第7話 資格


「えぇ、知らんの? 儂のこと全く知らんの? え?」


 確かに言われてみればそれっぽいフォルムだし、さっき俺とあのじじいの魔法を止めたのも多分、このおじいさんだ。


 マジか……俺、いきなり退学とかになったりしないよな……?


「儂、まだ学園長感たりないかのぉ? めんどくさいけど全部白髪に染めて、くっそ乾かすの大変だけど長髪にしてみたりしたんじゃが。もうダメかなこりゃ」


 とかなんとか言いながら、段々と雰囲気が暗くなっていく自称学園長。退学を防ぐためにも機嫌は取っておかないと。


「いやぁ、あの、そのー、いい感じですよ? どこかの魔法学校のドパクリな感じは全く隠しきれてないですけど、そのせいもあって、いい感じですよ?」


「ど、ドパクリ。そうか、そうか、もうええわ」


先ほどよりももっと暗くなったようにさえ感じる自称学園長の雰囲気。まずいまずい。


「いや、本当に——」


「まぁ、茶番はここまでにしとこう」


 俺の言葉を遮るように自称学園長は言葉を紡ぎ始める。


「エイド。エイド・ルイフェン。ルイフェン孤児院に赤子の頃保護され、以後そこで育てられる。三日前に誕生日を迎え、自分に魔力適性があることに気が付き、同じく魔法適正のあった、ミディア・ルイフェンと共に我が、プリスティア学園に入学試験を受けに来た。間違いないな?」


「えっ、あ、はい」


 なんだこの人。たとえ本物の学園長だったとしても、さっき入学試験を合格したばかりの俺の名前を憶えているか? 普通。


「エイド、一つ問おう」


「は、はい」


 異様な空気感。窒息しないぎりぎりの強さで首を絞められているかのような苦しさ。


「お主、儂が止めんかったら、あの魔法をどうするつもりだった」


「…………っ!」


「やはりそうじゃろう。何も考えていない。詠唱の途中で無効化したからよかった物の、あのレベルの魔法があそこで発動されれば、エスティアどころか、それ以外の人にももしかしたら君は選ばれしものなのかもしれぬ。さっきも、もしかすればエスティアに打ち勝っていたかもしれん。じゃけどな」


 さらに強い有無を言わせぬ威圧感。


「自分のことしか考えられんものに魔法を使う資格などない。少なくとも儂はそう思うがのう」


「…………その、通りだと、思います」


「……しかし、お主はまだ六歳。まだまだじゃ。これから頭が体に追いつくようになれば良い。それまで儂が、この学園を代表する学園長の儂が、お主が卒業するまで責任をもって面倒を見てやろう」


「…………はい。よろしく、お願いします」


 俺は、今。自分がこの学園に通う必要性を改めて再認識することになった。




 学園長と俺はミディアを休ませるために、医務室へと向かっている。


「それにしてもエイド。もし、儂が止めなかったら、ミディアもろとも全部吹き飛んでおったぞ? 全く、生きのいい若者は嫌いではないが、あれはやりすぎじゃ」


「すいませんでした……」


「それに、儂が発動前に消していたからよかった物の、あのまま発動しておれば、お主の正体は一瞬でばれておったぞ?」


「俺の……正体……え? なんで、それを」


「ふぉっ、ふぉっ。なんでじゃろうな。まぁ、それはそうとして、いきなり目立つのは得策じゃないことはわかっているじゃろ?」


「まぁ、一応……遅い気もしますが」


「それもそうじゃな。じゃが、それは今更どうしようもない」


「そうですね……それと今更というと、僕って、もしかして退学になったりします……?」


「うーん。まぁ、ギリセーフじゃ」


 よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。


 安堵からか、冷たかった俺の胸の内がぽうっと温まった気がした。


「ほら、もう着いたぞ。ミディアが起きるまでそこのベットを使うと良い。それじゃあのぉ」


 従者らしき人に担がれていたミディアは、医務室の中のベットに丁寧に寝かせられる。


「学園長……ありがとうございましたっ!」


 俺は精一杯の誠意を込めるつもりで頭を下げる。


「色々大変じゃと思うが……頑張ってくれな」


 学園長はどこか物悲しげな雰囲気で俺にそう伝えて、去っていった。

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