第124話 星空の下の

 ミライに服を脱ぐのを手伝ってもらい、バスタオルを腰に巻いて、いざ浴場へ。


「早紀に入って待っていてください。私はカイニドウを取ってきますので」


「わかっはよ」


 ふらふらとよろけながらも、俺は浴場へとつながる扉にたどり着く。


 がらがらと開けると、目の前には満天の星空が堪能できる露天風呂があった。


 しかも、貸し切り状態だ。


「おおぉ、すげぇ」


 この星空の下、あったかい湯船につかりながら飲むお酒。


 控えめに言って最高じゃないか。


 とりあえず、髪を洗って泡をシャワーで流す。


 泡の爽やかな匂いで、酔いも少しだけ覚めてきた。


「ああ、早くミライも来ればいいのになぁ。この星空、絶対感動するに決まってる――――あれ?」


 俺はようやく気がついた。


 早くミライも一緒に来ればいいのに……って、どういうこと?


 ってかミライと一緒に暖簾をくぐったよね?


 脱衣所で服を脱がすのを手伝ってもらったよね。


「――――――――ここここここ、これって、正真正銘の混浴ぅぅうううう!?」


 一気に酔いが覚めた。


 なのに体は酔っていたときよりも火照っている。


 いったいどうしてこうなった?


「え、いや、そっか。だってここは」


 コンヨクテンゴクなのだ。


 特殊なコンヨクがあるのだから、普通の混浴がないわけがない。


「誠道さーん。カニイドウ。持ってきましたよ」


「はっ、ははは、はひっ!」


「私もすぐそっちにいきますね」


 やばいどうしよう。


 ミライがこっちにくるってさ!


 合法的に女の子と一緒のお風呂だってさ!


 心臓の鼓動が鳴りやまない。


 とりあえず、俺はいたって冷静ですアピールをするために、シャワーで髪の毛を洗い流しつづけることにする。


「それでは、失礼いたします」


 がらがら、という音とともに艶やかな声が聞こえてきた。


 背筋がぞくりと震える。


 とにかく落ち着くんだ。


 こういうときは素数を数えればいいんだよな――こんな状況で数えてられるかぁ!


 俺は釈迦じゃねぇ!


 数学オタクでもねぇ!


「これは……すごい星空ですね。開放的で、気持ちがいいです」


 開放的で気持ちがいい?


 聞き捨てならねぇ言葉だ。


 そもそもミライは裸なのか?


 お風呂だから裸なんですよね!


 ってか混浴だから見ても問題ないんですよね!


 俺はシャワーを止めて、石鹸に手を伸ばしながらちらっとミライを見た。


 おおっ――うん。


 普通にバスタオル巻いてましたね。


「あっ、誠道さん! 石鹸を取ろうとしているということは、体はまだ洗ってないですよね? ここは誠道さんを支援するメイドとして、お背中流しますよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る