第4章 運命とミライのゲーム

第275話 夜通しプレイで興奮しましょう

 ぐちゃぐちゃのクラーケンを売って、借金返済用のお金を得た日の夜。


 旅館の大浴場から戻ってくると、部屋の鍵がかかっていた。


「あれ……って、そうか」


 俺が部屋を出るときに。


「私も準備が出来たら大浴場にいきますから、部屋の鍵を持っていってくださいね」


 ってミライに言われたんだったな。


「手首についてるのにな。それだけ疲れてるってことだよなぁ」


 クラーケンを討伐しにいったせいで、めっちゃ疲れた。


 敵だったクラーケンのせいではなく、今日かかわったみんなのせいでね。


 クラーケンと戦うはずだったのに、俺が今日戦った相手は人間だったんだから、本当に驚きだよ。


 扉の鍵を開けて部屋に入る。


 中にミライはいない。


 女の子は長風呂だって言うし、まだまだ時間がかかるかな。


「ああ、マジで疲れたぁ……」


 畳の上に大の字に寝転んで、深呼吸をする。


 風呂上がり独特のぽわぽわした心地よさにつつまれ、途端におぼろげになっていく意識に身を委ねつつ、ふと部屋に併設している露天風呂を見る。


 そういや昨日、ミライとあそこで一緒だったんだよなぁ。


 もし、あのまま俺がのぼせない世界線があったとしたら、俺はミライとどうなっていたのだろう。


 どういうことを話したのだろう。


 どういう朝を迎えていたのだろう。


「朝って……なに考えてんだ俺」


 恥ずかしさが襲い掛かってくる。


 脳裏を埋め尽くそうとしたミライの艶やかな柔肌を、ぶんぶんと頭を振ってかき消した。


「ミライ、恐るべし」


「なにやってるんですか?」


 いつの間にか、浴衣を着たミライが部屋に戻ってきていた。


「しかも顔が赤く……まさか私がいない隙に私のことを思ってそういうことを」


「な、なにも考えてないって」


 慌てて否定するが、ちょっと図星なのが腹立つんだよなぁ。


「そんなはずありません。だって慌てすぎですし、顔が真っ赤すぎですよ」


「う、うるさい。ってかミライだって顔が赤いじゃないか」


 なんとか話を逸らす。


 ミライの頬はほわりと赤く染まっていて、妙に色っぽい。


 浴衣姿も相まって、とてもきれいだ。


「それは……お風呂上がりですから」


「じゃあ俺もお風呂上がりだから顔が赤いんだ」


「じゃあってなんですか、じゃあって」


 ちょっと不服そうなミライが俺の隣に正座したので、俺も体を起こしてあぐらをかく。


「まあいいでしょう。そんなことより、実はですね、私……」


 ミライがもったいぶるような間をあけ、上目づかいで俺を見る。


 前かがみになって俺の手に上に自らの手を重ねて、ぎゅっと握ってきた。


「おおおおい、いきなりどうした?」


 俺は、ミライの手の細さと大胆な行動と少しだけはだけた胸元に、どきっとしてしまう。


 ミライはとろけた声でつづけた。


「実は私、お風呂に入っているときも、誠道さんと夜通しプレイすることを考えたら……ちょっと興奮していて」


「はっ!? 俺と、夜通し……興奮って」


 ミライの体を下から順に見てしまい、最終的にそのとろんとした目に釘付けになった。


 ぷくりとした真っ赤な唇がゆっくり動く。


「はい。私と夜通し興奮しましょう。このリアルマネー人生ゲームで」


「そういうことかよ。期待して損したわ」


 ミライが体の後ろから出してきたのは、四角い箱に入ったボードゲームだった。


 ま、そういうことだろうと思っていたけどね。


 どきっとした気持ちがいま、ぽきっと折れましたよ。

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