第199話 絶対などない

「私を信じてくれた人を奪わないで!」


 コハクちゃんが、喉が擦り切れんばかりの大声で叫ぶ。


 彼女の巨大な体躯は、ダイアモンドよりも煌びやかで、ホタルの輝きよりも幻想的で、月明かりよりもじんわりと温かい輝きに包まれている。


 その優雅な輝きに照らされていると、なんだか心が安らいで元気が漲ってくる。


「ミライ」


「誠道さん」


 俺はミライと目を合わせ、笑い合う。


「おいおい、また希望を信じちゃって大丈夫なのか?」


 ワルシュミーは慌てる様子も見せず、ただ俺たちを見てくふくふと腹をよじって笑う。


「希望が宿ればその反動でさらなる絶望が生まれる。俺にとっちゃあ好都合だがなっ!」


 一瞬だけ、俺たちに蔑むような視線を向けたワルシュミーは、また下卑た笑みを浮かべ。


「マーズが俺の手元にある以上、お前らに勝ち目はねぇんだよ。まったく、俺はつくづく運がいい。のこのこと出しゃばってきたマーズを操ることができたんだからなぁ!」


 ワルシュミーがマーズの背中を思いきり蹴った――刹那。


 ワルシュミーの体が足から順に凍りついていく。


「…………はっ」


 ワルシュミーは困惑の表情を浮かべ、情けない声を漏らす。


 すでに首から下が氷で覆われていた。


「あんたの蹴りじゃ興奮しないのよ、私」


 マーズが淡々としゃべりはじめる。


 ……やっぱりそうか!


 だってこいつ、ドSのミライの攻撃だけかわさなかったもん。


「なぜ、だ? 俺はお前を操っている! なのに、どうして俺に攻撃を」


「あら、私、言わなかったかしら?」


 マーズがワルシュミーをあからさまに見下す。


「実力差をわかっているのかしら、ってね」


「だが、俺の服従魔法は完璧のはず……」


「だ・か・ら、いつ私が操られてるって言ったのよ? あんたみたいな雑魚に、私が操られるわけがないでしょう」


 氷漬けにされているワルシュミーに近づいて、その鼻の先を人差し指でぐっと押すマーズ。


 さっきまで余裕しゃくしゃくだったワルシュミーの表情に、嫌悪と恥辱と憤怒が混じっていく。


 マーズは底冷えするほど冷たい声で言い放った。


「あんたは弱いのよ。魔王軍時代からあんたは数多くの人間と魔物を操って利用してきただけの雑魚。使役されるのもいいかもしれないと思ってちょっと言うことを聞いてはみたけど、やっぱりあんたに使役されても嬉しくなかったわ」

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