第十四恋 聖地巡礼者オタク君
「聖地巡礼」と言えば、一般的に思い浮かぶのは社会の教科書に載っているエルサレムの様子だろうか。神も仏も混ぜこぜの日本で生まれ育った俺にはピンと来なかったが、神聖なる土地に赴くことが信者としての誉れだと授業では習った。その後のテストでは「聖」の字でミスった失点者が多くてしっかり書けた側の俺は高みの見物をしていた。
それがおおよそ3年前の出来事。
現在の今この瞬間のnow。目の前には幻獣の擬人化学園コンテンツの舞台となった街が広がっていた。背後には、作中で何回も描かれたキャラクター達の旅立ちの象徴である駅。そう、オタクとしての「聖地巡礼」に来たのだ。え?連れ合い?あぁ、
まぁそれは置いといて。俺は最高にテンションが上がっている。コンテンツ自体の設定は海外と日本の学制の混ぜこぜだが、舞台というかモデルというかは日本に実在する街がほとんどだ。好きなキャラが入学初日に孤高に食事をしたレストランも、推しが同級生と一緒に夜の学園を抜け出して行った公園も、お気に入りのイベントストーリーの中心となった河川敷も、過去最高のボーダーを叩き出した神イベントの背景となった賑やかな一本道も、みんなこの街にある。そう思うと自然と脈拍が速くなった。
では早速。
邪魔にならない場所へ移動し、リュックからお手製のぬい2人を出した。駅が上手くフレームに入るよう位置に置いてパシャリンコ。うん、初めてにしては良い一枚。では次に行こう。駅から反時計回りに、賑やかな一本道、ゲーム上の地図では学園のある国立体育館、脱走者のお決まりの行き先である公園、賑やかな一本道に繋がる田んぼに囲まれた道、作中では精神の修業場となっているお寺、河川敷、学園者御用達の駄菓子屋、好きなキャラが食事をした少しお高いけど美味いレストラン、個人的に行きたかったグッズショップ、今のイベントの舞台である文具店。半日以上も徒歩のみでおおよそ3街間を動いたのでとんでもなく疲れているハズだが、ちっとも疲労を感じない。心はずっとワクワクしているし写真を撮る手は止まらない。自分の大好きな世界に自分も入れている。その事実にひたすら酔いしれた。
楽し過ぎる。というかもうここに住む。
ランナーズハイならぬ巡礼ハイになりながらも傾く夕日に「もう帰らなくちゃな。」と冷静な脳の一部が呟く。名残惜しいが、また来れば良い。そう考えて帰りの電車を調べ始めた。
帰りの電車内で写真を整理したが今日一日で150枚も撮っていて軽くビビった。折角なのでフォルダごと幹孝に送りつけると、鬼のように大量の泣いているスタンプが返ってきて少しして茶化すようなスタンプがポツンと送られてきた。何事かと思った瞬間「答え」が貼り付けられる。相変わらず人の脳内を読む能力には恐れ入る。貼り付けられたのは遠近法の関係で俺とぬい達が等身大でくっついているように見える面白い枠の写真。そこには落書きで「重婚」の2文字。もちろん俺が書いたものではない。
【俺は、あのキャラ以外とのカップリングは、未だ地雷じゃ、このボケナス!💢】
【wwwwwwwww】
全く、わざと地雷を踏んでくるとは。最悪か。心なしかぬいもファイティング顔をしているように見えてくる。
その後幹孝とのTALK喧嘩は俺が家の最寄り駅に着くまで続いた。
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