第9話 寮
「ここが魔法学園プリスティアの寮、ロンド寮よ」
連立している校舎の外れ、学園内にはあるが、一区画違う場所にロンド寮は建っていた。
並行に連立しているいくつもの歴史を感じさせるレンガ造りの建物。およそ五階建てくらいだろうか。ところどころ部屋の明かりが灯っている。
「ここは、おおよそ階級に分かれて建っていて、左から前三つが高級魔術師が住む第一寮群、真ん中の左右にある五つが中級魔術師が住む第二寮群、そして、右側のこの二つの建物があなたたち、初級魔術師が住む第三寮群よ。大丈夫かしら?」
まるで幼児に説明をするように、身振り手振りを大きく使って説明をするダリア先生。それにうんうんと幼児らしい良い反応を返すミディア。なんだ、俺までちびっこみたいじゃないか。
......俺もしっかりちびっ子だった。
「うんっ!!」
「はい、でも先生。生徒全員が入ったら、この寮じゃ足りないんじゃ……?」
ふとした疑問を口にすると顔色を変えることなくグリア先生が答える。
「あぁ、それは大丈夫よ! 生徒全員が寮に入るわけではないの。ミディアちゃんやエイド君のような平民だったり、通える距離にない辺境の貴族だったり、そういう子が寮に入るの。だから、見ての通りかなり空いてるの。疑問はなくなったかしら?」
「あ、それともう一ついいですか?」
「はい、エイド君」
「寮は男女で分けられていないんですか?」
俺の質問に、へえ、と感嘆の声を上げる。
「まだちっちゃいのに、意外とそんなところを気にするのね、エイド君。もしかして、他の子より成長が速かったりするのかしら?」
……脳内の情報量だけは賢者です。なんて言えるはずもなく。
「見ての通り、どちらかと言えば遅い方ですよ」
と、隣にいるミディアとの身長差をアピールする。だが、それに乗じて誇らしそうに「フンっ!」と鼻を鳴らすミディア。見てろミディア。今だけだぞ……負けてるのは……っ!!
「そういうことではないんだけど。まぁ、六歳児には野暮な質問でしたね。で、男女の区別ですが、そもそも一人一つの個室で、セキュリティも一室一室万全なので、男女の区別はありません」
「へえー、そういうことなんですね、ありがとうございます」
いえいえー、と笑顔で返事を返し、明日からの学校の話など、少し説明をして先生は去っていった。
残された俺とミディアは、さっそく黒い箱に書かれた番号の部屋へと向かう。俺は【203】号室。ミディアは【204】号室。きっと寮の希望者に部屋の順番で渡しているだけなのだろう。俺とミディアは連番だし。
辺りはもう完全に闇夜一色に染まっていて、街灯だけでは心細い。それに、寒さも増してきている。俺とミディアは体が冷えないうちに寮に入ることにした。
※
建物の真ん中にある階段を上り、部屋がある二階へと歩いて行く。階段を上っていくと、右と左に廊下が伸びていた。右の壁を見ると、【201】~【210】の文字。左の壁を見ると、同じように【211】~【220】の文字。
俺とミディアは自分の部屋があるであろう右の廊下を突き進む。階段側の【210】号室から順に過ぎて行き、ミディアの【204】号室に着き、数歩先の【203】号室の俺の部屋への前へ到着する。
「じゃあ、ここでお別れだな。おやすみミディア」
「う、うんっ! おやすみエイド!」
どこか表情の暗いミディアを尻目に俺はやけにハイテクな鍵を開け、部屋へと入った。
※
「おぉ……」
部屋に入ると、すぐの右隣にドアが一つとまっすぐな廊下の突き当りにドアが一つ。
まず、右隣の部屋へと入るとトイレとお風呂があり、お風呂はそこそこ広かった。
そして、その部屋を出て、短い廊下の突き当りへと進みドアを開けると四方が白い壁のそこそこな広さの部屋が現れた。
おいてある家具はベットと簡易キッチン。本当に最低限生活するのに必要な物だけが揃っていた。おおよそ他は自分でそろえてください、といった感じだろう。ま、決定的に生活に困るものがないわけでもないし、こんなものだろう。
俺は早速簡単にまとめていた荷物をカバンから出し、せっせと整理をしてゆく。
服や生活用品。孤児院から引っ越してきた俺にはそこまでの荷物はない。
荷物の整理も終わり、シスターから作ってもらったご飯を腹に入れて時間を見れば、もういつもなら寝ている時間。色々なことがあったせいか、時間の進みが速いような気がする。
忙しいな、なんて思いながらも歯磨きと風呂を済ませ、電気を消してふかふかのベットへと潜り込んだ。
※
「すぐ眠れると思ったんだけど」
いつもなら寝付きは良いはずなんだけど、今日ばかりはどうにも寝付けない。布団は快適だし、特に不満もない。だけど、それがかえって今の俺には少し心地が悪い。
孤児院ではよくみんなで雑魚寝してたなぁ。なんて、まだ一日も経ってないのにどこか懐かしく感じるシスターの孤児院。
そんなことを考えながら、冴えた目で真っ暗な天井を見つめていた時。
コンコン。
と、控えめに部屋のドアがノックされた。誰だろうか。
覚えのない来訪者に俺は一瞬出るか迷ったが、特段眠いわけでもないし、もし大切な用事がある人ならばいけないと思い布団から出る。
電気をつけて、玄関に行ってドアを開けると、そこには月明りに綺麗なブロンドの髪を照らされた俺の幼馴染、ミディアの姿が。
いつもの元気はどこへやら、妙にもじもじしている。そして、下を向きながら、小さな声でミディアは言った。
「…………エイド、ねむれないから、いっしょに寝よ?」
と。
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