第2話 試験
大盛況というべきなのか、大混雑と表現するべきなのか、魔法学園プリスティアの中庭は入学試験を受けに来たのだろう子供たちがわんさか集まっていた。もちろん俺ともミディアもその一人。
ちっこいガキどもや(自分も含め)その連れの親だったり、如何にもな恰好をしたメイドさんなど、様々な人が見れてなかなか面白い。しかし、こんなにも大人数の中に来たのは初めてだから、なんだか気持ち悪くなってきた。
そんな中、時折、「おぉっ!」という歓声が波のように伝わってくるが、俺の幼馴染のミディアはそんなことも物ともせず人混みを突き進んでゆく。
ここでミディアにおいていかれてはたまったもんじゃない。俺はなんとかミディアの後ろにしがみついて人混みを進んでゆく。
こういう時は男が進んで道を拓けだって? そんなテンプレ出されても俺はガン無視するぞ。神様公認の体の弱さ舐めるなよ。
しかし、後ろに着くと言っても。
「み、ミディアぁ、もうちょっとゆっくり行ってくれないか?」
「なんでー?」
「体力が、持たない」
速い。この幼馴染、体だけは馬鹿みたいに強い。
「ん-ーもーー!」
なんて腰に手を当てながらこちらを向いたミディアと、俺が下を向いて歩いていたせいで正面衝突してしまう。いい匂い、なんて思ったのも束の間、体は少しミディアの方が少し大きいため、俺が一方的に抱擁されるような形になってしまう。
「もー。エイドは昔っから遅いんだからー。ほら、手つないで」
「う、うん」
言われるがままに手をつなぐと、先ほどの反省を生かしてか、手と手の間にハンカチを挟まれました。べっ、別に手汗やばいやつ認定されたことにショックなんか受けてないですが何か?(震え声)
※
「ここに並ぶんだってエイド! 見てみて、すごいいっぱい並んでるよ!」
少し盛り上がった庭の中央、丘のような場所の頂点に並べられた五つの長机。その長机にはそれぞれの七つの魔法属性の色をした水晶玉が並べられている。
「ほんとだね……ここにいるほぼ全員がこの学校に入学するのか、すごいね」
「だねぇ!」
横にいるミディアは人数が多ければ多いほど嬉しい、と言わんばかりにルビーのような瞳をさらに輝かせ、あたりをぴょんぴょん飛びながら見渡している。
綺麗に切りそろえられたブロンドのショートボブがふわふわと宙に舞っている。
なんともかわいらしい光景だけれども、つい最近まで純粋な一人称僕系六歳児だった俺にとっては眩しい景色だ。すでにうらやましく感じるのは賢者並みの知識と歳のせいだろうか。
あ、いや、一応俺も六歳なんだけれど。
※
「あとすっこし! あとすっこし!」
意外と早く順番が回ってきたもので、並び始めてから一時間も経たずに入学検査を受けられるようだ。こんな人混みの中にこれ以上いたら気持ち悪くて朝ごはん戻しちゃう。
一つ前の人の検査が終わり、次は俺とミディアの番になった。俺とミディアを見ても特に反応をするわけでもなく、試験官のナイスバディなお姉さんは言い慣れてそうな、機械のような口調で説明を始める。
「見ての通り、こちらには七属性の魔法水晶があります。一つずつ触って魔力を込めていただくと、適性のある属性の水晶が光ります。それによって魔法適正を見ます。では女の子の方からどうぞ」
さすがに直前になって緊張したのか、ミディアは後ろにいる俺に一度目配せをしてくる。
少ししゅんとした顔もかわいらしいのでもっと見ていたかったが、背中をぽんっと押してやる。
「がんばれミディア。もう属性はわかってるんだ、緊張することなんてないよ。パッと終わらせてきな」
「う、うん!」
そういって一歩先の長机の前に立つミディア。ミディアの属性は『木』と『風』。きっと何の問題もなくクリアしてくれるだろう。
…………あれ、これってフラグ——
「木と、風ですね。二属性持ち、合格です。では、お連れの男の子もこちらへ」
……うん。何事もなかったみたいで安心安心。何事もない平和が一番大事だよね!
ふぅ、と俺も一呼吸おいて、長机の目の前に立つ。
まずは土の水晶に手を掛けようとした瞬間。あぁ、危ない。
俺が持っているの属性は七属性。今全部ここで持ってる事ばれたらきっと面倒くさいことになる。
確か、四属性で伝説級、三属性で国トップレベル、二属性持っていれば普通だが、平民判定の俺が三属性なんて持っていたら変に注目される。だから入学最低ラインの二属性だ。
何事でも変に目立つの得策じゃない。
でも、せっかくなら高火力ブッパできる二属性がいいよねー。えーと、最も火力が出る二属性の組み合わせは……火と水か。よし、決まりだ。
俺は土の水晶から順に触れていくが、火と水の水晶以外はわざと別の属性の魔力を込めて光らせず、火と水の水晶にだけ正しい魔力を込める。
そして、火と水の水晶が光り、最後の闇の水晶に光属性の魔力を込め終わり当たり前のごとく光らず、試験官のお姉さんを見る。
しかし、ナイスバディなお姉さんは下敷きを腕で持ったまま硬直している。
「終わり……ましたよ?」
お姉さんは眼鏡越しの瞳をパチクリさせながら一度眼鏡を外し、鼻頭を押さえ、俺の記録を記しているであろう用紙と睨めっこをしている。
「……火と…………水っっっ!?!?!?!?」
お姉さんは切れ長で綺麗な形をした瞳を何度もごしごしと擦る。まるで自分が見ていた光景が嘘であるかを望むように。
…………もしかして俺……何か変なことした……?
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