第11話 仲直りと先住民族の姫
「……ども」
まさかことで会うことになるとは思っていなかったが、昨日の今日だ。なんだか反応に困る。
「……あっ、おはよぉ!! って、なんでそんなに驚いてるの? ジャスミンちゃん」
ミディアは全くそんなことはなかったようだ。
「あっ、えっ、いやっ、えぇ!? あぁ、え? これは……いわゆる朝チュン……朝帰りってやつですか? あなたたち早くないですか? え?」
ジャスミンもジャスミンでやはり気にしているのか、昨日の勢いこそないが、やはり好奇心には勝てないといった様子で問い正してくる。てか、なんでその年で朝チュンと朝帰り知ってるんだ。
「あさがえり……? あさちゅん……? うーんと、昨日の夜ここに来たんだよ? それと、朝に鳥さんがちゅんちゅん鳴いてるのがどうしたの……?」
幸いにもミディアのよわよわな頭の辞書に単語が引っかかることなく、「何言ってるの?」みたいな反応をしている。バカで助かった。
「ジャスミンさん。僕たちは兄妹ですよ。たまには一緒に寝ることもあります」
「そ、そうですか、そうですよね、『きょうだい』だったら……」
昨日のことがあってなのか、それとも何か考えているのか、太陽がまぶしいはずなのに少しどんよりとした雰囲気で答えるジャスミン。
「まぁ、そういうことなんです。ほらミディア行くよ」
行くよ、と言ってもすぐ隣の部屋なのだが、変に難しい言葉を使ってミディアのよわよわ辞書に引っかからなかったら余計に面倒だ。ミディアの背中を押して進ませようとしたその時。
「あっ、あの!」
やけに大きな声を出すミディア。俺とミディアは同じタイミングで体をビクリと震わせた。
「な、なんですかジャスミンさん。もう用は済んだでしょう?」
先ほどと変わらず暗くてジメジメしてそうな空気を纏い、手をひっきりなしにもじもじとさせている。
「あっ、あの、そのっ、昨日は本当にごめんなさいっ!」
そういって腰を直角に下げるジャスミン。勢いで髪がすべて前に行ってうなじが丸見えになっている。
「……えっ、え?」
なんて驚いているのはミディア。俺は対して動じることなく、ジャスミンの動向を見守る。
「昨日は、私のお父さんが、いきなりミディアさんを殴ってしまって本当にごめんなさいでした!! 言い訳にしか聞こえないかもしれないかもですけど、お父さんには逆らえなくて、だから止められなくて……元はと言えば私が最初に話しかけたのに……本当に、本当にごめんなさいっ!!」
ぽけーっとしているミディアに、あくまで無表情を貫く俺。最初はやはりというべきか、ミディアが口を開いた。
「えっ、えっ! ぜ、全然大丈夫だよ!? 私、体強いし、ほら、もう傷も無くなってるし!」
それは学園長のおかげだ、なんて言葉は今必要ないだろう。ミディアなりに考えたんだ。俺からあえて何かを言うことはない。
「それにね! ジャスミンちゃん!」
ぴょんぴょんと飛んでいきそうなテンションでジャスミンの手を掴み、これでもかと体を近づける。
「ジャスミンちゃんが止めようとしたことは知ってるし、ジャスミンちゃんが私を殴ったわけでもないでしょ? それにそれにこうやって謝りに来てくれた!」
ニコリッと重苦しい雰囲気を吹き飛ばすような笑みを浮かべ、ジャスミンの腕をグイっと引っ張る。
「だからゆるしてあげるっ! ね! これは仲直りの証!」
力強く、しかし優しさのある抱擁をするミディア。一瞬呆気を取られていたジャスミンも、目を潤ませて手をミディアの背中に回す。
「……ありがとう、ございます……!」
美少女二人が涙を浮かべながら抱擁しあうこの状況。とうとひ。すっごく尊いです。
でも、間に挟まれてぇ、なんて思ったことは俺の心の中だけの秘密だ。
※
「急げーミディアーどんだけ時間かかってんだー」
俺はミディアの部屋をノックしながら声を出す。ジャスミンは先ほどの暗い雰囲気は無くなり、初めて話した時のような明るい雰囲気に戻っている。しかし、明るい雰囲気に戻ったせいか、先ほどまでわからなかった目の下のくまが見えた。ジャスミンはジャスミンできっと悩んでいたのだろう。
しかしそれにしても。
「おーい、本当に。俺と同じタイミングで着替えに戻ったよなー? 俺はまだしもジャスミンさんをどれだけ待たせるつもりだー?」
ジャスミンは「き、気にしないでください!」なんて言ってるが、そうも言ってられない。先ほどから絶え間なくばたばたと忙しそうな音が鳴るが、一向に出てくる気配はない。
「はぁ、もう入るぞー」
「はいっできたぁぁぁぁぁ!!!」
「どごぉぁっ!!」
勢いよくドアを開けたせいで、前に立った俺を薙ぎ倒して出てきたミディア。
「…………なんで倒れてるの? 大丈夫?」
なんてことを言っている。本気かこの馬鹿。だが、ミディアの格好を見て、それらも一瞬で霞んだ。
「あんだけ時間があったのに、なんだその制服」
ジャスミンとミディアの制服を比べる。本来の着方であろうジャスミンの制服は、黒い膝丈のスカートはお腹あたりまであり、そこから両肩に伸びる肩掛けショルダー。その内側に純白のシャツ。その上に軽やかなマントを羽織っていて、マントのおかげですこし魔法使いっぽさが出ていた。
だがしかし。うちの幼馴染はというと、両肩にあるはずのショルダーは前後にあり、前のショルダーは首に掛け、後ろのショルダーは尻尾のようにだらりと後ろに垂れ下がっている。
そして極めつけはマントだ。軽やかなそのマントは足りない魔法使い感を足す役割を担っているハズなのに、頭につけているせいでどこぞの先住民族のようになっている。
「……えぇ?」
「……すごく、個性的な着こなし方、ですね……えぇ」
ほら、さすがのジャスミンもドン引きしてるじゃないか。俺も恥ずかしいわ。
「…………だってこれ、むずかしいもん」
唇を尖らせてフンっ、と顔を逸らすミディア。横顔も綺麗だけど、今だけは先住民族の姫みたいだよ。
「すいませんジャスミンさん。うちの
「だっ、誰がばかよ!! エイド!」
なんて叫んでいるが、先住民族の姫の言葉、今だけは伝わりませんので。
「あ、えぇ、も、もちろんです!」
当然のごとくジャスミンもその言葉を無視してミディアを部屋に戻しこむ。
「じゃあ、ぱっと終わらせてきます……」
そういってジャスミンは暴れるミディアと共に部屋へと入っていった。
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