第13話 食堂とこわいひと
あぁ、胃が痛い。どうして朝ごはんをまだ食べてもいないのにこんなに胃が痛いのでしょう。仮にも俺、まだ六歳だよ? なんでストレス性の胃痛とか発症してんだろ。
あ、真理では六歳でストレス性の胃痛は世界新記録だって。賢者タイムに引き続き世界記録更新やったね!(嬉しくない)
なんか魔法かなんかでぴゅんって直せねぇかな。それこそ学園長のヒールみたいに。でも直したとしても今は無理か。ばれちゃう。
「なんか、きんちょうするね。エイド」
なんて言いながら後ろでお腹を抱えている俺としれっと手をつなごうとしているミディア。あの時の雪辱、おれはまだ忘れてないか——いてぇ。『胃』が、『い』てぇ。なんちゃって。
……忘れてください。
それにしても六歳のおじいちゃんとそれを引っ張る女児、という構図が自然とできてしまった。最悪だ。
「あ、あそこに並ぶようですわね! 行きましょう!」
「う、うん!」
珍しく緊張しているミディアを尻目に、ジャスミンはさすが貴族というべきか、人が多いところには慣れているようで少しテンションが上がっている。やはり学園生活の始まりを感じると誰でも興奮するよなぁ。
でもジャスミンさん。走らないで、欲しいんです。それに釣られたミディアが一緒に走ってしまって、手をつながれている俺まで走らなきゃいけなくなるんです。
なんて届いているわけもない俺の独り言は心に留め、胃に激痛が走る中、俺も全力疾走していた。
※
あらおいしい。
これが食堂の第一印象だ。
あれから全力ダッシュされて並んだまであった、と思うほどにはかなり美味しかった。修道院での食事も温もりを感じられて嫌いではなかったが、ここの食堂はなんというか、貴族が食べてそうだなぁーって感じのおいしいごはんだった。
まぁ、それもほとんどが貴族のこの学校では当然っちゃ当然か。まぁ、非常においしそうな顔で食べているミディアを見れたから良しとしよう。
そしてしばらく食べ続けること数分。ミディアは俺のよりも多く、プレートにおかずを乗せてもらっていた気がしていたのだが、何度かミディアが食い意地を張って俺の魚やらなんやらを搔っ攫っていった。まぁ、そこそこ腹を満たせたから無罪としよう。
「じゃあそろそろ行きましょうか! ミディアさん! エイド君!」
一番最後に食べ終わったはずのジャスミンがなぜかここぞとばかりに仕切りだしたが、今この状況下では致し方ない。なぜなら俺とミディアにはデバフが掛かっていて、ジャスミンにはバフが掛かっているのだから。
俺とミディア、というか、ついさっきバフデバフの話をし始めたばかりだが、ミディアはすでにデバフがなくなりつつある。というのも、ジャスミンの横に立ち、いつ戻りに近い状態でいられている。適応はやぁ。
俺も早く慣れなくちゃな、なんて思いつつも食材が乗っていたプレートを直す。
「じゃあ、ついにー?」とジャスミン。
「ついにー!!」とジャスミンのノリに乗っているのがミディア。
「「学校へしゅっぱーつ!!!!」」と二人は声を合わせて元気に俺の手を引いて全力ダッシュする。朝食のおかげか、胃痛も幾分よくなった。しかし、今度は胃の中のものが出てきそうだ。
そんな俺に二人は構うわけもなく。どんどんスピードを上げてダッシュしてゆく。
しかし、このスピードにも体が慣れてきた気がする。走るコツ的なのもわかったし。コツは存分に引っ張られながら走るんじゃなくってすこしジャンプすることで——。
「ぼがぁっ!」
「…………ん?」
いったぁ。ミディアが急停止したせいで遠心力的な何かでぶっ飛ばされた。そこまでは何とかよかったかもしれないけど、ぶっ飛んだ先で誰かにぶつかってしまった。
「す、すいません!」
俺は咄嗟に離れて痛む鼻を押さえながら上を見る。するとそこには確かにお兄さんがいた。かなり、かーなり不愛想で、イケメンだけど怖い顔のお兄さんが。
「ひ、ひぃ」
紺色の髪の毛が目にかかっているが、髪の間に見えるお兄さんの瞳は睨むように目を細めている。
「…………君、平民? それとも、貴族?」
「え……あ、へ、平民です」
「…………そうか。入学おめでとう、これからよろしくね」
軽く背を屈めて、慣れていなさそうな笑顔を浮かべながら俺の手を握手してくるお兄さん。
「あ、え、ど、どうも……」
「それじゃあ」
お兄さんは颯爽とマントを靡かせて食堂に入っていった。なんだったんだ……?
…………まぁ、よくわかんないけどなんかいい人で良かったぁー。
少し先から固まってみていたジャスミンとミディア。お兄さんが歩き始めたのを確認して「じゃあいこっか!」なんて言っている。
俺のこと少しくらいは心配してくれ。と、思いながらも、気の休まらない初日はまだ朝なのを思い出し、憂鬱になる俺だった。
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