第12話 暴力的すぎる天使は考えない


 待つこと数分。ガチャリ、という鍵が開く音と共に真新しい制服に身を包んだ二人が出てきた。


 先ほどの先住民族の姫はどこへやら。真新しい制服に身を包んだその姿はまるで天使が寄越した使者のようで。


 俺が神からの使者だとすれば、ミディアは天使が寄越した使者だろう。ただただ、かわいい。


「ふぃー、大変だったぁ!」


 なんて言ってるのは一番大変だっただろうジャスミンでは無く、おそらく着せ替え人形状態だったであろうミディアだ。


「……なんでミディアが大変だったんだよ……。それとジャスミンさんありがとうございます」


「あぁ、い、いえ……」


 クマがさらに黒さを増している気がしたが、多分光の関係かな。うん。大変なこと任せてごめんね、ジャスミンさん。



 時間は朝の七時半。色々やっていた割には早い時間だ。


「あ、そういえばジャスミンさんはどこに行こうとしていたんですか?」


「あ、あぁ、私は食堂に行こうと思ってたんです」


 あぁ、そういえば昨日先生に説明の中に食堂の時間とかもあったなぁ。すっかり忘れてたけど。


「そういえば、なんでジャスミンちゃんは寮に入ってるのー?」


 あたまがよわよわなミディアすると、珍しく頭が回っている。確かに、先生は『魔法学校に通えない生徒や、貧しい生徒が寮を使う』って言っていた。曲がりなりにも国随一の貴族、エスティア家のご息女。エスティア家もこの学園の周りの都市に住める家がないとは思えない。


「あ、それは……お父様や、エスティア家から離れたかったから、です」


 意外な言葉に俺とミディアはその言葉に驚きながらも、ジャスミンの表情に曇りがかっていることに気が行った。


「えぇ、なんで? すぐ暴力ふるって全ての人のこと下に見てそうな人でもジャスミンちゃんには優しそうだったじゃん?」


 ジャスミンを許してもしっかりと本人には怨念残す我が幼馴染。なんとも思ってないと思っていたが、意外とちゃっかりしてる。


 しかし…………言われてみればなんとなく寮にはいった理由も理解できる気がするが……。


「……まぁ、その、大体ミディアさんの……言う通り……です」


 うん、いざってなると気まずい。すごく。


「やっぱりそーなのか! ジャスミンちゃんも大変だったんだね!」


「……まぁ、はい……」


 ミディアはジャスミンの肩をポンポンと慰めるように軽く叩く。「あ、どうも」なんていいながらジャスミンも慰めを軽ーく受け取っている。


 だけど、大体って言ってるから、それだけじゃないんだろうけど。貴族って大変だなぁ。(一応俺なんだけどね)


「よし。それじゃあ食堂行こうか」


 と、慰めている? ミディアと、慰められているジャスミンに声をかける。二人は一度顔を合わせて頷きあう。


「行こう!」と元気にミディア。


「行きましょう」とお淑やかさを感じさせるのがジャスミン。


 二人の返事は、本格的に学校が始まったことを告げているようだった。



 魔法学園プリスティア。その広大な敷地は王都の四分の一を占める。もはや、一つの町として機能している。


 そしてその広大な敷地にはいくつかの施設がある。まず、プリスティアの顔となっている巨大な本校舎。大昔の名工が集まり建てたという本校舎は、一目見れば脳に焼き付くほどの建築物で、芸術作品としても名高いという。


 そして、各区画に散りばめられた食堂や、ロンド寮。それに魔術訓練所や闘技場。その他さまざまな区画があり、学生たちを飽きさせることはない。


 それに、都市外の魔窟の森に面しているこのプリスティアは魔獣などから危険を守る一つの砦と化している。それ故に、対人戦闘だけではなく、魔獣との戦闘も学生のうちに授業の一環として経験するために、高級魔術師として卒業してからすれば、学歴はもちろん、実力にも箔が付く。


 その中でも実力に富む者は国お抱えの魔術師に推薦されたり、冒険者となって巨万の富を得たりしているらしい。


 しかし、まだ、俺たちは六歳。まだ、そんなことを考える年齢でもない。今は、今だけはのんびりしよう。と、思っていた矢先——。


「……で、なんですか? あなたたち」


 目の前でガキんちょ三人組が俺たちの行く先を通せんぼしている。一人は赤髪の短髪にほかの二人は黒髪の至って普通な感じ。赤髪が先頭を引っ張っているような感じで後ろを二人がそれに付き従っている。見るからに赤髪が親分的な感じか。


「へっ! お前らには関係ねーよ!」


 などと吐き捨てるように赤髪が言うと、それに後ろの二人も続く。しかし、この三人組、俺とミディアだけに言ってるような気がするのだが。


「それはそうと、エスティア様、おはようございます。なぜそんな位の低い者たちと一緒にいらっしゃるのです?」


 などと、数秒前のことがなかったかのようにジャスミンに話しかける赤髪。


 あぁ、やはり俺の予想があっているみたいだ。右横を見ると、ジャスミンはなんとも言えない苦笑いを浮かべている。さすがのジャスミンも対応に困っているのだろう。


「良ければ私と——ぼがぁっふぁ!?!?」


 さてどうしよう……って、え?


「何よあなたたち! いきなり変なこと言ってとおせんぼして!! 何がしたいの!?」


「え、え、えぇ? えぇ?」


 なんて言って驚いているのはミディアに殴られて吹っ飛んだ赤髪。決して俺ではない。


「何よ!?」


 なんて倒れている赤髪にさらなる圧をかけるミディア。


「うぅ、あぁ、お、親父にもぶたれたことないのにぃぃぃぃぃーーーーー!!!!」


 そう言って立ち上がり駆けだす赤髪。それにつられて黒髪二人も全力ダッシュで逃げてゆく。

 

 そして、脳を過る退学の二文字。先ほど告げたはずの俺の学園生活。


 …………早速終わりを告げるファンファーレが聞こえてきた気がした。

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