第276話 全オタク憧れの

「期待?」


 ミライは首を傾げた後、にやにやとからかうように、でもどこか嬉しそうに笑う。


「夜通しプレイという言葉を聞いて、誠道さんはいったいどんなことを妄想していたんですか?」


「ううう、うるさい! ってかそんなもの旅館で貸し出してたんだな」


 ま、旅館だったらボドゲの貸出サービスくらいやっててもおかしくないか。


 そう結論づけた矢先、ミライがおとぼけフェイスを披露してきやがった!


「いえ、買いました。クラーケンで得たお金を使って」


「は?」


 ねぇ、お願いだから言い間違えたと言ってくれ。


 それが俺の聞き間違いであってくれ。


 貸出備品だと言ってくれ。


「なんですか、鳩が豆鉄砲喰らったような顔をして」


「それよく聞くけどどんな顔かいまいち想像できないからやめてくれ。冷静に考えたら言葉にするには長すぎて使いにくい表現第一位を使うな」


 ちなみに二位は、苦虫をかみつぶしたような、である。


「まあまあ、誠道さん。ご安心ください」


「ここまでのやり取りで安心できる要素なんかあったか?」


「安心できる要素だらけですよ」


 正論をぶつけるも、ミライにはまったく効いていないご様子。


 あれ、正論って一番切れ味のある攻撃方法だって学んだはずだけどなぁ。


「え? どうして安心できる要素だらけかって?」


 勝手に話を進めるミライが、リアルマネー人生ゲームの入った箱を頭上に掲げる。


 テッテレー、という効果音が聞こえてきそうだ。


「実はこの商品、どこを探しても売っていなくて、ようやくこのハグワイアムのとある店で見つけた超貴重品なんです! しかも店頭在庫が残り一つしかなくて。プレミア価格ではありましたが、クラーケンでお金を稼いでいたおかげでなんとか買えました!」


「よし、そんな貴重な品ならいますぐ転売して儲けよう」


「ダメですよ! 転売なんてできるわけがありません!」


 ミライがボードゲームを、まるで我が子を守るかのごとく大事そうにぎゅっと抱きしめる。


「とにかく、安心してください」


 だから安心できる要素なんかないっての。


 ミライは少し考えて、いいことひらめいたっ、と言わんばかりに目を輝かせた。


「これは買ったというより、投資なんです」


「おいてめぇ本当は転売しようとしてんだろ! 投資って言葉は転売を最大限いい風に着飾らせた言葉だからな!」


 ってかなんでこんなツッコみしてんだろう俺。


 転売しようとしてるなら、それでいいじゃないか。


 ついついツッコみ役として、己の胸に秘めたツッコみ力を解放し、暴走してしまった。


「なにを言ってるんですか。転売なんてもったいない。このリアルマネー人生ゲームはゲームの中に入ってリアルマネー、つまり現実のお金を使って人生ゲームをするんです」


「そんなあり得ないゲームが登場してたまるかぁ!」


「このゲームの製作者の名前から考察するに、誠道さんと同じ転生者が作ったものだと考えられます」


「くっ、それならありえる……と思わなければいけないことが悔しい」


 転生者は変な能力を持っている。


 これまでに様々な能力を見せつけられてきたからね。


 あのお遊び好きの神様ならやりかねない。


「ルールは普通の人生ゲームと同じです。なので、このゲームをするだけでリアルマネー、つまり現実のお金が増える可能性が大いにあります」


 なるほど。


 つまり競馬とか、宝くじとか、そういった類の話ってことだろ。


 要は一種のギャンブルだ。


 であるならは、まあ、人気なのもうなずける。


 ギャンブルには一定の需要があるからね。


「では、箱を開いたら自動的に中へ入れます」


「えっ? もうやるの?」


「善は急げです」


 畳の上に箱を置いたミライが、満面の笑みで箱の蓋をあけようとする。


「あ、ちなみに、その製作者の名前を聞いてもいいか」


「はい。創流雅楽太つくるがらくたさんです」


「へぇ、つくるが、らくた。つくる、が、らくた、作るガラクタ……」


 それに気づいた瞬間、背中に悪寒がほとばしる。


「おいミライその商品は信用ならねぇ!」


「え?」


 しかし、時すでに遅し。


 ミライはすでに箱を空けてしまっていた。


 箱の中からまばゆい光が発生し、目を開けていられなくなる。


 ブラックホールに吸い込まれていくかのように、自分の体よりも小さな箱の中に吸い寄せられていき、揺れと浮遊感が収まったあとで目を開けると。


「ここが……」


「はい。ゲームの世界です」


「なんで異世界転生してんのにゲームの世界に入ってんだよ!」


「一石二鳥ですね。全オタクが憧れる展開です」


 そんな会話をしつつ周囲を見渡す。


 俺たちは、新宿の駅前を再現している空間に立っていた。


 だって後ろの駅に新宿駅って書いてあるんだもん。


 正確に覚えているわけではないけど、この背の高いビル群はどこからどうみても都心だ。


 やはり転生者が作ったので間違いない。


 じゃないと、こんな正確に日本の大都市を再現できるはずがない。


 人が俺たちしかいないのが違和感だけどね。

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