第134話 はかったり、はかられたり

「そうにゃ。猫又にゃ」


 腕を組んで、その大きなおっぱいを強調させながらうなずく猫又さん。


 ――猫又。


 日本にいるときに耳にしたことがある。幽霊だか妖怪だかの一種だったような。


 ゲームでも敵モンスターとして登場していたっけ? 


「猫又……。まあ、君が何者かはわかったけどさ、その猫又さんがどうして俺の家で、しかもこのベッドの中で寝てたんだよ」


「人に尋ねるときはまず自分から、が礼儀の基本にゃ。お前はどうして女の子の部屋に勝手に入ってきたのにゃ? 寝ている我になにをする気だったのにゃ?」


「人の家に勝手に入って、しかもベッドでぐっすり寝てる人から礼儀を説かれるなんて思わなか」


「ま、我にはお前のことなどすべて見通しだがにゃ」


「おい無視すんな……って、え?」


 もしかして、猫又さんには相手の記憶を読み取る力があるのか?


「お前はさっきからちらちらと我の胸の谷間ばかり見ておるのにゃ。だからお前は、妖怪『ただの変態』であろう」


「べべべ、別に見てねぇし意味わからんしよよよ妖怪でもねぇし?」


 そもそも、そんな谷間が見えるような服を着ている方が悪い――って見てねぇから!


「しかし、寝ている我にえろいことをしようと考えていたではないか」


 それはたしかに考えてたけどさ。


 背中が冷汗でびしょびしょだ。


「まさかお前、本当に心が読めるのか?」


「……やはりそうだったかにゃ。バカはわかりやすくて助かるのにゃ」


「はかったな!」


 こいつ、なかなか頭が切れるぞ!


 ブラフをかまして真実を導き出しやがった!


「まったく、お前は嘘つきにゃ。我の胸の中で溺れたかったのならそう言えばいいのにゃ」


「そこまでは思っていない」


「じゃあどこまで思ってたんにゃ?」


「それはだな、君のおっぱ――またはかったな!」


 やっぱりこいつ頭が良すぎる!


 高度な戦略を駆使して、俺の本心を引き出そうとしやがった。


「なにを独り相撲をしておるのにゃ。それに……」


 猫又さんは胸の前で手のひらを合わせ、上目遣いで。


「別に、我はお前に見られて嫌だとは言っておらんのにゃ」


「……え? もしかして猫又さんって変態なの?」


「たわけっ、お前だけには変態と言われたくないのにゃ」


 顔を真っ赤にしてプンスカ怒る猫又さん。


 いや、だって谷間を見られたいって、見られるのが好きだって、自分でそう言ったじゃないか。


「我だって、谷間を凝視されるのは好きではないのにゃ」


「誰が凝視だ誰がっ! 俺はチラチラ見てただけだよ! いやチラチラも見てないわ!」


 こいつ、さっきからはかりすぎだろ。


 ハーバードの首席レベルだ。


 今後はよりいっそう注意してかからないと。


「……はぁ」


 あきれたようにため息をつくに猫又さん。


「最後まで話を聞くのにゃ。我は谷間を凝視されるのは嫌にゃが、お前に凝視されるのは嫌ではないのにゃ」


 頬を赤らめて、恥ずかしそうに体をもじもじさせる猫又さん。


「…………え?」


 俺はそんな猫又さんから目を離すことができない。


 なんだこの感情は。


 なぜか俺は谷間を凝視していい許可をもらえて、俺は……俺は……普通に興奮している。


「我は、お前のことが好きなのにゃ。にゃから、お前に見られるのにゃけは嫌ではないのにゃ」


 拝啓、誰かはわからないけどとにかく俺のことを知っているみんなへ。


 どうやら俺は告白されているみたいです。


「にゃから、我とこれからもずっと一緒にいてほしいのにゃ」


 ぎゅっと手を握られる。


 肉球がものすごく柔らかい。


「……ずっと、一緒っ……に、って」


 そんな、もはやこれってプロポーズでは?


 こんなかわいい子から――猫又だけど――言い寄られることなんてもうないのでは?


 これが俺のモテ期?


 そういえば、子供のころ捨て猫に餌をあげたことがあった気がする。


 車に轢かれそうになった猫を助けた気もする。


 引きこもってたときは、ベッドにずっと寝ころんで一日を過ごすのが好きだった。


「その反応は、オッケーということだにゃ」


 なんか勝手に話を進められる。


 やぶさかではないが。


「にゃったらまずは我のために早くマタタビと高級魚をとってくるのにゃ。我のために最高級の魚をよこすのにゃ」


「それが目的かよ! こいつとてつもない横柄な猫又だった!」


 ほんとガッカリだよ!


 期待しちゃったじゃん。


 モテ期が来たってさ。


「人のことを横柄にゃと、なんと礼儀のなっていない奴隷――飼い主様にゃ」


「だからあんたに礼儀を説かれる筋合いはないんだよ!」


「そんなこと言わないでほしいのにゃ。我、……魚が食べたいのにゃ」


 猫撫で声であざとかわいく言いつつ、俺の腕を絡め取って自身の胸に押し付ける猫又さん。


 こ、こいつ猫又じゃなくてキャバ嬢かなんかですか。


「我のために高級魚を買ってきてくれるかにゃ。奴隷――飼い主さまぁ? もしそうしてくれたら、後で『遅いぞこの豚が!』と足蹴にしてやるのにゃ」


「だからお前俺のことほんとは好きじゃないだろ! 都合のいい男としか思ってないだろ!」


 こいつ亭主関白がすぎる猫又だぁ!


 客に借金を強要させるタイプの、悪徳キャバ嬢だぁ!!


「ってか、さっきから奴隷って俺のこと呼んでんな!」


 こんなやつに惚れられるとかマジ無理なんですけどー。

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