第122話 これがコンヨクテンゴク
結論から言おう。
コンヨクテンゴクは、それはもうすごかった。
想像以上だった。
「では、最初の混浴はこちらです!」
美人の仲居さんに連れられてやってきたのは、建物の二階のとある一室。
温泉の湯気のようにゆらゆらとした字体で『こんよく』と書かれた暖簾をミライと一緒にくぐる。
え?
ミライと一緒でいいのかって?
当然ですよ?
だってここはコンヨクテンゴクなのですから。
そもそもくぐる暖簾が、ひとつだけしかないのですから。
暖簾をくぐった先には、木でできた棚とカゴが二つずつ置かれてある六畳ほどのスペースがある。
二人分の脱衣スペースと考えれば充分に広い。
このカゴに脱いだ服を入れろってことですね。
「じゃあさっそく」
俺はミライをちらちらと伺いながら服を脱ごうとしたのだが。
「お待ちください」
仲居さんに止められてしまった。
ああ、そういえばまだ仲居さんいたね。
なに焦ってんだよ。
周り見えてなさすぎだろ俺。
「すみません。こんよ――素晴らしい施設に感動して気持ちが先走っちゃいまして」
「当館をお褒めいただきありがとうございます。ただ、申し上げにくいのですが、この混浴では服を脱ぐ必要はありません」
「え、着たまま入るんですか?」
「服を脱いで入るのは、初めての方にはお勧めしておりません。いきなり裸で入ると、少々刺激が強すぎますので」
なるほど。
俺のことを、混浴がはじめての童貞だって見抜いたわけですね。
いきなりミライの裸を見て興奮して、粗相を起こさないように配慮してくれたんですね。
うん、慣れは大事。
それに服を着たまま入るのも、逆にいいかもしれない。
ミライのセーラー服が濡れて体のラインが露わになるのは……なんかこう、えろい。
スカートが太ももに張りつくさまなんか想像だけでそそられる。
どうせこの後、服を脱いで入る混浴にも案内されるだろうから、いまは着衣プレーー着衣混浴を楽しむとしようか。
「わかりました。じゃあ服を着たまま入ることにします」
「え? 誠道さん? 脱がなくていいんですか? 裸で入ると刺激が強いって説明聞きましたよね?」
「だからこそ、服を着たままなんだよ」
童貞だからこそ、えろさにちょっとずつ慣れていかないとだめなんだ。
「恥ずかしがっちゃって。せっかくの混浴、私しかいないんですから、すべてをさらけ出してもいいんですよ」
「そ、それは……まあ、後々、な」
え?
本当にすべてをさらけ出しちゃっていいの?
俺、止まらなくなっちゃうよ?
「ふふふ、お二人は仲がいいのですね。では、こちらへどうぞ」
口に手を添えて微笑んだ仲居さんについていく。
仲居さんが温泉へとつづく扉を開けると、大量の湯気がもわもわと中から飛び出してきた。
その白い煙の中に、人影が浮かぶ。
……え、ここって俺とミライの貸切じゃないの?
煙が徐々に晴れていき、中にいる人の容姿が――って全員女の人だぞ!
ここは天国ですか?
そうです、混浴天国です。
こんなに大勢の女性と混浴できるなんて、最高の展開じゃないですか。
「あれ、仲居さんも入るんですか?」
「ええ。まだ説明することが残ってますので」
あれ、ってことはつまり、
この美人仲居さんと混浴する可能性まである?
「それでは、どうぞ中へお入りください」
仲居さんに言われるがまま、男の夢と希望がつまった浴室へ突入する。
湯気も完全に消え去った。
中にいる女の人たちは仲居さんと同じ格好で、汗だくで、俺たちを歓迎するかのように二列になって、みんな長くて黒い棒を持っている。
…………?
長くて黒い棒?
しかもお湯がどこにもないんですけど。
「あのぉ、仲居さん。これはいったい」
「はい。これがこの旅館自慢のおもてなしのひとつ!」
仲居さんが指さした先にある看板を見て俺は唖然とする。
「ここは、大量の湯気が出るほどの素振りを繰り返した仲居さんたちが棍棒であなた方の体を叩きまくる『
「そっちの棍浴かよ! いやそっちのってなんだよ! ちょっと字が似てるのが腹立つんだけど!」
「すみません。お怒りのようですが、なにかお気に召さないことがございましたか?」
仲居さんが申しわけなさそうに俺の顔を覗き込む。
「…………いえ、その、なんでもないです。ははは」
愛想笑いを浮かべて誤魔化す。
だって、ただの勘違いなんだもの。
勝手に『棍浴』を『混浴』だと思い込んだ、恥ずかしくて死にたくなる系の勘違いなんだもの。
「そうですか」
ほっとした様子の仲居さんは、しかしすぐに怪訝そうに。
「でも、先ほどたしかに、腹が立つと言われていましたよね?」
「あれは、その……ははは」
混浴と棍浴を勘違いしていたんです、なんて説明したくない。
恥ずか死にます。
「えっと、本当になんでもないんで」
「おそらくですが、誠道さんはコンヨクを男女が一緒にお風呂に入ることだと勘違いしていたのだと思われます」
「ミライは説明しなくていいよ!」
なんでこういうときだけ以心伝心できてるのかなぁ。
「そうですか。お客様は極度の妄想癖のある変態――素敵な想像力のあるクリエイティブなお方なんですね」
「もう無理に褒めなくていいよ!」
いや、そもそも普通の人なら普通に勘違いするよね、これ。
クリエイティブでもなんでもないよね、これ。
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