第135話 ちょろいんの話

「なんにゃ、このクソまずいご飯は」


 猫又さんが俺の焼いたパンを食べながら毒づく。


 ミライのために用意した朝ごはんだったが、いないので仕方なく猫又さんにあげた。


 捨てるよりはマシだと思って。


「これを作ったやつの気が知れんにゃ。罰ゲームのご飯でももっとおいしいものが出てくるのにゃ」


 相手がこのクソ亭主関白さんだとは言っても、自分が作った料理を食べてもらうなんてはじめての体験でめちゃくちゃ緊張していたのに。


 そこまで貶さなくてもよくない?


 俺も食べたけど、そこまでまずくはなかったよ。


 小学生の手料理くらいのレベルはあると思うよ。


「……あの、それ俺が作ったんですけど、もう少し褒めていただけませんかね?」


「お前は料理もできん奴隷――飼い主様じゃったのか。まったく、我が食べてあげるだけありがたいと思えにゃ」


「……は、はい」


 な、なんだこいつー。


 ちょっとかわいい見た目してるからって、さっきから暴言がひどすぎない?


「それは重々承知の上で……猫又さん。十回に一回くらいは褒めてもらえると、大変ありがたいのですが」


 いわゆるツンデレっぽくなるからね。


 めっちゃときめくと思うの。


「なにを言っておるのにゃ。我の暴言は極上の褒め言葉と相場は決まっておるのにゃ。なんにゃら、猫パンチも食らわせてあげてもよいぞ。猫族は人間の数倍もの筋力を有しておるからの。これまでに経験のない強い快感を奴隷――ご主人様にくらわせてあげられるのにゃ」


「こいつやっぱりただのドSだったぁ!」


 あ……でも、柔らか肉球を押しつけるタイプの猫パンチなら大歓迎です!


 ネコの肉球は最高だからね。


「食事中に大声を出すにゃ。まったく、本当に礼儀がなってないのにゃ」


「だから人の料理をまずいまずい言うやつに礼儀を説かれたくないんだけど」


 俺が愚痴をこぼすと、猫又さんは首をこてっと傾げて、あざとかわいい笑顔を浮かべる。


「でも本当にまずかったら、こんなふうに完食してないのにゃ」


「ああもうかわいいなぁ。暴言も許しちゃうなぁ。俺、ラブコメのちょろイン並みにチョロいなぁ」


 これぞまさにツンデレ!!


 それから、二人でごちそうさまをして、俺はキッチンで食器を洗い、猫又さんはソファに寝そべってごろごろ。


 ……これ、よくよく考えるとなんかすげぇムカつくなぁ。


 人が働いているときに、それを手伝いもせずにこれ見よがしにだらけているなんて。


 ミライもこういう気持ちだったのだろうか。


 だとすると、本当に申しわけない。


 これからは、ちょっとは手伝おう。

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