第5話 伝説の友人②
「へ? 四つも持ってるの? ジャスミンちゃんすごいね!」
絶対に四つも魔法適性を持っている人のすごさを知らない頭よわよわな俺の幼馴染。朝食がちょっと豪華だった時くらいのすごさとしか思ってないだろうきっと。
「で、でしょう!! 私、すごいんですよ!」
ムフンっ! と胸を張るジャスミン。無い胸もここまで張れば少しはふくらみが確認できる。本当に残念なふくらみが。
「ミディア、俺たちもさっさとめんどくさそうな手続き終わらせよう」
先ほどのジャスミンの様子を見ていたらそこまでめんどくさくはなさそうだったのだが、それも一人分ならの話。
「うん、そーだね。私、何もしないけど」
「うん、知ってた」
いつの間にかできていた関係。体力面では俺はミディアに支えられ、頭脳面では俺がすべてを任せられる暗黙の了解。
それにしても、今考えると魔力を授かり神の使いになる前の俺より頭がよわよわだったのを考えると、もはや同情をしてしまうレベルだ。
「があっ!! ったい! 痛いよミディア!」
唐突に後頭部を平手打ちをしてくるミディア。
「絶対なんか変なこと考えてた」
半ば睨むような、そんな殺気が籠った視線を俺に送ってくる。齢六歳にして視線に殺気を込めるか。やるじゃないか。
とりあえずほめてやるからやめてくれ。今にもちびりそうなんだよ。自慢じゃないけど、体は六歳なんだ。
「ごめんって」
と言うと、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向くミディア。さっさと終わらせてしまおう。
先ほど試験場で試験官からもらった紙二枚を渡し、それに受付のおばさんは目を通してゆく。
まずは、ミディアの紙。何の問題もなく、クリップで止められた数枚の紙をペンと一緒に渡される。そして、俺の紙になった途端、受付のおばさんは目をぱちくりとさせ、紙と俺への視線を交互に向ける。
さっきのナイスバディお姉さんと全く同じ反応じゃないですかグラマー。
「えーと、エイド君。間違いではないんですよね? 適性のある魔法属性が『火』と『水』というのは」
「そう、みたいです」
「…………本当に?」
「…………そうなんですよ」
えぇー、マジかよ、みたいな若い反応ありがとうございます。ギャップ萌え、全くしませんびっくりです。
「…………なんか、これから大変そうねぇ。がんばってねぇ」
終わった人を見つめるような、慈悲深い目で俺を見ながら先ほどと同じように、クリップにまとめた数枚の紙をペンと共に渡してくる。
もしかして、これから僕、死にます?
俺はそんなことを考えながら、二人分の書類にペンを走らせる。
これなにー? なんて少ない読解力を使いながらちょこちょこ書類を覗き見るミディア。綺麗な横顔が真横にあると緊張してペンがぶれるぶれる。『ー』が『~』になるレベルでぶれる。
「これは適性のある属性をかく場所で——」
なんて雑談を交えながら話している内に割とすぐ書き終わった。
書き終わった書類をおばさんに渡して、しばらくすると先ほどのジャスミンのように数枚の紙と箱を二つ渡された。
俺はおばさんに一礼し、それにつられてミディアも一礼していた。いい子いい子。
踵を返すと、そこにはジャスミンと、じゃらついた宝石や、一目でわかるほど高級そうな衣服を着た大きな男の人がいた。男はジャスミンの肩に手を乗せているが、当のジャスミンは先ほどの威勢はどこへやら、とても緊張した面持ちでいる。
ジャスミンのお父さんだろうか、見上げるほどに大きな巨漢は、鋭い目つきをしていて、視界に映るもの全てが敵に映っているのかと思えるほどだった。
あー、はいはい。絶対関わっちゃいけないタイプの人だ。
すぐにそう察した俺は、ジャスミンと距離を取ろうとあらぬ方を見ながら真逆の方向へと歩いて行く。べ、別にビビってはいないけど? 戦略的撤退ってやつ???
しかし、この場には戦略的撤退を知らない
「ねぇねぇジャスミンちゃん! 私も終わっ——」
ばちんっ。
場が一瞬で静まり返るほどに強い頬を叩く音。あらぬ方向を向いていた俺は、すぐさま振り返る。
そこには、真っ赤な頬を押さえながら地面に這っているミディアと、振り終わった手をハンカチで拭う巨漢の男。
「ちょ、ちょっと、お父様っ」
「何だジャスミン。俺の行動に何か問題でも? 平民の一人如き叩いても何の問題もなかろう? それともなんだ、俺の行動に意見があるとでも?」
圧のある物言いに、一瞬出たジャスミンもすぐにおとなしくなる。
「ふんっ、平民如きが。しゃしゃり出てくるな」
まるでごみを見るかのような目で倒れて動かなくなったミディアを一瞥する。
「おい」
自分でもびっくりするほど底冷えした声が出た。でも、今はそんなことどうだっていい。
「何俺の幼馴染に手ぇ出してんだくそ野郎」
今は兄妹であり、幼馴染のミディアが殴られたことが問題だ。
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