って手を振っているが、初日からあんなに飛ばして大丈夫なのだろうか。


 俺が心配できることでもないけど。


 そして俺たちは各々、思い思いの席に座り(結局全員固まったが)ミディアとジャスミンは相変わらず雑談をし、俺は朝からの疲労を取るように机に突っ伏した。

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