1章 初級魔術師編
第1話 行ってらっしゃい
「二人とも荷物は持ちましたか?」
シスターは俺と俺の隣にいるミディアについた、小さなごみを払いながらそう問いかける。シスターは最近目立ち始めた小じわを気にすることなく笑みを浮かべながら。
「はい。確認しました」
「うんっ! 私も確認したっ!」
大きくサファイヤのような深緑の瞳を細めながら元気よくシスターに返事をするミディア。ミディアはつい最近六歳になったばかりだが、もうすでに端正な顔立ちを遺憾なく発揮している。将来はきっと美人になる。
「そうですか。それでは行ってらっしゃい」
柔らかでいて、太陽のような笑顔で俺とミディアを送りだしてくれるシスター。
そんなシスターを背にして歩き始める。
どんな表情をしているかは、あえて確認しなかった。
※
「結構歩いたよな……少し休憩しないか?」
「何言ってんの! まだ全然歩いてないよ!?」
「いや、でもやっぱり計画的に進んだ方が……」
「いいから行くよ!」
「えぇ、」
止まって少し休憩しようとしていたところ、手首を掴まれて引っ張られる。
この体の強すぎる幼馴染と向かっているのは魔法学園プリスティア。この神聖国家フーリヤ随一の魔法学園。まぁ、随一と言ってもこの一校しかないんだけれども。
この世界では魔法適正というものがあり、『土』『風』『火』『木』『水』『光』『闇』の魔法属性の内、二つ以上持っていれば魔法適正があると見なされ、魔法学園への入学ができる。
ちなみに、六歳から魔力に目覚め、その際に魔力適性が自分で理解できるため、魔法学園にも入学試験はあるものの、合格率は98パーセントほどらしい。
残りの2パーは「うちの息子には魔法の才能があるんですっ!!」みたいなモンペだろうきっと。知らんけど。
魔法適正があっても入学自体は強制ではないが、学費も何もかも、在籍中にかかる費用はすべて学園を運営している国が負担してくれるのと、魔法学園はこの国ではエリート校に位置するため、魔法適正があって入学しないものは基本的にいない。
だが、この世界では基本的に属性を二つ以上持つものは基本的に貴族のみ。しかし、極々わずかな確率で平民の生まれからも二属性持ちが生まれることがある。例を出すなら隣にいるミディア。まぁ、孤児院育ちなので俺みたいに貴族だった家族がみな殺しにされて、たまたまシスターに拾われた可能性もあるしな。
……なわけないか。
ところでなんでこんなことを知っているかって?
それは俺が『神の使い』だから、らしい。
神の使いとは、神が望む崇高な世界に導くために力を授けられた者のことで、神を崇め、神になんちゃらかんちゃら(省略)だって。まぁ、簡単に解釈したら俺つえーにしてやるから世界いい感じにしてねっ! ってことだよね!(適当)
で、実はこんなめんどくさいことほっぽり投げられたの実は一昨日のことなんですよね、はい。
なんか六歳の誕生日を迎えた瞬間に赤ちゃんの時にあった事と、この世の一般常識と、真理的なものを勝手に流し込まれて、気づいたらあばばばばばばって感じになって、賢者タイムに入ってた。文字通り、賢者並みの知識を得て。
あ、あと、六歳で賢者タイムは世界新記録らしい。……賢者タイムのタイトルホルダーとか世界で一番いらないタイトルだな。
てか、六歳で賢者タイムって字面にするとえげつな。
で、その真理によると、魔力は天から授けられているものであるため、魔力が使えるようになる六歳まで俺にもろもろの情報を流し込めなかったらしい。
まぁ、流し込まれた情報と言っても、さっき言ったことだったり、親を殺したのは何らかの方法で俺が神の使いだって察知した奴らだってことだったり。
第三者視点から見せられているような感じだったから怨念とかあんまりでないけど、とりあえず、親の借りは返すために殺した奴にばったり会ったら殺っとこ。
で、話は戻るけど、俺とミディアが向かっている先は勘の良い人ならお察しだろう、魔法学園プリスティア。
魔法適正があるからと言って、こんなトンチンカンでも入れるのかと心配したが、やはり魔法適正があればだれでも入れるらしい。
一度だけ本気で心配になってシスターに相談したが、それを聞かれてミディアにぼこぼこにされた。そして同時に気づいた。
俺、幼女のパンチをよける身体能力すらないってことに……。
ま、まぁ? その分魔法適正はあるだろうし?
どれどれ、えーと、確認してみたら七属性すべて持ってた。真理によると人類史上初めてらしい。
……神様のサービス精神に乾杯。
ちなみに貴族の一般的な魔法適正は二属性。三属性持ちになると国トップレベルの魔術師。四属性持ちは数十年や数百年に一度生まれる伝説並みらしい。
七属性持ってるんですけど……正直そんなに使わなくね?
てか、こんなのだったら神の使いを殺そうとしてる危ない人たちに一発でばれるじゃん。どうしよ。
え、待って、えーと、真理によると『もう俺は誰にも負けない』らしい。
へ、へぇー。……六歳で最強なのかぁ、、まぁそれも——
「ぼあっふぁっ!?」
唐突に俺の頬を襲う右ストレート。ミディアだ。
「ねぇってば! さっきから何なの!? ずっとにやにやしててさ! もうプリスティアついちゃったよ!?」
目の前を見ると巨大な庭園を囲むようにそびえ建つ校舎。一番大きな真ん中の校舎に連なるように周りの校舎も連立している。
そして巨大な庭園のような場所にはすでに入学試験を受けに来た入学志望者でいっぱいになっていた。
「ご、ごめん。行こうか」
「うんっ!」
ミディアは先ほどのことを学習してか、俺の手を握り引っ張ってくれた。
これは俺に気があるのでは? なんて思ったのもつかの間。なんか手汗きもちわるいって言われてすぐにほどかれました。だって緊張するんだもん。
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