第3話 やっちった

 

 お姉さんはほかの試験官らしき人たちに用紙を見せながら時折、俺のことをちらちらと見ている。


 俺はただ、二属性しか持てないなら何かと便利な高火力ブッパできるらしい火と水を選んだだけなんだけども。


ミディアなら何か知ってるかもしれない。賢者タイムに入った俺が頼るべき相手ではないが、ここは非常時だ。俺の斜め右に位置しているミディアをちらりと見る。


ミディアもこちらを見ていたようで目が合ったが、能天気そうに笑顔でこちらを見ているだけだった。まぁ、そうだねよね。知ってた。


 予想通り期待外れだった幼馴染を視界から外し、まだ数人集まってこそこそしている試験官たちを見る。


 しばらくすると、一番偉そうな小太りで薄毛のおじさんが俺に近寄って、俺の目線に合わせるように腰を下ろす。思ったよりも近いおじさんの距離に後ろがつっかえているため下がることもできず、脂汗で輝いているおじさんの顔面と見つめあう。


 ……今からでも入れる保険ってありますかね?


「えーと、君、名前は?」


「え、エイド・ルイフェンです」


「エイド君、か。エイド君の持っている魔法属性を教えてくれるかな?」


 距離感の詰め方や顔的に、圧でごり押ししてきそうだと思ったが思ったよりも丁寧だ。残念ながらすごくきもいのには変わりないけど。


「火と……水です」


「っっっ!? …………そんなわけ……あり得るのか……?」


 驚くような、思い悩むような難しい表情を浮かべるおじさん。


 周りも騒然とした雰囲気でなんだかここに居づらい。再びミディアを見るが、こちらは相変わらず呆けた顔でぼーっとしている。うん、なんか平常心取り戻した。


「なんか、ざわざわしてますけど、どうしたんですか……?」


「あぁ……私たちも今何が起こっているのかさっぱりなんだ。ただただ、わからない。でも、言えることがあるとするならただ一つ。光と闇、火と水といったを持つことは普通ありえないんだ。対比する魔力は体の中で存在することがそもそもできないからね」


 …………初耳なんだけど。てか、なんなら俺、全属性持ってるんですけど。俺死ぬの? もしかして。


「三属性の魔法適正があっても、伝説とされている四属性を持っていた、かの勇者ですら対極の属性を持つことはなかったんだよ。」


「そ、そうなんですね。な、なんかすいません」


 最悪だ。目立つつもりは全くなかったのに……周りの視線が痛い。


 刺されるような視線に、ただでさえ小さな俺の体がさらに縮こまっていく。そんな俺を不思議そうに見るおじさん。


「? 何はともあれエイド君。試験は合格だ。改めて我が魔法学園プリスティアへようこそ。くれぐれも体内で魔力が爆発してしまわないようにね。これからの入学手続きはあっちの方へ」


 そういって、ミディアがいる場所のさらに先を指さす。って、そんなことよりもナチュラルに脅すのやめてくれよおじさん。


「今年は四属性持ちも出たし……イレギュラーが多い。はぁ、まったく大変な年になるぞこれは……」


 おじさんは脂汗を拭いながら何か言っていたがあまり聞こえなかった。まぁ、気にしなくてもきっと大丈夫だろう。


 ミディアの方を向くと、中庭を見下ろすような壮大な建物が視界に入る。この建物はこの国の指定保護物でもある、魔法学園プリスティアの本館だ。


 優雅さと荘厳さを兼ね備えた建築物を初めて見て、息を飲まないものはいない。かくいう俺も例に漏れず息を飲む。隣を見るとさすがのミディアも立ち止まって首がもげそうなほど本館の頂上を見上げていた。


「ミディア、行こう」


 魂を本館に吸い取られそうになっている幼馴染の意識を引きずり戻す。


「あ、ごめん。いこっか!」


「うん」


 巨大な本館らしい少しちっちゃめな巨人でも快適に出入りできるような入口を目指す。そして、そこを向かう途中には中庭の芝生が綺麗に切りそろえられていると気づくぐらいには周りの人も減っていた。


 相変わらず後ろの試験をしている場所は大盛況のようだが。


 まぁ、ちょっとだけ入学デビューは失敗しちゃったけど、まだまだ俺の学園生活は始まったばかりなんだ!!


 …………なんか、俺の物語が今すぐ終わりそうな予感がした。(しない)

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