第295話 強さの証明

「そんなことより、問題は負けるはずだった試合に勝ってしまったことです!」


 ミライが話しを本題に戻してくれる。


「一度勝ってしまったということは、女奴隷化されてしまう可能性がゼロではない……いや、聖ちゃんの話から推察するに、女奴隷化されることはほぼ確実と言っていいでしょう」


「やっぱり、そうだよな」


「はい。ですので、もうこの大会で勝とうが負けようが関係ありません。ただこれは逆に考えればチャンスです!」


 ミライが力強く言い放ち、前のめりになりながら言葉をつづける。


「誠道さんはよく考えれば中卒! つまりこんな大会であっても優勝していた方が後々のことを考えると履歴書に書ける経歴が増えて」


「中卒言うな! 俺は事故で死んだから不可抗力で、自分の意志とは無関係に中卒になっただけだ!」


「え? 事故が無くても、あのまま引きこもっていれば高校は留年確定。一学年下の人たちと一緒に過ごせるコミュニケーション力なんてないので、そのまま退学したはずでは?」


「その通りだな。本当に異世界転生できてよかったよ!」


 中卒は中卒でも絶対にこっちの方がよかった。


 明らかにこの異世界は学歴社会じゃないからね!


「異世界転生できてよかったって」


 俺の言葉を繰り返したミライが、なぜかぽっと頬を赤く染めた。


 上目づかいで俺を見て、しかしすぐに目を伏せて、つぶやくように。


「それは、私と会えたことも含まれてますか?」


「……ま、まあな」


 なんかむずがゆい時間が流れる。


 暖房の熱をずっと浴びているように、体がゆっくりと火照っていく。


「と、とにかく!」


 ミライが大きく咳払いをして、とろけそうな空気を吹き飛ばした。


「いま私たちが考えるべきは、どうやって女奴隷化を防ぐかですよね!」


「だな」


 俺は右手の甲に刻まれた忌々しい魔方陣に目をやる。


「とりあえずは、この魔法陣の効力を失わせればいいんだよな」


「はい。今回誠道さんに刻まれている魔方陣は呪術系のものだと推測できます。なので、術者自身に解いてもらうか、術者を気絶させることができればその効力が消えるはずです」


「気絶だけでいいのか?」


 なんというか、もっとこう、殺すとかまでしないといけないのかと思ってたんだけど。


「はい。こうした呪術系魔法を対象者にかけつづけておくということは、針の穴を通すような魔力操作を常に求めつづけられているということです。ですので、気を失ってしまえば魔力操作自体が行えなくなり、呪い自体が消えます」


「なるほど。ってことはとにかくオリョウを気絶させろってことか」


「女奴隷化される前、という条件つきですが」


 そっか。


 奴隷化、ってことは、自分の意思では動けなくなるってことだもんな。


「まあ、その針の穴を通す魔力操作を大会参加者全員に対して行っている時点で、オリョウさんがどれだけの強者かが証明されているわけなので、簡単ではありませんが」


「不吉なこと言わないでくれよ」


 経理担当でお金のために裏切ったとはいえ、オリョウも悪魔軍の一員だったのだ。


「……って」


 俺の頭にひとつの可能性がよぎる。


「呪いってことは、聖ちゃんが浄化できるんじゃないのか? だって曲がりなりにも聖ちゃんは【聖剣者】。つまり聖職者なんだから」


「無理だと言っていましたね」


「そうか……。聖ちゃんも万能じゃないんだね」


「それを聖ちゃんの前で言うと、奴隷化とか関係なく男ではいられなくなるので注意してくださいね」


「肝に銘じておきます」


 思わず股間に手を添えてしまう。


「その聖ちゃんがさっき話していたのですが、この大会終了後、オリョウが認めた、すなわち女奴隷化を決定した参加者だけを集めた打ち上げ兼授賞式なるものが開かれるそうです。おそらくそこでオリョウさんが、参加者たちを女奴隷化させるのではないかと思われます」


「じゃあそれまでに、オリョウを探し出して気絶させればいいってことだな」


「それはそうなんですが、でも、おそらくオリョウさんは見つけられないかと思います」


「なんでだよ」


「呪いをかけている張本人が、そんなやすやすと見つかる場所にいるとは思えません。私も探してはみますが、会場に戻ってギャンブルをしないといけないのでそんな暇もないですし」


「それを暇と言うんだよ! ギャンブルなんかせずに探せよ!」


「誰かさんのせいで損した分を取り返さないといけないんですよ! なんならこの説明をしている間に二試合分もお金を儲けるチャンスを逃してるんですよ!」


「俺のせいで損したのは事実だけど、ギャンブルの損をギャンブルで取り返そうとするのは、一番やっちゃいけないことなの! 借金は地道にコツコツ返すものなの!」


「なに言ってるんですか、借金は一気にドカンと返すものなんです!」


「コツコツだ!」


「ドカンとです!」


 その後も、俺とミライの借金返済論は平行線をたどった。


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