1-22 「証拠は全て出揃った」
エンジンルームにはアイさん、イアさんの二人の姿があった。
事件の調査をしているのかと思い声をかけるが。
「調査って言ってもウチら、何していいか分からねえヨ」
「調査はパスして、ウチら調べものをしていたんだゼ」
どうやらエンジンルームで彼女たちは別の事をしていたようだ。
「調べものって何ですか?」
「「教えてやらないヨ!」」
「なっ、なんでですか」
私は双子の返答に面食らう。
「今は事件調査の最中ですよ。ふざけている場合じゃないんです」
「なんでって言われても、それはトウ……ああ、なんだ。とにかく秘密なんだヨ」
「今回の事件とは関係ないことだから追求するんじゃねえゼ」
めちゃくちゃに怪しい態度ではぐらかされる。
もう、ミーティングまで時間がないのに。
……しかたない。今は二人に構っている場合ではないか。
「二人は重力装置の仕様に詳しいですよね~。使い方を教えてもらいたいんです~」
メリーさんが本題を切り出す。
「重力装置の使い方? どうしてそんな事がききたいんだヨ」
「今回の事件には関係ないよナ?」
「とにかく、教えていただけませんか」
「まあ、いいけどヨ」
「そんなに難しい物でもないゼ」
私が強引に尋ねると二人は了承してくれる。
私たちは重力装置の前に移動する。
重力装置はコンソールを用いて操作するようだ。
コンソールには左右へスライドできるつまみと、各階の見取り図が示されたタッチパネルが並んでいる。
「まず重力を変えたい部屋をタッチパネルで指定するんだゼ。指定した部屋は緑から赤色へと変わって、これで重力を操作できる状態になったゼ」
「重力を変えるにはこのつまみを横にスライドするヨ。設定できるのは地球と同じ状態の『1G』、半分の『0.5G』、そして無重力の『0G』の三段階。細かい設定や、今より重力を増やすことはできないみたいだネ」
双子は実際に装置を示しながら説明してくれる。
「0.5Gの重力と言うとどのくらいの物なんでしょう」
「体重が半分になるんだゼ。変化すれば確実に気づくレベルだヨ」
「普段よりも足に踏ん張りが利かないから慣れないと動きづらいナ」
そういえば、ここでの一日目。
キラビさんも重力装置の影響を受けてアイさん達に抗議に来ていたっけ。
あの後、キラビさんの部屋を覗いて物が浮いている様子も無かったからあれは0.5Gでの影響を受けていたのだろう。
重力の変化があれば確実に気づくことができそうだ。
「お二人ともありがとうございます」
「機械のことならウチらに任せなヨ!」
「ここの機械もウチらで弄れるようになってやるゼ!」
サムズアップする二人を残し、私たちは部屋を出る。
「これで事件に関係ありそうな所は一通り見て回りましたかね」
私は各部屋を見て回って集めた情報を記した日記帳を見る。
コロリくんの移動の謎、殺害現場の状況、皆の証言。
私はそれらの情報から一つの推測を導き出していた。
でも、未だ確証はない。
「そろそろレインさんを起こしに行きませんか~。皆で集まる前にレインさんにも事情を説明しておかなければいけませんよ~」
「そうですね。いきましょう」
皆で生き残るためには絶対に犯人の指定を間違うわけにはいかない。
一度レインさんにも情報を伝え、私の考えの正否を確認しておきたかった。
私はメリーさんと共に医務室へ移動する。
*
「そんな。僕が眠っている間にそんなことが……」
医務室に着くと、ちょうどレインさんが起きたところだった。
私からレインさんへコロリくんが殺されたこと、そして今からその犯人を当てるミーティングが開かれることを伝える。
レインさんはショックを受けた様子で、顔をうつむける。
「それで、犯人は分かったんですか?」
「まだわかりません」
今のところ、皆から疑われているのはアリバイがはっきりしない私達三人だ。
このままではミーティングで犯人として指名されるのは私たちの中の誰かになるだろう。
他の人を疑うことはしたくないが、皆で生き残るためにも正しい犯人を見つけなければならない。
「今朝の九時、私は寝てしまったんですけどレインさんはその後どうしていましたか?」
「残念ながら僕もカスミさんが眠った後すぐに眠ってしまったように思います。これではカスミさんのアリバイを証言できませんね……すみません」
「いえ。レインさんが謝ることないですよ。むしろ怪我人でもない私が寝てしまった方が問題です。レインさんの無実を証言できず申し訳ありません」
「私も早く医務室に戻っていればお二人の無実を証言できたのですが、すみません~」
「皆で謝り合っていてもしょうがないですよね。アリバイが証明できないのなら別の切り口を考えましょう」
互いに謝り合う私達。
レインさんが話を切り替える。
「今回の事件。鍵はコロリくんがどうやって二階へ移動したのか。そして僕たちが無実だとするのなら誰が犯行可能だったのか」
「私、思ったんですが~、アリバイ証言で嘘をついている人がいるんじゃないでしょうか~」
メリーさんは首元の白いファーに触れながら思案げに声を出す。
「それは犯人が嘘をついているということですか?」
「いえ、それだけではありません~。例えば、トウジさんとサイネさん。二人は夫婦ですよね~。仮に片方が犯人だとすれば相手を庇うこともあるんじゃないでしょうか~」
「そ、そんなこと」
トウジさんやサイネさんに限ってそんなことはない……そう言おうとした私の口は、けれども言葉を続けられない。
まず、誰かが殺人を犯したということ自体が異常なのだ。
犯人を庇うために嘘をついている人だって、いるのかもしれない。
「あとアイさんとイアさん。彼女たちも双子で家族です。相手を庇う可能性があるのではないでしょうか~」
「ですがグレイの提示したルールでは犯人が勝利した場合、ここから出られるのは犯人一人のはずです。協力者は罰を受けることになる」
「夫婦に、双子。特別な関係性にある人同士であれば殺人を犯した相手であっても庇おうとする可能性はあります~。それが例え、自分の身を犠牲にすることになっても」
メリーさんの真剣な言葉に私は納得してしまう。
ここのメンバーは基本的に赤の他人同士だ。
しかし二組だけは違う。
トウジさんとサイネさん、アイさんとイアさんの組み合わせはお互いを庇っている可能性がある。
このことは念頭において事件を考えるべきだろう。
「二人とも聞いてください。私、事件の真相が分かったかもしれません」
私は今まで手にした証拠から組み立てた推理を二人に聞かせることにした。
ミーティングでこの考えを伝えるということは、この人が犯人だと名指しする行為だ。
それが間違いであったで済まされるものではない。
私たちが皆で生き残るためにも間違いがないように二人にも私の考えを聞いておいてもらいたかったのだ。
「――と考えているんです。お二人ともどう思いますか」
私の問いかけに、二人は難しい顔をする。
不安な気持ちで二人の返答を待っているとレインさんが先に口を開いた。
「僕はカスミさんの考え、正しいと思います。確かに確証は持てませんが、もし違った場合でも反論が出てくるはずです。それが正しい犯人を突き止めるのに必要な事かもしれません」
「私も賛成です~。カスミさん。私も議論、お手伝いしますから一緒に頑張りましょ~」
「……はい!」
私はあえて明るく返事をする。
腕時計を見やると事件発見からちょうど一時間が経とうとしていた。
ミーティングルームに集まる時間だ。
「行きましょう」
レインさんにはメリーさんが肩を貸し立ち上がる。
私は決意を胸にミーティングルームへ向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます