第十三恋 オタク君、失恋シチュで死ぬ。

 「お前なんかキライだ。」

 嫌だ。

 「俺がお前を好きになる訳ないだろ。」

 止めてくれ。

 「お前なんかが好かれると思っていたのか?だとしたら、とんだ愚者だな。」

 止めて。

 「人間の中でも特にちっぽけなお前が俺を想っているとか。最高のジョークだ。」

 止めろ。

 「お前なんか誰も好きにならねぇよ。」

 お願い。

 「さっさと失せろ。」

 お願いだから。



 「俺のこと、嫌わないで。」

 決して少なくはない涙が零れ落ちた。

 右手にはスリープモードのスマホ、左手は頭の下、カーテンを引いていない窓には暗闇が映っている。どうやらスマホを弄りながら寝落ちしていたらしい。よろよろ起き上がると、途端に血液が流れて左手が叫びたくなるほどビリビリした。

 涙の理由である夢を見た原因は分かっている。二次創作サイトで、プレイヤーが好きなキャラに手酷く振られるシチュのマンガを読んだからだ。少し、いや、大分そのシチュエーションにショックを受けて、心の整理のために目を瞑ってそのまま夢の世界へご招待された。「夢の世界」、何故だろう、高くて短くて特徴的な笑い声のネズミが脳裏に浮かんだ。まぁそれはともかく。

 俺がオタクになったワケの1つに、義務教育時代のほとんどの期間に人間不信に陥る出来事があったからというのがある。お蔭様で今も軽い人間不信と低い自己肯定感を患っているが、その延長線上にはコンテンツが好きで、いくらかでも貢いでいればそのキャラを好きでいても許されるだろうとの思いがある。もちろん俺が貢献できる範囲などたかがしれているが。少なくとも、キャラは俺を否定しないで寄り添ってくれるし近くに居てくれる。オタクにしても、よほどの地雷だとかが無ければ、性別とか年齢とか関係なく同士になれる。詰まるところ居心地が良いのだ。だから、キャラを好きになって困った。現実世界で恋愛感情が湧いたことが無いのに2次元男子に恋したこともそうだが、果たしてこんな俺がこのキャラに懸想して良いものか。他の人には鼻先で笑われるような話だろうけれど俺は真剣にそう思った。でも、そう考える事こそ本気で好きな証だと思い直して今日に至っている。

 だからこそ・・・待ってなんか今日は句読点と接続詞が多いな。動揺し過ぎだ俺。そんでなんだっけ・・・・・・あぁ、そうそう。だからこそ、キャラに嫌われるのは想像もうそうとはいえ堪えた。頭をハンマーどころか建築業で使われる解体作業用の巨大鉄球でぶん殴られたようだった。先週肉ジャガを作った時に玉ねぎを切って出た涙の200倍は涙が出た。メンタルガタガタになった。

 やっぱり俺、本気でこのキャラが好きなんだな。嫌われたくない。大切にしたいしされたい。

 そう思うしかなかった。だって事実だ。自分がどんなに駄目人間でもポンコツでも、これは揺るがない。現実世界で散々痛んだのだし、折角の2次元なのだからわざわざ自分から痛める必要はない。もしキャラが俺を嫌っているようなら、それでも良いや。俺は変わらずコンテンツとキャラをオタクとして愛するだけだ。

 とりあえず、「二次創作閲覧は自己責任」。新たな教訓を胸に閲覧したお気に入りのプレイヤー愛され二次創作マンガは、溶けてしまうんじゃないかと心配になるくらい甘く感じた。

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