第131話 ふざけたキャラはたいてい強い

 俺は目を開けていられなかった。


 衝撃が止み、目を開けると、俺たちは森の中にいた。


 俺をしばっていた氷の鎖は消えている。


 だが、ボロボロの俺は立つことができず、地面の上に倒れてしまった。


「誠道さんっ!」


 そんな俺のもとにミライが駆け寄ってくる。


 俺の横しゃがんで、心配そうに抱き着いた。


「ごめんなさい。私のせいであんなことまで言わせて」


「……いいんだ。そんなことより、怪我はないか?」


「誠道さんは自分の心配をしてください」


「誠道くん、と言ったか。大丈夫かね」


 気がつけば、オムツおじさんが俺の頭上に立っていた。


「はい。……ありがとう、ございます。助けてくれて」


 この人が来なければいまごろどうなっていたか。


 ってかこの人ってこんなに強かったんだな。


「まあ、結果的に私が君たちを助けたことに変わりはないが」


 オムツおじさんは長い溜息を吐いてから。


「私が真に助けたかったのは、あの魔法使いの方だよ。【我裸我全愛がらがら】のカウンセリング効果が発動しかけたところで逃げられてしまったから、完全には助けられなかったが」


「……え?」


 あの魔法使い。


 マーズのこと?


 ってかあれでも仕留めて切れていなかったのか。


「私にはあのお嬢さんからドMの悲鳴が聞こえたのでな」


「そのドMの悲鳴というのは」


「ドMの悲鳴はドMの悲鳴だ」


 だから、それがわからないって言ってるじゃん。


 もういいや。


「あの【我裸我全愛がらがら】には、過去の自分と強制的に向き合わせ、本当の自分を取り戻させる力があるのだが。あの魔法使いさんとまた会えることを願うとするか」


 オムツおじさんは、俺に背中を向ける。


「ただ、君たちとは必ずまたどこかで会う気がしているよ」


 そのまま歩き去っていくオムツおじさんの背中が格好よく見えて、絶対会いたくないよ、とは言えなかった。


「あ、ちなみに先ほどの魔法使いさん発言は、君が童貞であることを指摘したのではないからね」


「わかってるよ! 俺はまだ十代だわ!」


「ははは、では君が魔法使いにならないことを祈っているよ」


 前言撤回。


 助けてもらった恩はあるけど、それ以上にウザい。


「もうお前なんかに絶対会いたくないよ!」



 ***



 山の中にあるとある洞窟のなかに、マーズはいた。


「まさか、テレポートを使うことになるなんてね」


 あのオムツをはいたおじさんが出した巨大ながらがらとぶつかった瞬間、視界が急に光に包まれた。


 凍らせて処理しようとしていたのに、嫌な予感がして、反射的にテレポートを使っていた。


 ――わかろうとしていないのはあなた自身ではないかな。


「あいつ、私のことをわかったような」


 マーズは舌打ちをする。


「私は誓ったんだ。私はすべてをあの人の中に置いてきたんだ」


 マーズの目から涙がそっと流れ落ちた。

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