第314話 ただいま

「ただ、オリョウ様。誰かを魔法で操って、それで自分の思い通りの結果を作り上げたとしても、それを愛とは呼ばないんです。だからこそオリョウ様はいま憧れを抱いている。二人が二人の意思でお互いを選んだから。本物を見せつけられたから」


「それは……」


 オリョウの顔が苦しそうに歪む。


 図星だと、その表情が物語っていた。


「オリョウ様。私たちは間違っていたのです。人を操ろうとすることも、一番近くという立場に甘えつづけることも。どんな高嶺の花でも、自分のことを好きじゃなくても、自分の魅力でなんとかしてこそ、気持ちを変えさせてこそ、その恋に意味はあるのです。本物と呼べるのです」


「ユーリ、あなた……」


「ですから、私はオリョウ様のことをいつまでもお慕い申しつづけます。好きでいつづける自信があります。オリョウ様のことが大好きですから、いつか、私の力で、私に惚れさせて見せます」


 だめ、でしょうか。


 ユーリが自信なさげにつけ加える。


 オリョウは驚いたような顔をして、目を閉じて、ちょっとだけ恥ずかしそうに頬を緩ませた。


「ユーリ。私があなたの気持ちに応えられるかはわからない。わからないけど、それでもいいのなら、最強のボケを目指す旅のお供を任せてもいいかしら」


「オリョウ様」


 その言葉を聞いたユーリは、本当に嬉しそうに笑って。


「はい。どこまでもお供して、いつか、石川様を超えるツッコみを身につけて、オリョウ様を私のツッコみの虜にして見せます!」


「楽しみにしてるわ、ユーリ」


「はい、オリョウ様」


 ああ、なんか一件落着だなぁ。


 二人が互いの気持ちをさらけ出し合って、すべてが丸く収まった。


 けど、最強のボケを目指す旅ってなに?


 抱擁しているオリョウとユーリが幸せそうに笑っているから、それでいいか。


「誠道さん。これで、よかったんですかね」


 隣に立ったミライがそう尋ねてくる。


 恥ずかしくて顔を見ることはできないが、無視するわけにもいかないので。


「まあ、なにはともあれ全部解決ってことで」


「そうですね。私たちのあ……本当の気持ちを伝えるって、大事なことなんですね」


「ははは、そうかもな」


 ミライが私たちの愛、と言いかけたことはわかった。


 ここで俺から「俺たちの愛の勝利だな」的な言葉を言えれば、俺は晴れてモテ男の称号を獲得できたのだろうけど、いまは心臓がうるさすぎて、頭がオーバーヒートしていて、恥ずかしさで死にそうで、そんなきざなセリフ、とてもじゃないけど言えなかった。


「まあ、なにはともあれ、誠道さん」


 俺の葛藤を見透かしたように、ミライは柔らかに笑っていた。


「なんだ? 改まって」


「私のもとに帰ってきていただけて、ありがとうございます」


「帰ってきたっていうか……まあ、その」


 深々と一礼するミライになんと返せばいいか少し考える。


 ミライが顔を上げた後で、頬をかきながら、耳に宿った熱を感じながら。


「とりあえず、ただいま。またこれからもよろしく頼むな」


 それだけは、恥ずかしそうにはにかむミライの目を見て言うことができた。


 ミライの笑顔は本当に素敵だ。

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