ボヘミティリア王国の大虐殺

※このエピソードにはグロテスクな表現、及び性的暴行の描写が含まれます。


ボヘミティリア王国で城守の名将カイナギンが討たれ、アルポート北軍の1万のソキン軍がボヘミティリア王国内に雪崩れ込んだ。


その情報がボヘミティリアの全区域に知れ渡ると、覇王の都は大混乱に陥った。


城壁の守備兵たちは皆戦うことを止め、逃げる当てもなく逃げ惑う。


「も、もうお終いだッーー!!!」


錯乱した兵士はそのままボヘミティリア城の城壁から飛び降りる。だがそんなことをしても救済などない。自ら赤黒の肉塊と内臓を巻き散らし、人の原型をなくした醜い物体となる。


その粉々となった同様の遺体は既に北側の城門にも溢れ返っていた。


ソキンは20門の大砲を城門に撃ち、瞬く間にボヘミティリア城へと繋がる深坑しんこうを空けた。するとすぐに標的を北城壁のボヘミティリア兵に合わせたのである。


「標準を城壁最上部に合わせろォッ!! ボヘミティリア軍を一掃せよぉぉッ!!」


そして20門の大砲が一斉に轟音を放ち、ボヘミティリアの城塞を吹き飛ばしたのである。長方形の石細工をいくつも積み上げた城の造形美は、見るも無残な抉れた岩の残骸となった。


そのきれいな四角形の形から、いくつもの尖った山脈となった歪な岩の上には、赤い帷幕いばくのように兵士たちの血が滴り落ちていていた。手がもげ、足が飛び散り、肋骨が肺と心臓を突き破る。肉のついた骨の棘が体の外に露出していた。ボヘミティリア兵たちの肉片が北の空で、赤い花火となってバラバラに飛び交ったのである。


だがその即死を果たせた兵士たちはまだ幸福だった。これから地獄をまざまざとまみえる、ボヘミティリア王国の50万人の生き残りに比べたら。そう、ユーグリッドはボヘミティリア王国の全ての者を虐殺することを全兵に命じていたのである。




そしてここはボヘミティリア王国のある民家の和室でのこと。アルポートの兵士たちが寄り合い話し合っていた。


「へへへっ、どうだ? お前どれくらい鼻が集まった? 報奨金どれくらいになると思う?」


「ああ、今の所1つ目の袋がいっぱいになった所だぜ。まあだいだい5金両ぐらいかなぁ。女も子供も、それから貴族っぽい奴も殺してきた。ほら、これがそいつが着てた服だ。血は付いちまったが、綺麗に洗ったらアルポートの商人にも売れるだろうぜ」


「へえ、そいつはいい考えだな! 俺も色々物をかっさばってる所だけど、やっぱり高そうなもんってのは重いもんばっかりだ。いくら略奪してもいいって命令が出てるっつっても、運び切れるもんじゃねぇ。


その点服は畳めばいくらでも袋に詰めるから身軽なもんだ。俺ももっと綺麗な服着てる奴を狙って鼻ごと剥ぎ取ってやろうかな?」


「ああ、綺麗な服といったら、俺は若い人妻の女を犯してやったぜ。キャーキャー猿みたいに泣き喚いててさぁ。まあ、事が終わったら、すぐ生きたまま鼻を削ぎ落としてやったけどな。そしたらまたギャーギャー気色悪い鳥みてぇな声出しやがってよぉ。一気に俺のモノも萎えちまったよ」


「ギャハハ、でもユーグリッド陛下はちゃんと全員殺すなら、領民に何をしてもいいって言ってたぜ。ありがてぇ話だぜ。俺みたいな貧乏武家じゃこんな時ぐらいしか金を稼げる機会なんてないからな」


「ゲハハハッ、俺はもっといい女を探してみようかな? 俺もこの戦争で相当我慢が限界になってんだ。今度は貴族の女がいい。次は女の股に剣を入れたらどんな声が出るか試してやろう」


「ギャーハッハッハッ! ボヘミティリアの奴らはみんな俺たちの玩具だぁ!!」


アルポートの兵士たちは下卑た笑い声を上げ合い、互いの成果について語り合う。


その兵士たちのすぐ傍には、はらわたを飛び散らした父親と息子、着物を乱し股ぐらを曝け出した母親と娘がいた。その一家は全員鼻を切り取られ、赤黒い半筒状の窪みを顔面に露わにしていた。その死体はまだ温かい。ちょうど炊事の支度を終えたばかりであり、兵士たちはそれを一家から奪い取りパクパクと食べている。


「ところでさぁ、今戦争ってどうなってるんだ? まだ終わって欲しくないなぁ。俺ももうちょっと今の状況を楽しみたいぜ」


「ああ、もう東西南北の4軍とも全部城に突入したって話だぜ。何でも城から脱走しようとした敵軍の奴がいて、勝手に城の門を開けちまったって話でさ。まあその城から逃げ出そうとした奴も今頃殺されてるだろ。


馬鹿なやつだ。城を開けたら目の前に俺たちアルポート軍がいるってのによ。そんなことも忘れて自分だけ助かろうとしてたんだ」


「ギャハハハハッ!! まあ、デンガダイの奴の領民にはうってつけの最期なんじゃないか? デンガダイは今まで散々アルポート王国から金を毟り取って奴隷みたいに扱き使ってやがったんだ。ボヘミティリアのクズどもが全員殺されるのも当然の報いってやつだよ」


「ヒャハハハハッ! そうだ、正義は我々アルポート王国にある! この掃討戦も全てはユーグリッド様のためだ! 我々はもっとボヘミティリアを殺さねば! もっと殺して俺はユーグリッド様の近衛兵にだってなってやるぞぉ!」


もはや山賊以下の慈悲すら失ったアルポート兵たちは残虐な談笑を続ける。飯を食い終わるとそのまま茶碗を壁に叩きつけて、次の虐殺と陵辱へと向かっていった。ボヘミティリア王国ではまた、新鮮な領民の悲痛な叫び声が響き渡る。




そしてその阿鼻叫喚の轟きは、ボヘミティリア王国の王城にも間断なく届いていた。


「ま、まさか・・・・・・カイナギンが殺されてしまうなんてっ!!」


玉座に座るデンガキンはもはや血色を失い恐慌していた。


それはボヘミティリアの文官の諸侯たちも同じであり、もはやボヘミティリアには戦場に出ることができる武官の諸侯はいない。アルポート軍に抗える力などとうに残っておらず、心の支えだったカイナギンという大黒柱を失い、既に顔から生気の色をなくしていた。


だがそれでもデンガキンだけはカイナギンに城主としての矜持を教わった記憶が残っており、一国を背負う臨時の王として最後の手段に出る決意をした。


「降伏しようっ!! 僕たちはユーグリッドに呼びかけて降伏するんだっ!!」


デンガキンはガバっと玉座から立ち上がる。だがその立ち上がった足は頼りなく、ガタガタと膝が震えている。


「む、無駄ですデンガキン様っ!! ユーグリッドは我々を皆殺しにつもりなのですっ!! 現にアルポート軍は今町中の領民たちを殺し回っており、ボヘミティリア王国はもはや血泥ちどろの海と化しているのですぞっ!!」


一人の臣下が悲鳴を上げるように主に駆け寄り、その無謀な決断を取り押さえようとする。


だがデンガキンは取り押さえる臣下の肩を貧弱な腕で押し返し、頑なとして意志を変えようとしなかった。


「止めてくれるなっ!! もう僕たちには戦う力が残されていない! 戦う力がないなら敵に降伏するしかないだろっ!! ここにはバウワー家の一族だっているんだ!! みんなを殺させるわけにはいかない!!」


デンガキンは普段の弱気な性格からは想像できないほど鬼のように形相を歪めて、必死にユーグリッドに服従を試みようとしている。


その鬼気迫ったバウワー家の四男の様子に、玉座の間に避難していたバウワー家の一族たちが不安な様子で行方を見守っている。


「僕は今一国を背負う城主として、このボヘミティリアの地を守らないといけないんだ! それがダイ兄上との、そして戦死してしまったカイナギンとの約束なんだ! お願いだみんなっ! ユーグリッドが今どこにいるのか教えてくれ!」


その当てに出来ない血を吐くようなデンガキンの願い入りに、臣下の一人がボソリと呟く。


「・・・・・・ユーグリッドは、今この王城の前に布陣を構えております」


その遠慮がちな言葉に、デンガキンはパッと表情に光を宿した。


「そうか、それなら話が早い! 何とかしてユーグリッドを説得しよう!」


デンガキンは飛びついてきた臣下を引きずるようにして玉座から歩き出す。


「な、なりませんっ! あの男は悪魔の王です! デンガキン様が城の外へ出たら、何をされるかわかったものではありません!! あなた様は死よりも恐ろしい目に合ってしまいますぞっ!!」


「どの道ここにいてもみんな死ぬだけだ! なら最後の最後まで希望を捨てずに僕は生きたいっ! それがバウワー家の一族としての、覇王デンガダイの弟としての誇りだっ! 例え僕の首を差し出してでも、この国の戦争を終わらしてみせるっ!!」


デンガキンの頑なな決意に、傍にいた臣下が大きく首を振る。


「ああ、何ということだ! あなたは今ご乱心なさっているのです! あんな凶悪な男のことなど信じてはなりません! どうか考えを改めなさってーー」


臣下が言葉を続けようとした時だった。


デンガキンは渾身の力を振り絞って臣下を突き飛ばした。


臣下は突然の軟弱な男の奇襲に、あえなく尻もちをついてしまう。


「うるさいっ! これは僕が決めたことだ! 今この国の王は僕なんだっ! みんな僕の言うことに従えっ! これは王の勅命だっ! 僕の降伏を邪魔するなっ!!」


そのままヨタヨタと足を振らせつかせながら、デンガキンは玉座の間から去っていった。


もはや臣下たちの誰もが主の無謀を止めることすらできないほど、悪逆無道のユーグリッドに腰の力を抜かしていたのだった。


(大丈夫だ。元々ユーグリッドは温厚な性格の持ち主だと聞く。よく話し合えばきっと軍を引き上げてくれるはずだ。僕はそれに賭けてみるっ)


そしてデンガキンは王城の外に出て、城壁の上へと立った。


周りにはもはや戦意を失った衛兵たちが案山子のように突っ立っている。剣や槍の振るい方すら忘れており、デンガキンの登場にも何の反応も示さない。


そんな部下たちの放心した様子にもデンガキンは脇目も振らず、王城から目を落とす。そこには確かに黄金の鎧の悪魔、ユーグリッド・レグラスが馬に乗って待ち構えていた。


「ユーグリッド、聞いてくれっ!! 僕たちは降伏するっ!! この戦争は君たちの勝ちだっ!! 僕たちにはもう戦う力は残っていない!!」


デンガキンは喉を枯らせながら、城壁の上からあらん限りの力で降伏の宣言をする。


馬上のユーグリッドはなおも弓の届かない位置におり、ゆっくりとその無抵抗な男の顔を見上げる。


その遠くにいる若いであろうアルポート王の表情はデンガキンには見えない。どんな恐ろしい形相で自分を見ているのかもわからない。だが、自分たちの命を繋ぎ止めるためには叫び続けるしかなかった。


「このボヘミティリア王国は君たちアルポート軍に明け渡す!! 金も領民も物資も兵も、全部君たちアルポートのものだ! だからもう領民や兵たちを殺すのはやめてくれっ! 君だって自分のものになる人財を無駄にはしたくないはずだ。彼らを君のためにどんな風に使ってくれたって構わない。だからもう彼らを殺すような真似はやめてくれっ!!」


ユーグリッドは天空を見上げたまま動じずにいる。その瞳が今デンガキンを見つめているのかどうかすらわからない。デンガキンの叫びが本当に届いているのかすら定かではない。


だがデンガキンはこの国の命乞いをする。兄たちが帰ってくるはずのこの故郷を差し出し、ボヘミティリア王国を生き永らえさせようとする。


「き、君たちがダイ兄上を憎んでいることは知っている。だ、だから、ぼ、僕たちバウワー家一族はみんなこの国から出ていく。テレパイジ地方から出て行き、二度と君たちアルポート王国の前に姿を現さないと約束する。


も、もしそれでも君の気持ちが収まらないというのなら、ぼ、ぼ、僕の首を差し出しても構わない。だから頼むっ、ユーグリッドっ! 僕たちボヘミティリア王国の降伏を受け入れてくれッ!!」


城壁の石の欄干らんかんを両手で握り、デンガキンは深く勢いよく頭を下げる。体の震えと汗が止まらず、持病の心臓の発作も再発している。だがここで倒れるわけにはいかない。ここで倒れたら、二度とユーグリッドに降伏する機会など得られないのだから。


灰色の馬に乗った黄金の王はデンガキンの平伏する頭を見上げている。ガタガタと震えて何も反抗できないこの国の臨時の王の様が、この遥か地獄の底にある地上からでも見て取ることができる。そして地獄の淵の釜を開けるようにして、アルポート王は審判を下した。


「ならんなぁッ!! 俺はデンガダイを倒すためにここまでやって来たのだ!! 俺は今日ここで、貴様ら全員を皆殺しにするッ!!」

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